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【小説】禍/小田雅久仁 感想

駅のホームの向かい側に、
つい昔の思い人の面影を探してしまう。
こんな所にいるはずもないのに。
そんな気持ちで、
最近の「世にも奇妙な物語」を観ています。

◇◆◇

1話目は人気の若手俳優を起用した、
内容がうすいホラー(大抵主人公が死ぬ)

2、3話目でちょっとコミカル系か、
本当に要らないんですが感動系をはさみ、

4話目で本命をもってくるがイマイチ印象に残るものはない…。(そしてCMを挟むごとにチラつく、事前にネットでばら撒いた案件の消化)

最近このパターン多過ぎやしませんこと!!!?
飽きましてよ!!!!




規制で縛られ1990年代ばりの名作が出ないのは分かってはいるのに、毎度「今回こそは・・・」と勝手に一縷の望みをかけずにはいられないんですよね。そしてまた無駄な時間を過ごしてしまったという後悔。

でも、かつて洒脱や機知に富んだストーリーや、頭から離れなかった後味の悪い話、不条理さがクセになる世界観で夢中にさせてくれたのもこの番組だったわけで。


期待と失意のくりかえしで、
枯渇しひび割れた「世にも奇妙な」魂。
その飢えをたっぷりと、
潤してくれる作品に出会いました。


◇◆◇

あらすじ

「俺はここにいると言ってるんだ。いないことになんかできねえよ」。恋人の百合子が失踪した。彼女が住むアパートを訪れた私は、〈隣人〉を名乗る男と遭遇する。そこで語られる、奇妙な話の数々。果たして、男が目撃した秘技〈耳もぐり〉とは、一体 (「耳もぐり」)。ほか、前作『残月記』で第43回吉川英治文学新人賞受賞&第43回SF大賞受賞を果たした著者による、恐怖と驚愕の到達点を見よ!

Amazonより


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個人的満足度

★★★★★★★★★☆(9)

なんちゅうもんを見せててくれたんや
こんな巧い話は見たことない
いやそやない、
何十年か前に見たような記憶がある
巧い ほんま巧い

思わず山岡はんの鮎をカス呼ばわりした御人になりかけましたけど、始終そんな昂りを感じながらの読書でした。いやぁ、楽しかった。

内容としては「ダークで怪奇なSF短編集」といったところなのですが、
ほとんど人類が滅ぶであろう結末で幕をとじるので、万人にオススメできるかと言われれば、絶対にNO。場合によっちゃ人間性を疑われる。

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緻密で陰湿、
べったりと目が離せない読み心地


まず特筆しておきたいのが、作者さんの圧倒的な「読ませる」文章のテクニカルさ。


正直、決して読みやすい文章ではない。

語り口は文芸作品のような重厚さで、シンプルさとは程遠い雰囲気。
各話主人公らは正直お友達にはなりたくないタイプの陰気っぽい思考の持ち主が多く、もちろん出会う不可解な出来事はハッピーの真逆を行く。

句読点は少ないし、本のフォントもくにゃりと潰れて、「文字と文字の間隔がせまめ」な設定をかけているかのようだ。(雰囲気にめちゃくちゃ合ってるので編集の名采配だと思う)

それでも、目は文章を追い続け、
手はページをめくるのを辞められない。
なんという吸着力の高い、人を夢中にさせる文章なんだろう。

続きが気になって、一気に読み上げてしまう魔力があるし、一章終えたとしても「ふぅ、ひとやすみしよ」という気にならない。

読めば読むほど、もっと欲しくなってしまう、
中毒性を秘めた一冊なんです。
正直、こんな禍々しさMAXの表紙の本にかじりつきだった私を、旦那はどんな気持ちで見ていたのか。
リアルなホラーが身近に爆誕。


◇◆◇

題材の生々しさ、
不可解なあたらしさ

この作品群は、各話のモチーフが「身体の一部」であることが共通事項。
「目」「鼻」「口」「耳」「肉」「髪」「皮膚」
並べるだけでなんか生々しいし、読後の影響もあって気色悪くすら感じてしまう。

どれも身近すぎるというか。
誰もがあたりまえに持ってる器官で、内臓のように隠れてるわけじゃないから、リアルに感知することができる。
当然話の中でおきている出来事も、
自身を重ねて想像しやすい

ところで、自分はホラー慣れしてるはずなのに、
どうも克服できない苦手なパターンがありまして。
それは「目」が傷つくシーン。

呪術廻戦の野薔薇ちゃんみたいな、頭パーンからの目玉が転がってる系は平気なんですが、
尖っているものがだんだん近づいてくるシーンは直視できないし、紙でシャッと切れたりしたらどうしよう、なんて想像をしては勝手に震えてたものでした。


外界と接するフロント器官でありながら、
内臓っぽさも備えているところ。
そこが傷つくことに、得体の知れない不安を感じてしまうんでしょうね。
なんなら高校の授業で豚の目を解剖したことがあり、角膜の硬さは身をもって知っているはずなのに。

(バット一面に並べられた目玉に皆騒ぎまくっていたけど、数十分後には誰もが一心不乱にナイフを動かしていたっけ。切れそうで意外と切れないだよね。)


きっと誰しも、身体への畏怖はあるはずなんです。

口の中を機械が蹂躙していく得体の知れなさに、大人でも歯医者が嫌いな人は結構多い。
ピアス穴から伸びてきた謎のヒモの都市伝説が世間を騒がせたのは、耳たぶから神経が出てきてしまうかも知れない恐ろしさにあると思うし、
宇宙人やモンスターがヒトに寄生するシーンが大抵気色悪いのは、顔のどれかの穴に、モノが侵略してくる嫌悪感があるからでしょう。

体内へものをとりこむ器官だから、
壊れたらもちろん困し、害があれば排除したい。
その恐怖は、おそらく生命の防御装置的な役割が占めてると思うんですが。
そこを媒介して起きる不穏な出来事に、人は否応にも嫌な気持ちを感じずにはいられないから、怖いんだろうなぁ。



恐怖といえば、この本にはほとんどオバケは出てこない。
血しぶきや直接的な死の表現もほとんどない。
それでいて実はこの本、先日紹介した「このホラーがすごい」で一位だった作品でもありまして。


なんかそれもう逆に凄くないですか。
ホラーを飾る代名詞みたいな存在がスッパ抜けてるのに、どれも実際に起きたら絶対に怖い。


なにがどうなるから怖いのか、実際に読んだ方がインパクトあるしネタバレなので伏せますが、その不条理さに、作者の頭はどうなってんだ!とビビるのは確か。
血も霊もないんだよ。世界は滅ぶけど。

世界観のダイナミックさ、それでいて隣のうちで起きてそうな現実感。
不釣り合いな要素のバランス感覚が絶妙で、そのあたらしさ・おもしろさが本書の醍醐味だと思います。

身近な切り口から流れ込んでくる、
リアルな異変は脳に効く。

生きて腸に届く乳酸菌の亜種か?

◇◆◇

リズミカルな話の順序も秀逸

こんなハイカロリーな読書体験でも一気読みしたくなるのは、文章の巧さに加えて、作品の毛色がけっこう違う美点にあるのだと思います。
さらにその話の運び方、セトリの組み方が秀逸!

1話目、本のとある「使い方」に憑りつかれる話。
この時点で、作者の文章の巧さに本に噛つきになる自分の姿を、思わず主人公と重ねてしまう。現実と本の中で、リンクしている臨場感に引き込まれる。


グッと引き寄せられた先の2話目で、梯子を外されたような落下を味わう。
この本で一番気色も後味も悪く、読みにくいのに面白い一人芝居。どうやらこれからコミカライズするらしいのだけれど、叙述トリック的な読みどころもあるので、ぜひ文章で読んでほしいなあ。

最悪な読後感の後に続くのは、どこかファンタジックで美しい、世界終焉シナリオ。淡々とした切なさも感じる話がきたかと思えば、エログロに振り切った重い一発まで。

質感の違う作品の集合体、
そんなの触ってみたくなるじゃないですか。
読んでみて夢中になれるのも当然というか。

そんな有象無象の怪奇オムニバス、
あの番組の構造にそっくりなんですよ。
グラサンのストーリーテラーが来たら、完成してしまう…。

タラタララン♪タララララン♪
タララララッラ ララララン♪

…フルで聞くと、後半讃美歌みたいなパートがあるんですね。初めて知った。|

◇◆◇

こんな人にオススメ

・世にも奇妙な物語が好きな人
・世にも奇妙な物語が好きだった人
・世にも奇妙な物語の番組制作者

・どっぷり世界観に浸りたい人
・世界が崩壊したり後味悪い結末でも、
 自力でリカバーできる元気がある人


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