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短編創作集

5
短い創作物をまとめています
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記事一覧

詩/傷痕

詩/傷痕

傷痕から花が咲けばいいのに、と思ったことがある。

四葉のクローバーは幸運の象徴と言われるけれど、その見た目は愛されるけれど。
実際、その4枚目の葉は他の葉が成長時に傷付いたことで出来るのが殆どだ。

人の傷痕はどうやってもただの汚点にしかならないらしい。
刺さるような目線に、傷が増えたような錯覚を覚える。

同じもの、その筈なのに。
ついているものが違うだけで、こんなにも人の目線は違う。
自分の

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詩/幸福論

詩/幸福論

唇から紡ぐだけで甘やかなその響きを幸福と言うのだと最近知った。

それが訪れるのは酷く突然で、一体どんなタイミングで来ているのかはわからない。

例えば、好きな歌を口遊む時。
例えば、レストランで好物を注文する時。
例えば、日向ぼっこをする飼い猫を呼んだ時。
例えば、あの人への朝の挨拶。

そして、例えば。あの人の名前を呼んだ時。

奥歯で花の蜜をじゅっと噛み締めた時と酷似したその痺れるような甘さ

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詩/箱庭の海

詩/箱庭の海

私だけの海が欲しかった。
誰のものでもない。誰かと共有もできない。
ただ、私だけの海。
抱きしめて、何処にでも連れて行ける、私だけの海。

海の腕に抱かれるのではなく、私が海を抱き締めたかった。
その温もりを独り占めにしたかった。
どんなに手を伸ばしても届かないその大きさが寂しくて、傍にいて貰いたかった。

今でも、私は私だけの海を探している。

詩/ひとくち

詩/ひとくち

小さい頃からそれを上手に食べきった試しなんかない。
口に含みすぎれば、きぃんと頭に響くし舌は痺れる。
とはいえ少なければあっさりと口の中で溶けきってしまい物足りない。

その加減が、どうにも不器用な自分には難しい。

けれども、その甘さに。
舌の痺れもおさまらぬうちに、また大きすぎるひと口を口へ運ぶのだ。

ベタつく口元を拭う僕を見て、まるでお前の下手なキスと同じだと君は笑った。

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詩/溺れる

詩/溺れる

電車を降りた途端噎せ返る潮の匂いとベタつく風が迫ってきて
嗚呼、この町も溺れているのだと知った

ぼんやりと佇んだホームでなんとなしに舌を突き出せば空気まで塩気を含むようで、一気に蘇るのはあの日口に含んだ君の汗、その熱

決して、消えてなんてくれやしない

きっと僕も、この町のようにずっとずっと溺れているんだろう

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