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【ムック】このホラーがすごい! 感想


なんだか無性に、好きなもの。
夏休み入る前、KADOKAWAとか文庫本出してる出版社がバラまいてる「ナツイチ 夏の100選」みたいな小冊子もそのひとつ。


なんなら今でも、書店で見かければ必ず頂いてるくらいには好き。


夏らしいビビットな表紙にゆるキャラ。
体裁よくまとめられたあらすじに、
読書欲をかきたてられる煽り文句。
新たな本に出会えるワクワク感に誘われて、
気になったページの耳を折ってみたり。


自分の好みと照らし合わせて本を選ぶ楽しさは、
メニューが多い居酒屋さんで、酒と気分にぴったりのおつまみを探せたときの達成感と似ている。
気がする。


そんな胸のときめきを、怒涛の勢いで叩き込まれたような、なんとも充実した読後感でした。

今、新時代を迎えているホラー界のグルメガイド本、興味ある方はぜひ読んでみてね。


このホラーがすごい!2024年度版

https://x.gd/N6eXF

カバーないと持ち歩きしづらい表紙だな…
と思ってたけど、だんだん可愛く見えてくる不思議。
ミッフィーの友達枠にいそうな気がしてくる。

パイオニアによる夢の対談

購入を決めた一番の理由。
それは雨穴×梨×背筋三氏の対談が収録されていること!!

御三方は、今旬の「モキュメンタリーホラー」というホラージャンルにおける作家さんで、
皆素顔は公開せず、雰囲気はミステリアス。


雨穴さんはオモコロライター・YouTuberだけあってメディア露出は多いけど、他ふたりは表舞台に立つことはほとんどない。

宣伝として、例えばプロデューサーとの対談記事は読めたりすることもあるけれど、
同じ作家として立場で語る場面って少ないんですよね。

ひとつのジャンルを牽引している、パイオニア同士が話しているという事実だけでもう、鬼アツ。
ファンからしてみれば、神々の集い…!

これぞひとつのカテゴリーに特化した、
ムック本の醍醐味やと思います。
ありがたやありがたや。


モキュメンタリーホラーって?

私がハマっている、そして今ホラーの新時代ともいえるジャンルのひとつなんですが、
おもしろみに欠ける意訳をすると、
ドキュメンタリーを装った、つくりものの作品」群、となるのかな。

今までのホラーといえば、
休暇中のパリピ大学生たちが山奥でシリアルキラーに遭遇したり、主人公に見たら死ぬビデオテープが届いたり…といった、あくまで「物語」の中での出来事だったの対し、
モキュメンタリーは実に多彩な切り口から、恐怖体験を与えてくれる。

  • 例えば…

    • 検証ドキュメンタリー

    • 意識高い系自己啓発番組

    • お笑いライブ

    • 生活情報系バラエティー番組

    • 恋愛ドラマ

    • 人探し系特別番組

    • 部屋の間取り図

一見ホラーとは関係なさそうな、かつどれも身近というか、誰もが一度は目にしたことのあるコンテンツばかりじゃないですか。


これがホラーになっちゃうんですよ。

ホラーの顔してないのに。


中には性悪にも(褒めてる)、
「この作品は 一部 フィクションです」と銘打って、現実と虚構が入り混じったような後味の悪い終わり方をする作品もあったり。


実在した出来事を隠すためのフェイクなんじゃないか、
気が付かないうちに自分も怪異の脅威にさらされているのではないか、
そんな次元を超えたライブ感のある恐怖が、なんともゾクッとさせられる。

もっと上手く説明してる人がいるので、お気に入りの記事を貼っときます。
モキュホラに興味あったら、ぜひ読んでみてください。

https://note.com/dadaguroro/n/n1bdeb6111572

梨さんについて語らせて

この三方の中で、私の一番推しの作者は梨さん。

もともとSCP財団で活動されていた方で、
ぐいぐい引き込まれる文章と、じっとり厭な雰囲気、そして「ちょっと頭がおかしい人が書いた怪文書」といった小道具の解像度がめちゃくちゃ高いのが魅力の方。


(初期のSCP作品を書かれたのは20代らしい。
どんな経験をしたらこんな陰惨なアイデアが浮かぶのかと、読書量と表現力には常に驚かされる。)

そして梨さん作品といえば、
「怪異の元凶が明かされないラスト」
が最大の持ち味だと、私は思っている。


大抵は、
「そこには怨念がおんねん」

      ↓

「何でなん?調べなあかんわ」

というプロットで物語は進んでいく。
その途中登場人物が死んでいきながら、原因を探るのがこれまでのホラーのセオリーだ。

でも梨さん作品は、怪異の元凶が解明されないことが圧倒的に多い。


「そんな終わり方、もやっとするじゃん!」と思うでしょう。

でも、ヒントはリアリティたっぷりに、作品に散りばめられている。


時には作品の枠を超え、実際に登場人物のTwitterアカウントが存在していたり、添付された画像のドキュメント名自体が呪詛になっていたりと、飛び道具も存在する。

この豊富な情報量と、知ってしまったからには謎を解明したい人の性が、非常にマッチするのである。

誰もが気軽に発信できる、SNSがある時代に。

「こんな情報あったよ!」
「実はこうなんじゃない?」

答えが明かされず、ヒントはたくさんある。
つまりそれは、考察の余地があるということ。

大勢で謎解きゲームをしているかのような、
ライプ感が楽しめるのだ!



個人の発見や推理が、ネットを介して共有される。
知った情報は伝えたくなるもので、
それは水面の波紋のように広がっていく。



そこに最後にもうひとつ、
SNSとホラーとの親和性がありまして。

それは、怪異が「読み手」を襲えるようになる
ということ。

情報を得ていくうちに、理解を深めていくうちに、
いつの間にか、魔の手が自分そのものに及び、
もう手遅れな状況になっているのではないか?

これまでホラーの登場人物が辿っていたプロセスを、
まるでロールプレイしているかのように体験する、このゾゾゾ感…!たまらない!こわい!

詳しく説明すればするほど、その旨みは色あせてしまうのでこれ以上言及はしませんが、
最後に梨さんのインタビューで締めておきますね。

そりゃ喧嘩はしないだろうけどさ

さて、ひととおり推しを語り散らかしたところで。
対談のもう2方のスタイルは梨さんとは違い、
「原因に対する答え合わせ」を作中でしっかり行うタイプの作者さん。

着地点がまったく異なる作家さん同士だと、
どんな雰囲気の対談になるんだろう?

と、内心ドキドキしていたのですが、
会話の様子は読むかぎりとても和やかで。

ラストが違いますね、とは話題になったときも、皆さん「そうなんですよね〜」とあっさり。


お互いをリスペクトしながら、
皆さん自分のポリシーにまっすぐ向かっていて。

楽しそうに繰り広げられていくモキュメンタリーワールドトークや、今後のホラーの在り方について語り合われる様を、
うんうんうん(感涙)と頭赤ベコ状態で、あっという間に読みおわりました。

中にはそれぞれTwitterアカウントプロフィール写真の所以といったファン向けな情報まで。


知ってる有名人どおしが仲良くしているだけで嬉しい。対談の素晴らしさを感じました。

3分で読める怖いエッセイ

この本を買ってよかったと思える、
もうひとつのコーナーがこちら。
人気作家13名による特別エッセイ「私の怖い話」。

まずは「私はこんなホラー作家です」
「どんな経緯でホラーを執筆しています」
と軽めに自己紹介。
(これがさりげなく役立つ)

そして間髪入れず始まる
「もう二度と体験したくない怖い話」。

これが面白い。
自分が体験した怖いできごとを、
文庫本1ページくらいの短い文章量で、
簡素に綴られているのだけれど。

同一のテーマで、文字数が限られてると、
それはもう作者の個性が光る光る。ギラギラ。

明らかに体験ではなく創作だろ!
とツッコミを入れたくなるくらい怖がらせにかかってくる作者さんもいるし、

それって恐怖体験と呼べるか?
と思うくら些細な出来事だったり
濃淡がまるで違うトピック。

そして短い文章でまとめる文章の巧さ。

こんな首尾よくまとめちゃうんだもん。
凄い。さすがプロだ。

一方で、読むごとにみんなすげー!すげー!と、
押したら鳴る黄色い鳥のおもちゃみたいな語彙力に成り下がる私なのであった。

ホラーが読みたくなる本

このほかにも、
「2023ホラーベスト10」
「名作古典をおさらい必読ホラー20選」と、
おすすめ作品の紹介がじゃぶじゃぶ怒涛に続く。


ひとくちにホラーといっても
「怖い」という基本的な感情の奥に、
様々なトラウマだったり嫌悪感といった要素があって、成り立っているのだと気づかされる。

恐怖の対象が、霊的なものから、「結局生きている人間が一番怖いよね」系だったり、作者の考える世界観そのものが狂気に満ちていたり…。

物語のキモとなる、登場人物の死に様はネタバレになるから触れずとも、
その要素を鮮やかにすくい出して、紹介していく。


コメントを寄せるひとたちの技量に圧巻でした。

あーーー!本が読みたくなる!!


冒頭で私が好きだと挙げていた、「夏の文庫紹介冊子」も、
きっと読書欲を掻き立てられる、その感情のゆさぶりが心地よくて好きだったのだろう。


今までは無料の配布冊子だったのが、はじめてこういったムック本を買えている。

自分も少しは経済的にも大人になったのかな。

そう思いながら、市立図書館では取扱いの少ない、
新作ホラーのリクエストを申し込むのでありました。




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