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オンライン日本語教師の可能性|世界の日本語教師たち Vol.5(前編)|沼澤あつこさん

このedukadoページでは「世界の日本語教師たち」というテーマで、毎週世界を股にかけて日本語を教える先生たちの現場のリアルな声を取材した記事を配信したいと思います。 

第5回では、”オンライン日本語教師の可能性”と題してお届けします。

今回の日本語教師:沼澤 あつこ さん
山形県出身。大学院卒業後は、貿易会社や個人事業主、日雇いなどを転々とする。外国人の彼氏と付き合っていた時、海外で仕事を見つけるために日本語教師を目指し、オンラインで教えはじめる。その後タイの日本語学校に3年勤め、再びオンラインを専門とした日本語教師として活躍。

インタビュアー:Jun
埼玉県在住のフラガール。国際観光専攻。趣味は海外ドラマとJ-popアイドル観賞。観光学を通じて世界を学ぶうちに、日本文化について深く知りたいと思いedukadoへインターンシップとして参画。現在はPRを担当。多くの日本語教師へ取材する傍ら、日本語教育を取り巻く環境を改善すべく活動中。

オンライン日本語教師のあれこれ


—日本を出るため日本語教師に

元彼がフランス人で、彼は日本では就職ができず、私が日本を出ていかなければならない状況でした。でも、手に職がなくウエイトレスだとお金も稼げないので、何ができるか探したところ"日本語の先生"ならいろんな国で需要が沢山あると思い、教師になりました。日本を出るために日本語教師になりました。不純な動機ですみません(笑)

今までオンラインで1年半くらい、その後タイの日本語学校で3年働き、今年の4月からまたオンラインで授業を行っています。

—時間・内容・生徒を選べる

学校教育との一番大きな違いは、自分の教えたい時間に、自分が教えたい人に、教えることができるところです。学校ではクラスの担当、シラバスがもともと決まっています。しかし、オンラインだと自分の予定に合わせて授業ができます。そのため、生徒が自分の予定に合わせて授業を受けるということが大きな違いです。

馬が合う人だけ残っていくので、ストレスもなく自由に授業をすることができます。

—コースは3種類

文法コース、フリートークコース、平仮名カタカナコースの3つを用意しています。この中で平仮名カタカナコースを受けた人はあまりいません。字は自分で勉強する人が多いからです。

1番需要が多いのが文法のコースです。「みんなの日本語」に沿って文法を導入し、会話の練習をするといった内容です。

フリートーク1時間日本語だけで話すことができる人のためのコースで、こちらは私は何も準備しません。生徒が日本語能力検定(JLPT)の問題集の写真を送ってきて一緒にやってみたり、読みたい記事のリンクを送ってきて、内容について話したり、人によって様々です。
準備をしないコースなので、たまに話が持たなくなることもあります。話せるようになりたいけど、話したいことがない人や質問が苦手な人、共通の話題が少ないなどは授業をしていて難しいなと感じますが、関係を築いていくと楽しくなります。

授業は1時間$25で行っています。フリートークの方は$15です。

—自分の得意分野で勝負する

今は、1番長い生徒で初級テキストの半分ぐらいまで終わりました。実は学校では中級の以上のクラスを教えたことがありません。私自身、国語が苦手という意識が強くあるからです。結局、1番学習者人口が多いのは初級で、そこだけで十分に稼げるため、得意なところで勝負しようという考えです。わざわざ苦手な分野で勝負しなくていいと思っています。私もストレスですし、教わる方ももっと良い先生がいますから。自分が得意なレッスンを明確に提示するのがオススメです。

私自身あまり知らないので、日本文化について話す機会はほとんどありません。例えば単語で"生け花"が出た場合、どんなものか少し説明する程度です。日本人の考え方や生活様式についてはお話しします。あとは、タイに住んでいることからタイと日本の比較をして、話すこともあります。

学ぶ理由もきっかけも人それぞれ

ー生徒はアメリカ人が多い

アメリカ人が1番多いです。あとはフランス、スイス、ドイツが続きます。多いときでは1週間のトライアルのうち半分がアメリカ人でした。アメリカは時差が真逆なので、朝起きるとメールがたくさん届いていて、それらを捌くところから1日が始まります。今は既存の生徒で枠がいっぱいなのでトライアルは止めている状況です。

ーアジアと欧米の違い

授業料は欧米や日本の相場でやっているので、東南アジア人には高い授業料かもしれません。トライアルを受けてフェードアウトする人も多いです。予約したけど忘れてしまう人もいます。今まで200人ほど授業をしてきましたが、欧米人はトライアルを受けてすぐ予約してくれたり、トライアル中に次はどんなことを学びたいか伝えてくれたり、はっきりしています。

—欧米人が日本語を学ぶ理由は“好きだから”

例えば日本人だったら、"英語ができたら良い仕事ができる"とか"今の時代は中国語が1番だ"というように役に立つかどうかで学習しますが、アメリカ人は元々英語ができるので他に役に立つ言語を選ぶ必要がありません。ですので、本当に日本の文化やアニメが好き日本に旅行に行くのが好きで学んでいるという印象です。仕事や試験ではなく、ただ好きだからという理由が多いです。漫画やアニメ、ゲームが日本語を勉強するきっかけになるそうです。私より知っている外国人がたくさんいるので、教えてもらっています(笑)

ヨーロッパでは、ごく稀に日本で就職したいからという人もいますが、ほとんどアメリカと同じ理由です。また、日本に住んでいる外国人の生徒もいます。その方々は、外資系企業で働いている方が多く、仕事ではなく"日常生活で日本語が必要だから"という理由で学ばれています。

—学ぶ目的によって授業の内容が違う

授業中に雑談したり、情報交換をしたり、ひとりひとりと向き合えるのがオンラインの特徴です。

日本語能力検定がゴールだとそれまでに達成しなければならないものが明確です。試験が同じなら、誰にでも同じものを提供することになります。ですので、日本語能力試験を目的にすると教えられる生徒はすごく狭まります。アジアだけならまだしも、欧米圏にも沢山の学習者がいるので試験対策以外の授業の方が多くの生徒を獲得できます。

—ひとりひとりと向き合った授業

個人のレッスンだと、間違いひとつひとつを説明して正してあげることができます。私自身、外国語を勉強するのがすごく好きで、間違えたら直して欲しいタイプです。しかし、大人数だとひとりひとり直していたら授業が進みません。

ただ、学校を辞めてオンラインになったら、ずっと1人でパソコンに向かっているので、大勢の前に立って、みんながリピートして…という環境も良かったなという気持ちもありますが。

〜記者から一言〜

初めてオンライン授業を専門にしている先生のお話を伺いました。これまでのお話とは学習者、カリキュラムなど異なることばかりで大変興味深くお話を聞かせていただきました。対面であった学校教育がコロナの影響でどんどんオンライン化していく中、そもそも海を超えた学習者に対して学びを提供するにはオンラインのほかありません。そこにある程度の需要があることも見えてきました。これからさらに日本語教育を発展させるためには、オンライン教育が必要不可欠であることは間違い無さそうです。

次週は”オンライン日本語教師の可能性”後編をお届けします。
具体的にどのように授業を行っているのか、何がオンライン授業を行うコツであるのかお伺いしました。
次回もお楽しみに!

インタビュー・文:Jun Sakashima


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