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”なにも無い”が最大の武器になる 柳家勧之助

こんにちは!note更新担当のたぬ子です。

今回は、八幡浜市出身の落語家 柳家勧之助やなぎやかんのすけさんに、落語のおもしろさや、落語家として気をつけていることについて、伺いしました。

[プロフィール]
■氏名
 柳家 勧之助(やなぎや かんのすけ) 
■ジャンル
 伝統芸能(落語)
■経歴
 1981年 愛媛県八幡浜市に生まれる
 2003年 愛媛大学を中退、上京し、柳家花緑に入門。
      前座となる。前座名「緑太」
 2007年 二ツ目に昇進。「花ん謝」に改名。
 2018年 真打昇進。「勧之助」を襲名。

 都内の寄席を中心に活動。また自身の独演会を全国で開催中。
 初めて落語を聴く人にも分かりやすく、子どもからご年配の方にまで楽しんでもらえる講座を務めています。
■SNS
 ・Twitter

偶然の出会いが、それからの人生を変えた

写真提供:柳家勧之助

― 落語家を目指されたきっかけを教えていただけますか。

 大学で落語研究会に入ったんです。
 特に落語がやりたくて入ったわけではなく、友だちの付き添いで入会したので、落語のおもしろさを知ったのは、研究会に入ってからでしたね。
 でも、当時はあくまで落語を使って遊んでいるという感じでした。

 そういう経緯で始めた落語ですが、二十歳ハタチの時、たまたま松山市民会館にうちの師匠(柳家花緑)の公演を聴きに行って、一瞬で惚れました。
 その時、プロの落語を初めて生で聴いたんですけれど、恋愛の一目惚れみたいな感覚で「この人のそばで、ずっと生きたいな」と、思いましたね。
 それがきっかけで大学を辞めて、半年後には上京して弟子入りしました。

― 上京後の弟子入りは、一度で了承されたんですか。

 そうですね。
 上京して師匠に会うために、出待ちをしてたんですけど1週間ぐらい会えなくて、やっと会えた時に「大学辞めて来ました!」って、話をしたら「それだけ覚悟があるなら、弟子にする」って、割とすんなり了承してくれましたね。

”なにも無いこと”が最大の魅力

写真提供:柳家勧之助

― 落語の魅力を教えていただけますか。

 落語は、想像の芸能なんですよね。
 舞台上には、なにも無く、あくまで一人の落語家が座って喋るだけ。
 なにも無いからこそ自由に表現できるから、宇宙にだって行けるし、江戸時代の武士や殿様にもなれる。
 そして、全ての情景をお客さんの想像力に委ねるから、お客さんの想像の中で、シーンが無限に広がる可能性があるんです。
 これは、落語ならではの強みですね。

― では、思い浮かぶ情景がお客さまによって異なるんですね。

 落語の中で、“固有名詞を出さない”というルールがあります。
 例えば「向こうから、石原さとみみたいな人が歩いて来たよ」と、言ったら頭の中には石原さとみが出てきますよね。
 落語はそうではなくて「向こうから、イイ女が歩いて来たよ」と、言うだけで、お客さんがそれぞれの”イイ女”を想像してくれます。
 だから同じ噺を聴いているんだけれど、お客さんは全員描いている男像・女像や情景、年齢がそれぞれ違っているという。

 情報を最低限にしか与えないということですね。
 最低限の情報だからこそ、最大限にお客さんが想像できるというか。
 同じ噺でも落語家によって印象が違うので、そこもおもしろいところですね。

暮らしの余裕で成り立つ商売

写真提供:柳家勧之助

― コロナ禍で寄席などに大きな影響があったと思いますが、コロナ禍を経験して、変化したことや気付いたことはありますか。

 コロナで我々は、何ヶ月間も仕事が無くなったんですよね。
 東西の落語家全員が、1日も仕事が無くなってしまった。
 だから、”お客さんが当たり前に目の前に居た”という状況が、ありがたかったんだということが身に染みて分かりましたね。
 お客さんが居るというのが当たり前の状況で、入門して今日こんにちまで至ったんですけれども、コロナ禍ではお客さんが誰もいないんですから。

 あと、落語というのは「弱い商売だな」と思いました。
 お客さんは、生活の余白の部分で落語を聴きに来てくれていて。
 実際、落語を聴かなくても生活していくことはできますよね。リラックス効果はあるかもしれないですけれど、社会の仕組みの中で絶対に必要な職業かと言われると、そうではない。
 だから、コロナで社会がひっ迫して、生活に余裕がなくなってしまうと、落語の需要は無くなるんだなと。
 人々の暮らしは「落語が無くても成立するんだな」と、痛感しました。

落語初心者のススメ

写真提供:柳家勧之助

― 落語初心者は、まず何から始めるといいですか。

 可能ならば、実際に生で聴くということに尽きるんですけれど、なかなかそういう機会は、無いですからね。
 でも、今はYouTubeがありますから、いつでも誰でも簡単に、落語を聴ける時代になっていますよね。
 だから、そういう取っつきやすいところから、始めるのがいいと思いますよ。

 あと、落語をあまり聴いたことのない方は、演者との相性が大きいと思うんですよね。
 落語って、分かりやすくやる方と、何度も聴いて理解してくれって方がいらっしゃるので、演者選びによっても印象が随分違ってきます。
 いきなり、古めかしいおじいちゃんの落語を、聴いてしまったら「分かりづらいな」って、なっちゃうと思うので、40~50代ぐらいの落語家から聴いてみるのが、分かりやすいかなと思いますね。

伝わることが大事な芸能

写真提供:柳家勧之助

― 落語は伝統芸能ですが、時代に合わせて変化しているんですか。

 変化していますね。
 落語は、江戸時代から始まっているので、当時の言葉遣いだと現代では全く通用しないんですよ。
 大正時代の落語も、音源で残ってはいるんですが、言葉の意味やイントネーションが違うので、外国語みたいな感じで何を言っているのか分からないです。
 昭和初期になると、少し聴きやすくなって意味は分かるんだけれども、それでも2~3割は何を言ってるか分からない。
 それだけ、時代に合わせて言葉遣いや表現を常に変えているってことですよね。
 落語は、言葉が通じないと意味がないですから、時代に合わせて変化しながら、今まで生き残ったんでしょうね。
 ここ何十年かでも、時代に合わせて置き換わっていますね。

― 落語家さんが、それぞれ置き換え始めるんですか。

 個人の判断で少しずつ変えて、それがやがて浸透する。
 それを、次の世代が変えていくというのを、何百年もやっている芸能ですね。
 最低限、話の筋というものは守るんですけれども、表現はある程度任されているというか、自由ですよ。
 落語の根本は笑ってもらうことなので、いつの時代も、分かりやすさを1番大事にしてるんじゃないですかね。

10年経って、ようやく直ったイントネーション

写真提供:柳家勧之助

― 愛媛から上京されて、イントネーションや方言で苦労しましたか。

 イントネーションを直すのが、1番苦しかったですね。
 イチから直す必要があるので、小学校低学年みたいな授業を師匠にさせられましたね。日常会話から徹底的でした。

― 今では、頭で考えずに標準語のイントネーションでお話されていますか。

 今は、ある程度矯正されたと思うんですけれど、東京に来て4~5年のうちは、標準語と愛媛の訛りが入り交じった、めちゃくちゃな落語だったでしょうね。

― 落語をする上で、方言やイントネーションは絶対に直さないといけないんですか。

 江戸落語をやる上では、訛りを厳しく直されますね。
 日常会話で、何か喋るたびに「ちょっと違う。もう1回言って」というのを、3~4年やるわけですよ。それで、マシになってきたってとこですね。
 そこから10年ぐらい経ってようやく、今はそこまでは訛ってないかな。

お客さんの様子に合わせた、演目選び

写真提供:柳家勧之助

― 公演中に気をつけていることや、大切にしていることを教えてください。

 我々は”お客さんがどれだけ楽しんで帰るか”に、最善を尽くすだけですね。
 お客さんって、日によって、場所によって、年齢層によって、いろいろ違いますから。
 だから落語をやる前に10分ぐらいの小噺で、笑いやすいのか、内気なのか、陽気なのかって、お客さんの反応を探ってから演目を決めています。
 大人しい方たちだったら、笑わせるということよりは、涙ポロリの人情噺をやって。とても笑ってくださる陽気な方たちだったら、逆に静かな怪談噺をやってみるとか。
 落語家って、だいたい100個の噺が出来るんですけど、その時のお客さんの様子に合わせて、100個の噺からどれを選ぶのかという、演目選びに1番気を遣います

― お客さまに向かって話しながら、頭の中ではフル回転で考えてるってことですよね。

 舞台上では客観的な自分と、喋ってる自分という2つが上手く分離していますね。これは経験で、無意識にできるようになってくるんですよ。

愛媛県各地での落語会!

写真提供:柳家勧之助

― 今後、愛媛でやっていきたいことを教えてください。

 ほんと決まってないんですよ。
 八幡浜での公演も、今までは自分が主催でチケットの販売や受付、ホールの手配とかをうちの両親や自分たちでしていて。やっと昨年から、八幡浜市にスポンサーになっていただけました。
 それだけ東京に住んでいて、地元で落語会をやるということは難しいんですよね。真打になってからは、八幡浜以外の愛媛公演できていないですし。
 それまでは、大学の先輩だったらくさぶろうさんが、よく声をかけてくれて、愛媛県内いろんなところへ伺ったんですけれどね。
 だから、ちっちゃな会でもいいから、将来的に愛媛のいろんな市町で落語会をできるといいですね。

絵しりとり めだま ⇒ ま○○○○

今回は、オンラインでインタビューを行ったため、イラストを送っていただきました。
大きな福を招いてくれそうな、可愛いイラストですね。


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