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トロッコ日記2 研修なるもの 1 

 さて、晴れてメディアグループの某新聞社の大阪本社で記者(汽車)には程遠いトロッコとして、一歩を踏み出したワタシ。最初は一般の企業と同じく、新入社員らが参加する研修に放り込まれました。総務局の人事担当者が世話係となって、全ての新入社員が合同で編集局(取材記者やカメラマン、紙面レイアウト担当、校閲担当など)、営業局(主に紙面広告を担当)、販売局(新聞販売店の担当)、制作局(紙面印刷の担当)、事業局(主催イベントなどを担当)といった各部局のお仕事について順に、お偉いさんからの説明を聞く座学スタイル。これで一通り、新聞社の仕事の内容とは「こんなものか」と分かったような気になっていた感じです。
 ちなみにワタシの所属していた新聞社の組織や役職の階層についてふれると、新聞社のトップは代表取締役の会長と社長が東京本社に常駐しており、大阪本社は専務や副社長クラスの「大阪代表」という役員が管掌。その他の取締役もそれぞれ、編集や販売、事業、広告、関連会社などを管掌する役割を担っていました。そして、東京と大阪の本社にそれぞれ、前述の編集局、営業局などが存在し、取締役の直下の各執行部門(局)のトップとしてそれぞれに局長という存在が君臨していました。ワタシが配属された大阪本社の編集局では編集局長がトップであり、大阪本社発行の紙面全体の統括責任者です。その下に3人程度の局次長が存在し、ローテーションでその日の発行紙面のニュースの構成や内容を決定し、紙面発行を執行する「編集長」の業務を担います。そして、その編集局の中には社会部、政治国際室(東京本社の政治部と外信部のカウンターパート)、経済部、運動部、文化部、写真部、地方部(地方支局を統括)、整理部(紙面レイアウト)、校閲部(語句のチェックだけでなく、事実関係の確認も)などの各部があり、それぞれの部長が部員らににらみをきかせていました。
 まあ、そうしたことは新聞社で働くうちにおいおい分かってくるのですが、全体研修を終えると、いよいよ配属先の各局に分かれての研修です。と、その前に新聞社を含むメディアグループ全社の新入社員が東京で一同に会して参加するグループ研修というのがありました。確か2泊3日ぐらいの日程だったと思いますが、ワタシはお上りさん気分でウキウキする思いを抑えきれませんでした。そのメディアグループというのは実は、目玉マークで一世を風靡したあそこです。うろ覚えですが、当時東京の河田町にあったテレビ局に集まり、グループ全体を統括する議長らお偉いさん方のありがたいお話を聞いたのではなかったでしょうか。グループ各社はテレビ局や新聞社以外にもラジオ局あり、出版社ありと多彩。グループ研修ではそうした各社の新入社員らをシャッフルした混合チームが編成され、抽選で引き当てたコースに従ってグループ各社の関連施設をそれぞれ巡るというオリエンテーリング的なミッションが課されました。あるチームは当時、新宿にあった「スタジオアルタ」で昼に放送中のタモリ氏の人気番組を見学できるコースに当たり、大喜び。別のチームは羽田空港の格納庫の施設に向かうコースを課されて、がっくりといった具合。
 ワタシのチームはというと、当時銀座にあったアート系映画館「シネスイッチ銀座」で上映中の映画「モダーンズ」を見るという、なんとも嬉しいコースでした。ただ、1920年代のパリのカフェを舞台に芸術家たちの姿を描くこの作品。展開がダルくて、睡魔に襲われました。この稿を書くために改めて調べるまで、あらすじも全く覚えていなかった始末です。当時大ヒットしたチャイニーズマフィアを描いた映画「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」や清朝最後の皇帝、溥儀を描いた「ラストエンペラー」で女性に大人気のスター、ジョン・ローンが出演していたのに、なんとも残念なできばえでした。ジョン・ローンって、若い子はもう知らないだろうな。最近はどうしてるんだろう?
 映画のことはさておき、このグループ研修での淡い思い出は、同じチームになった某ラジオ局のアナウンサー採用の女の子、Mさん。美人なのに気さくで、関西の田舎者のミーハーなトロッコであるワタシはすっかり参ってしまいました。グループ研修の最終日には新入社員全員で、これも関連会社の施設である箱根彫刻の森美術館に出向いて散策。このときのワタシはというと、Mさんにしきりに話しかけ、一緒に写真を撮ってもらったりと、無謀にもアタックし続けたものです。心優しき彼女の笑顔に癒やされ、勝手に「東京と大阪の遠距離恋愛だしなあ」と妄想を膨らませたワタシは泣く泣く、帰阪の新幹線で東京を後にしました。この時撮った写真はMさんの勤務先に送ってあげたので、何度か彼女と手紙のやり取りがありましたが、自然消滅。彼女は今やそのラジオ局のベテランアナとして活躍のようで、嬉しい限りです。

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