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Effectual Business Modeling Method 起業アイデアを具現化する方法(1)

こんにちは、広瀬です。今日は前回予告した通り、Effectual Business Modeling Methodについてお話したいと思います。この回からはサラスヴァシー教授の授業内容から一変して私の理論を展開してみたいと思います。
この記事を読んで下さっている方々は既にEffectuation関連の本を読んでいる方、またはネット上でEffectuation関連の記事を読んでいる方が多いと思いますので、すでに5つの原則をご存じの方も多いことでしょう。ここで、話をいきなりEffectual Business Modelingに進める前に、もう一度5つの原則を見直してみたいと思います。


Effectuation 5つの原則

  1. Bird-in-Hand (手中の鳥の原則)
    自分の経歴(Who am I)、知っていること(What I know)、知っている人(Whom I know)を棚卸しする原則です。

  2. Affordable Loss(許容可能な損失の原則)
    Bird-in-Handの中から何ができるのか見つけ、それを始めるにあたり、どの程度の損失まで許容できるかを事前に見極める原則です。

  3. Crazy Quilt(クレイジーキルトの原則)
    クレイジーキルトとは、柄や形の異なる布切れを縫い合わせて作ったものです。起業・独立・新規事業立ち上げでも同様に、様々な人達と会話することにより顧客になったりパートナーになったりすることをクレイジーキルトに例えて原則としています。

  4. Lemonade(レモネードの法則)
    環境変化や不測の事態、または批判などを受けた時、それらを無視したり避けることなく、次のステップに繋げるための経験や意見として受け入れプラス思考に変えていく原則です。

  5. Pilot-in-the-Plane(飛行機のパイロットの原則)
    一度ビジネスが始まれば、それは晴天時の飛行機の自動運転のようには行かず、何かが起きれば自分たちができる範囲でコントロールして切り抜けなければならない、と言う原則です。

Who am I? 自分になんて答える?

さて、ここで皆さんに質問です。この5つの原則に従ってどの様に起業するのかイメージはつかめますか? Bird-in-HandのWho am Iとは何でしょう? 自分に私は誰と聞いて、何と答えれば良いのでしょうか? What I knowも同様に、自分に私は何を知っているのかと聞いて、何と答えますか?
皆さんはスラスラと列挙できますか?  Affordable Lossに関しても、そもそも起業するにあたりどの程度の費用がかかるか、どこにどの様な費用がかかるのか、スラスラと列挙するのは容易なことではないと思います。さらに、それらの費用が許容可能な損失であるか否か、どうやって判断すれば良いのでしょうか?

そこで、まずはBird-in-Hand の3つのWとAffordable Lossに計上される費用を以下のように定義してみました。

Bird-in-Hand 3つのWの定義

Who am I:身につけた技術、不動産、お金
自分が経験した仕事、今はメインの仕事ではないができること(今でもプログラミングできる等)、業務上の特技(プレゼンが上手、社内調整が上手、顧客対応が上手等)、今までの業務とは関わりがない得意技(料理が得意等)、不動産を持っている(オフィス、店舗、倉庫、工場に使える物件等)、起業資金に使える預貯金
What I know:頭にある知識
経験/学習から学んだ知識、資格、特許、商標
Whom I know:人脈
社内人脈、業界内人脈、仕入れ業者人脈、見込み顧客人脈

Affordable Lossの定義

Affordable Loss:失っても明日からの生活に困らないもの
オフィス、店舗、倉庫、工場等を借りた時の家賃、人を雇った時の人件費、モノ作りの場合の部材仕入れ費用、光熱費、Webサイトなどを外注した場合の外注費、さらにお金だけではなく、行動しないことによる損失と、あなたの名声・評判・信用も含まれることに注意して下さい。

行動しないことの損失は、分かりやすく言うと「俺がやらなければ誰がやる、今が絶好の好機だ!」と言うチャンスを逃し、その勢いで事業を立ち上げていれば儲かっていたであろう収益を失う事です。Bird-in-Handの原則に反するように見えますが、世の中の起業家はこう言うチャンスの時にこそBird-in-Handの原則に従い、自分にできるところから小さく着手し徐々に事業を大きくしている、とサラスヴァシー教授は述べています。

名声評判・信用は出版されている書籍や、ネット上の記事では紹介されていないかもしれません。例として、世間に人格者として名前も知れ渡っている方が事業を立ち上げたが、それはペーパーカンパニーで詐欺として刑事告発され逮捕された場合です。人格者という名声は一夜にして消え去ります。田舎の住宅街に小さな美容院を立ち上げ、住民からこれからは便利になると評判が立ったが、そこの美容師さんが下手だった場合、便利という評判は一夜にして消え去ります。私のような経営コンサルタントの場合、財務諸表が全く読めないことがバレたら、私は一夜にして信用を失います。

Business Model Canvasが参考になる

この様に定義すると、見えてくるものがあります。
Whom I knowの内容はBusiness Model Canvas(以下、BMC)の、主なパートナー、営業チャネル、および顧客セグメントに当てはまると思いませんか?

Business Model Canvas

Business Model Canvasをまだご存知ない方は、申し訳ありませんがググってみて下さい。ネット上に情報満載です。どこのサイトでも分かりやすい説明が載ってますので、すぐに利便性と内容をご理解いただけると思います。

実は私はEffectuationの勉強当初から、5つの原則をBMCの様な1枚の紙で全体が俯瞰できるモデルを作れないものかと考えていました。以前のNote(Saras Sarasvathy教授の授業(1) Effectuationの紹介)でEffectuationモデルとEffectuationプロセスの2つの図を示しましたが、自分がどの様な事業を考えていて、その事業と顧客の関係、その事業を実行するに当たって誰がどの様に関わるのかは、これら2つの図からはわかりません。 

Effectuation Business Canvas

そこでEffectuation Business Canvas(以下、EBC)と言うものを考えみました。この様な新しいCanvasの絵を持ち出すと、私の理論はCausation的ではないかと思われるかもしれませんが、決してそんな事はありません。

BMCをヒントに筆者が作成した
Effectuation Business Canvas

各マスの一部の項目はBird-in-HandとAffordable Lossの内容を書きやすくするために表現を変えてあります。また、一部の項目はBMCと同様です。マスの中の箇条書きの短文は、そのマスの中に書き込む内容のガイドラインです。この各マスがどのようにBird-in-Handの3つのWとAffordable Lossに対応するのかを示したものが以下の図となります。BMCでは収益の流れのマスがWhat can I do?になっているところがポイントです。

Bird-in-Handの3つのWとAffordable Loss
新しいWhat can I do?

次はBMC同様、どの様な順番にこのマスを埋めていけば良いのかを示します。まずはBMCとEBCの書き方の順番は忘れて下さい。ここでは自分自身を棚卸しすることが先ですのでBird-in-Handの3つのWとAffordable Lossだけを考えます。これらを考えるときはExcelなどで3つのWとAffordable Lossの表とEBCの表を作り、3つのWとAffordable Lossに書き込んだ内容がEBCに自動的に書き写されるようにしておくと便利です。

自動的に書き写されると言う操作にピンとこない方に実例を示します。
自動的に書き写されるEBCの各セルに=if(H4="","",H4)を入れておくだけです。下図 3つのWとAffordable Loss の「Who am I、想定製品/サービス、現時点で考えている内容」のセルの位置がH4と仮定します。主な事業内容のときは =if(H8="","",H8)です。

以下の表は現時点で考えていることを、深く考え込まずに書き込んで下さい。書き込んだ内容が、後からマーケット調査をしないと分からないような内容はNGです。あくまでも、書いた内容が今の自分の手元にあるか否かがポイントです。

3つのWとAffordable Loss

上の表が埋まると自動的に下のEBCの表にも反映されているはずです。

3つのWとAffordable Lossから
自動的に書き写されるEBC

書き込まれた内容を再確認/再評価する順番を以下の図で示します。

自分のEBCの再確認/再評価

自分のEBCを再確認するときと再評価(レビュー)するときは、ストーリー仕立てで考えると分かりやすいと思います。再確認も再評価もポイントは以下の2つです。

  1. このストーリーで想定するお客様に想定製品/サービスが提供可能か?

  2. このストーリーで想定製品/サービスが実現可能か?

想定製品/サービスの提供可能性

  1. ①想定製品/サービスを②製品/サービス知識をバックグラウンドとして、③想定顧客に提供する
    → バックグラウンドとなる知識は当面の事業立ち上げに十分か?

  2. 提供方法は④営業チャネルである
    → 営業チャネルの構築は可能か?
    → チャネルとの意思疎通に問題はないか?

  3. ③想定顧客との関係構築は⑤顧客関係性の構築である
    → ⑤顧客関係性の構築は顧客目線になっているか?
    → 期待する関係性の構築はできそうか?

提供製品/サービスの実現可能性

  1. ①想定製品/サービスを②製品/サービス知識をバックグラウンドとして、⑥主なリソースを用いて③想定顧客に提供する
    → バックグラウンドとなる知識は当面の事業立ち上げに十分か?
    → 主なリソースは手元にあるか?

  2. ①想定製品/サービスは⑦主な事業活動を通じて提供され、適宜改善も行われる
    → 事業活動の列挙と内容に無理はないか?

  3. ⑧主なパートナーは①想定製品/サービスの提供や⑦主な事業活動に協力していただくパートナーである
    → パートナーとは事前根回しと意思疎通はできているか?

Affordable Lossの評価

  1. 主なリソースにかかる毎月の家賃、人件費、光熱費は想定できているか?

  2. 主な事業活動でコアとなる活動以外(Webサイト構築等の外注費)の費用は想定できているか?

  3. 主なパートナーから部材を仕入れる場合の仕入れ単位、仕入れ値等の話はできているか?

  4. 少なくとも1~3までの数カ月分のお金は用意できるのか?

  5. 初期投資の費用は自分ひとりで用意するのか、共同設立者と折半か?

いずれにしても、上記の費用のための預貯金が数カ月後に無くなっても、その後生活に支障はないかが見極めのポイントです。

⑩What can I do?

このマスでは一連の流れを再確認/再評価した結果を判断します。この段階に来る前に①想定する製品/サービスで事業化するのは勇み足となり、危険です。再確認/再評価した結果、私には実際何ができるのか? 冷静に判断して下さい。

  1. 上記の流れを再確認/再評価してみてOKそうであれば次のステップ(Crazy Quilt with EBC)へ進みます

  2. ここで新たなアイデアが思いついたり、アイデアを削る場合もあるでしょう。その場合は再度3つのWとAffordable Lossを見直して新たなEBCを作ってみて下さい。

  3. OKと判断できるまで作業は繰り返されます。


いかがでしたでしょうか?
なんとなく今自分の手元にあるもの(3つのW)でできそうな事業の輪郭が浮かんできた感じがしませんか? 今日の話は3つのWとAffordable LossからEBCを作り、その後の内容評価の話しが中心でしたが、次回はEBC作成に当たり、具体的なケースを当てはめて再度説明したいと思います。またEffectual Business Modelingのプロセス、Crazy Quilt、Lemonade、およびPilot-in-the Planeとどう関わるのか、と言う全体像の話もしたいと思います。
皆さんがEBCの使い方をマスターし、Effectuationが独立・起業・新規事業立ち上げのスタンダードなツールになることを願っています。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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