見出し画像

WISHING 11/24/23 遺伝子編集治療競争の幕開け

CRISPRとして知られる遺伝子編集技術は、DNA配列を切断し修正するために使用できる分子ハサミのような働きをするものである。

ジェニファー・ダウドナとエマニュエル・シャルパンティエが、バクテリアの免疫システムを遺伝子編集の道具として利用する方法を発表してノーベル化学賞を受賞してから3年という極めて短期間で、その技術は科学ジャーナルの一記事から医療現場へと急速に移行した。

遺伝子編集法CRISPRによる鎌状赤血球症とその関連疾患であるベータサラセミア(※)に対する治療薬Casgevy(キャスジェヴィー)が、英国で承認され、12月には米国で承認される。CasgevyはCRISPRを利用してDNAを切断し、代替型のヘモグロビンを生成する遺伝子を活性化させる。

製造元は、バーテックス・ファーマシューティカルズ社(ボストン)とCRISPRセラピューティクス社(スイス)。

12月下旬には、ブルーバード・バイオ社(マサチューセッツ州)による別の鎌状赤血球遺伝子治療が承認される見込みである。この治療法は遺伝子編集には頼らず、ゲノムに新しいDNAを挿入する方法を用いる。

※鎌状赤血球症は、赤血球中の酸素運搬成分であるヘモグロビンに異常が生じる遺伝子の欠陥によって引き起こされる。細胞自体が奇形となり、激痛のエピソードを引き起こす。主に黒人とヒスパニック系の約10万人のアメリカ人がこの病気にかかっている。ベータサラセミアでは、遺伝子の欠陥により赤血球中のヘモグロビンが不足する。

Casgevyの治療対象は、12歳以上で年齢制限はない。

ブルーバード社のベータサラセミアに対する遺伝子治療薬は一人当たり280万ドル(4億2千万円)、バーテックス社とCRISPRセラピューティクス社のものも同様に、一人当たり数百万ドル(数億円)になる見込みである。

現在、バーテックス社は5歳から11歳の小児を対象に鎌状赤血球治療の治験中である。

初の治験患者は、2019年に33歳の時に治療を受けており、症状が完全に消え、彼女にとって、それは人生の新しい始まりを意味した。

遺伝子編集は、遺伝子医学と細胞医学を包括する、より広範な治療革命の一部である。私たちがよく知っている錠剤や注射は、一般に病気を治療するために体内のタンパク質や経路を標的としている。遺伝子治療や細胞治療では、病気の根本的な原因をターゲットにすることができるようになり、時には患者を治癒に導く。

塩基編集やプライム編集などの新しい遺伝子編集技術がヒトでの研究を進めていく中で、このような規制当局の承認はスタートに過ぎず、医学の転換点になるだろうと言われている。

1920年ごろの最初のインスリン治療も極めて高価だったことを考えれば、こうした画期的治療薬の価格は普及するにしたがい低下していく。

イーライ・リリーといった大手製薬会社もこの争いに加わり始めた。

Casgevyはex vivo療法と呼ばれる方法である。患者から細胞を採取し、製造施設に輸送し、研究室でCRISPRを使って遺伝子操作を行い、病院に輸送する必要がある。重要なのは、細胞を再注入する前に患者が化学療法を受ける必要があることで、不妊症の原因となるリスクがある。

一方、in vivo(生体内)CRISPR療法と呼ばれる方法では、患者から何かを一旦取り出してから再び戻すのではなく、患者に直接投与すれば終わる。細胞を採取する必要もなく、輸送する必要もなく、研究室で操作して輸送する必要もなく、重要なことは化学療法や不妊のリスクもないことである。インテリア社は、生体内治療で最も進んでいる企業である。後期段階治験中の薬は、患者に直接投与され、肝臓の特定の遺伝子をノックアウト、編集するシンプルな点滴療法である。

長期的には、遺伝子編集治療がその可能性を広げるには、より届きにくい組織や臓器に到達する方法を見つける必要がある。それは癌とアルツハイマー病である。
例えば、CRISPRを使ってその素因となる遺伝子を変化させる。認知症になる前の早い段階でそれを行うことで、遺伝的にアルツハイマーになりやすい体質を持つ人々を守ることができる可能性がある。

世界の遺伝子編集企業には時価総額が高い順に、CRISPRセラピューティクス、インテリア・セラピューティクス、ビーム・セラピューティクス、エディタス・メディスン、ヴァーヴ・セラピューティクス、プライム・メディスン、カリボウ・バイオサイエンシズがある。 

(1204)

(1205)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?