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ばらばら

桃の街は鮮やかだった。
素直な土地に引き込まれ、ふらつきながら美化に走る。美化された街で夢中になりたかった。陽が落ちると点々とつく灯り。決して眩しく感じさせない気品。艶やかだが幼い。素直な土地を美化している私は日常から逃げられなくなっていた。

牡丹の街は繊細だった。
閉館間近の駅ビル。人気の無い地下道。黄土色の稲と灰色の薄暗い空が続く国道。小さな立て看板とランプのオレンジ色に店主の人柄が漏れる古本屋。重い扉で出迎える喫茶店。高い天井から垂れ下がるシャンデリアとジャズ。ただそこに佇むこと。その日常がどれほど美しいことか。

梅の街は渇いていた。
地下鉄駅のポスター。「限りある資源を未来に繋げる」のキャッチコピー。毎月ギリギリで繋いでいるクレカの支払いのようでポスターを見るたび口角が上がる。
この街はうるさい。五感を一斉に刺激しようと街の住民を必死に追いかけ回す。五感を一斉に塞ぎたくなって独り家に籠る。チャイと本、珈琲と音楽に浸る時間を無意識にも欲する街。

星は見えないけれど
この街も悪くはないね。

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