FRB、ECB、BOE、日銀、それぞれの事情と金融政策

FRB、ECB、BOE、日銀、それぞれの事情と金融政策


 ECBは9月12日に2度目の利下げを決定したが、今週はFRBが9月17~18日、BOE(イングランド銀行=英国中央銀行)が9月19日、日銀が9月19~20日に、それぞれ金融政策決定会合がある(日付は現地時間)。

 そのうちFRBは利下げ開始が確定的であるが、BOEは不透明、日銀も未定であるが(世界でほとんど唯一の)利上げを模索している中央銀行となる。

 そこで今回は、決定済みのECBを含めて、これら主要中央銀行の金融政策を予想するが、普段あまり報道されない「それぞれの事情」を中心に解説していく。金融政策とは決して経済事情だけで決定されていくわけではない。

 本来は同じ手法で発展途上国を含めた幅広い中央銀行の「それぞれの事情」まで解説すると、よりいろんなものが見えてくるが、とりあえず今回は主要中央銀行4行である。

 もちろんそれに伴う為替や株式市場の動きも予想していく。

 世界各国の経済状況は「ここにきて」急速に悪化している。それは各国の物価上昇が急速に落ち込んできたことから分かる。だから日銀を除く世界中「ほとんど」の中央銀行が利下げを開始しているか、また利下げを準備している。

 それを見て世界中ほとんどの株式市場が改めて上昇しているが、本来なら経済状況が悪化するから利下げするため、必ずしも利下げ=株価上昇となるわけではない。

 また世界各国の経済状況の悪化も、日本だけが例外となるわけではない。そこで日銀が世界で唯一利上げを標榜しているため、日本の経済状況や金融市場への悪影響は無視できないものとなる。

 まず時間的に最も政策決定(FOMC)が近づいている米国(FRB)から始める。

 どうせなら日本時間19日未明の結果発表まで待てば?と言われそうであるが、FRBにもある「それぞれの事情」を理解してから結果発表を待つことにも意味があるはずなので、このタイミングでの解説となる。


その1 米国の経済状況とFRBの金融政策をめぐる「いろんな事情」


 FRBは9月17~18日のFOMCで2023年7月から維持していた5.25~5.50%の政策金利を「ようやく」引き下げる。利下げ幅は0.25%のはずであるが、ここにきて0.5%の可能性も大きくなりNYダウが史上最高値圏にある。

 利下げ幅が0.5%となるかもしれない現実的な理由は、この項の最後に出てくる。

 FRBが利下げに踏み切る背景は「ここにきて」物価上昇と雇用情勢が想定以上に落ち込んでいるからである。FRBは物価と雇用の安定を金融政策の目標としているからで、ECBとBOEは物価と金融市場の安定、日銀は物価の「安定的な上昇」が金融政策の目標で、それぞれ微妙に違うことも理解しておく必要がある。

 米国の8月消費者物価指数(総合)は前年同月比2.5%上昇と、7月の2.9%上昇から「さらに」に落ち込んだ。ピークは2022年6月の同9.1%上昇だったが、「ここにきて」物価上昇率が政策金利(上限)を3%下回ることになり、いくら何でも過剰引締め状態となる。

 米国では(日本を除く他の先進国でもだいたい同じであるが)物価が年2%程度上昇している状態が「正常」で、2%を割り込むと「異常」となり速やかな金融緩和が必要となる。米国ではここにきてその「異常」に近づいている。

 雇用でも8月に米労働省が3月時点の雇用者数が1年間で81.5万人も過剰に集計されていたと発表しているが、実際の統計修正は大統領選後の2025年1月になるらしい。その修正前でも7月の失業率は4.3%と2023年前半の3.4%から上昇しており、8月の失業率は4.2%だったが雇用者数は予想をさらに下回る前月比14.2万人増でしかなかった。

 つまり米国では「ここにきて」雇用者数の未修正も考慮すれば雇用情勢が「危険水準」まで落ち込んでおり、物価上昇の落ち込みと合わせてFRBは早急な利下げが必要となる。

 こういう状態は当然に米国債利回りを大きく低下させる。9月17日現在、米国の10年国利回りは3.65%と、直近のピークとなった4月下旬の4.75%から低下しており、2年国債利回りも3.60%と同じく4月下旬の5.05%から低下している。 

 重要なことは2022年7月から逆転していた2年と10年の国債利回り逆転が解消しており、これは歴史的にも(これからの)米国経済の減速を強く示唆している。

 またFRBは主に米国債とMBSである保有債券償還分の再投資を一部見送ることにより保有残高を縮小する量的引き締め(以下、QT)を2022年6月から現在まで実施している。縮小ペースは2024年6月にそれまでの月間950億ドルから同400億ドル程度まで緩和しているが、今回はQTそのものを年内に打ち切るはずである。

 FRBの保有債券残高はQT開始直前である2022年5月末の8.48兆ドルから直近の6.69兆ドルまで1.79兆ドル(21.1%)縮小している。それではFRBの「適正な」保有債券残高とは、どれくらいなのか?

 FRBはもともと米国債を取得して小口・無記名・無利息のドル紙幣として発行していたが、そのドル紙幣残高は直近で2.35兆ドルである。FRBがドル紙幣残高を超えて債券保有残高を急増させるようになった時期は2008年9月のリーマンショック直後で、比較的最近である。

 極論すればFRBはリーマンショック直後から過剰流動性を市場に(世界に)供給してきたことになるが、それが新たな世界の金融危機を回避しただけでなく、世界中の株式など資産価格を急騰させたことも事実である。

 前回のQTでは2019年9月末にFRBの保有債券残高が3.58兆ドルまで縮小したが(同時点のドル紙幣残高は1.76兆ドル)、この時点で世界中がドル不足気味となり利下げ途中にもかかわらず短期金利が上昇したことがある。

 そこで時のトランプ大統領が強権発動でQTを打ち切らせたが、その時点のFRB議長もパウエルで、パウエルをFRB議長に指名したのもトランプである。そこからトランプはパウエルを信用しておらず、政権復帰すればパウエルは解任すると言っていた。それは最近になって取り消しているがトランプが政権復帰する可能性も強いため、ますますパウエルには利下げを急いで米国経済の急減速を回避しておく「動機」がある。

 そこで「適正な」FRB保有債券残高であるが、2019年時点でも3.58兆ドルでは「不足」していた。そこからコロナ・パンデミックで世界の量的緩和が急加速したことや、世界の金融市場(とくに株式市場)が急拡大していることなどを考え合わせても「適正」規模は5.5~6兆ドルあたりで、現在はその水準を上回っていることになる。

 ここまで見てきたように経済状況を見る限り、FRBはここから早急かつ大幅な利下げが必要となり、FRB保有債券残高も「あまり」縮小できない。

 ここでもう少し現実的にFRBの金融政策の目途を考えてみる。これからの利下げの目途と、FRB保有債券残高の目途である。

 実はFRBの2023年の最終損益は1143億ドル(直近の1ドル=142円で計算して16.2兆円)と過去最大の損失だったが、これには保有債券の評価損は含まれていない。日銀を含むほとんどの中央銀行も保有資産の評価損益は最終損益に含まれない。

 FRBも最終損益が利益となれば、その大半を国庫納付しているが、これは本来が国庫に帰属する通貨発行益だからで、これもだいたいどの中央銀行も同じである。

 その考え方からすると中央銀行の最終損失も国庫に帰属することになり、FRBも2023年の損失は将来の国庫納付分から差し引くことにより国庫負担としている。ちなみに日銀も最終利益のほとんどを国庫納付しているが、逆に損失は国庫負担になるとは聞いたことがない。それだけ国庫を管理する財務省が「えげつない」ことになる。

 それではこのFRBの巨額損失はどこから来ているかというと、FRBの保有債券の平均利回り(約3.5%)と調達コスト(Reserve BalancesとReverse Repoのコストで現在は5.3%=政策金利の下限プラス0.05%)との逆ザヤによる損失である。

 このままだと(今から利下げしても)FRBは2024年も巨額損失となるが、それが回避できる政策金利は3.50~3.75%か3.25~3.50%となる。FRBの保有債券の平均利回りの約3.5%は、現在の利回り水準ではほとんど変化しない。

 この辺は政府(米財務省)もFRBも意識しているはずで実際に国庫負担を軽減するためにも、政策金利の下限を3.50%か3.25%まで「できるだけ早急に」引き下げる(つまり利下げする)必要がある。1回の利下げが0.25%として7~8回分となり、通常ペースなら約1年かかることになる。

 金融政策とは、その効果が曖昧な経済・金融理論ではなく、こういう現実論から決まるものである。

 つまり今回のFRBの利下げは「早急かつ大幅」なものとなるか、あるいはFRB保有債券残高を「急激に」縮小して、とにかく巨額の逆ザヤを解消する必要がある。現実的には「早急かつ大幅」な利下げしかない。

 これがこの項の最初に書いた最初の利下げ幅が0.5%の可能性が大きくなっていると書いた現実的な理由である。FOMCの結果発表は日本時間19日未明なので間もなく答が分かる。この現実的な理由を頭に入れて結果発表を待って頂きたいが、それでも最初の利下げは0.25%と予想する。

 その理由は大統領選前の最後のFOMCなので、各投票メンバーは「あまり」急激な変化を求めないと思うからである。

 今後の(利下げ後の)為替市場におけるドルの水準については、この後のユーロ圏、英国、そして日本の解説の中で予想していく。


その2 ユーロ圏の経済状況とECBの金融政策をめぐる「いろんな事情」


 ユーロ圏の8月消費者物価指数(HICP総合)は前年同月比2.2%上昇となり、7月の同2.6%上昇からさらに落ち込んだ。国別でもドイツの8月は同2.0%上昇と、共に2.0%割れの「異常」が米国より近い。ピークは2022年10月の10.1%と米国より高かった。

 その結果、ECBはFRBに先行して6月5日に続いて9月12日に0.25%利下げしたと報道されているが、それは金融機関のECBへの預け金金利のことで、確かに4.0%から2回の利下げで3.5%となっている。

 最も重要なECBから金融機関への貸出基準金利は、6月5日に4.5%から4.25%へ引き下げられたが、9月12日には4.25%から3.65%へ0.6%も引き下げられている。

 もともと両者の差は0.25%だったが、マイナス金利時代に「さすがに」貸出基準金利までマイナスにはできず0.0%としていた。ECBへの金融機関の預け金金利はマイナス0.5%まで下がったため、両者の差が0.5%に拡大して「そのまま」となっていた。 

 今回はそれを元に戻してもECBの貸出基準金利は3.75%となるところを3.65%と「さらに」引き下げている。つまり9月12日時点でECBは「まだ利下げしていない」FRBに遠慮して、自らの預貸利ザヤを削ってでも目に見える利下げ幅を抑えたことになる。

 しかしFRBも利下げするため次回からはそんな遠慮は不要で、ECBはもっと大幅に利下げできる。ユーロ圏の経済状況は米国より悪化しているため、ここからECBはFRBに負けないペースで利下げしていくのか?というと、実はそうではない。

 今回の利下げでECBの調達金利は3.5%まで下がったため、ECBが保有する債券(域内各国の国債と政府機関債)の平均利回りとの逆ザヤが「かなり」解消されている。確かに9月17日現在のドイツ10年国債利回りは2.15%と米10年国債利回りの3.65%より低いが、ECBはドイツ国債より利回りの高いフランス、イタリア、スペインなどの国債も買い入れているため、実はECBの逆ザヤは「もうほとんど」解消されている。

 現実的にはECBが「どうしても」利下げしなければならない幅は「もうほとんど」ない。ここからの金融政策は、経済状況と物価上昇のバランス、あるいはユーロの対ドル相場を睨んだECBの「フリーハンド」となる。

 つまり「どうしても」早急かつ大幅な利下げが必要なFRBに対し、「フリーハンド」があるECBとなる。例えばECBが経済状況の改善や株高や対ドルのユーロ安を重視するならあと3回以上(つまり0.75%以上)の利下げ、物価のさらなる落着きやユーロ高を重視するならあと1~2回(つまり0.25~0.50%)の利下げとすればよい。

 9月17日現在のユーロは対ドルで1ユーロ=1.1100ドル前後と、昨年末(2023年12月29日)の1ユーロ=1.10356ドルから0.6%しか上昇していない。

 それでも「敢えて」予想すると、ECBの利下げはあと0.5%(0.25%が2回)で年内に利下げが終了し、ここからのユーロは対ドルでやや上昇するはずである。

 またECBも2022年7月からQTを継続中であるが、もともと逆ザヤがそれほど大きくなくECBの2023年の最終損失も12億6600ユーロ(直近の1ユーロ=158円で計算して2000億円)と損失額はFRBの1.2%でしかなく、ECBの保有債券残高はピークとなった2022年7月の5.13兆ユーロから直近の4.65兆ユーロまで9.3%縮小しているだけである。

 ここでも「これからの」ECBはユーロ圏の経済状況が悪化して国債利回りが低下し過ぎるとQTのペースを上げるなどの「フリーハンド」がある。

 ここでユーロ圏最大の問題は経済問題でもエネルギー問題でもなく、ドイツの弱体化である。ドイツのショルツ政権は対ロシアを含むエネルギー政策、EV政策、移民政策「すべて」に失敗しており、フランスより極右(AfD)政権が誕生する可能性が高くなっている。AfDは脱EU、脱ユーロを掲げており、ここは注意しておく必要がある。

 またドイツ第2位のドレスナー銀行まで、イタリア最大のウニクレディトに買収されそうになっている。

 

その3 英国の経済状況とBOEの金融政策をめぐる「いろんな事情」


 ユーロ圏や米国より「はるかに」不安定な英国である。歴史的にも英国は、政治にも経済にも金融市場にも波乱が多く、目が離せない国である。

 英国の8月消費者物価指数(総合)は現地時間9月18日早朝に発表される。7月は前年同月比2.2%上昇だったが、その前の5月、6月は同2.0%上昇で、最近は経済状況の悪化が目立っていることになる。消費者物価のピークは2022年10月の同11.1%上昇で、この上昇率は米国やユーロ圏より大きい。

 一方で2024年1月時点でも英国の消費者物価指数は同4.0%上昇と、同時点の英国(3.1%上昇)、ユーロ圏(2.8%上昇)より高止まりしており、比較的最近まで英国の利下げの可能性は米国やユーロ圏よりも低いと考えられていた。

 そんな英国でBOEが8月1日に政策金利を2023年8月から維持していた5.25%から5.0%まで引き下げた。この決定は「やや」意外で、実際の評決も5:4だった。またこの時点で次回の利下げについては何の言及もなかった。

 BOEも9月18日に政策決定会合があるが、追加利下げがあるかどうかは全く不透明である。

 それでも「あえて」予想すると、今回の追加利下げは見送るが、同日早朝に発表される8月消費者物価指数が前年同月比で2.0%を割り込んでいれば、0.25%の追加利下げとなるはずである。

 9月17日のポンドの対ドル相場は1ポンド=1.3170ドル前後と、昨年末の1ポンド=1.27280ドルより3.5%ほど高い。ポンドは昨年末以降の対ドル相場が主要通貨で最も上昇している。

 これは「比較的最近まで」物価上昇で利下げの可能性が低いと見なされていたところから見通しが修正されていないことになり、ここから徐々に修正されていく(つまりポンド安になる)はずである。とくに9月18日にBOEが追加利下げとなれば、そこからポンド安が加速するはずである。

 ところでBOEはFRBより早い2022年2月からQTを継続しており、ピークで8750億ポンド(現在の1ポンド=187円で計算して163.6兆円)あった英国債保有残高を直近で690億ポンド(同129兆円)まで縮小している。

 実はこの縮小額はBOEの保有国債償還額より大きく、BOEは世界で唯一の保有国債を市中売却している中央銀行となる。8月1日の利下げ後も年間1000億ポンドの保有国債の縮小ペースは維持している。

 またトラス政権時代の2022年9月に大規模な減税を「突然に」発表したため、英国債市場とポンドが急落したことがあったが(1ポンド=1.03ドル台と37年ぶりの安値となった)、その時もBOEは英国債売却を中止しなかった。

 妙なところだけ律儀な英国人の気質をよく表しているが、それでBOEは保有する英国債の平均利回りと調達コストの逆ザヤだけでなく、保有国債の一部を償還前に市中売却した売却損まで加わり、QT開始以来の損失が610億ポンド(同11.4兆円)にも上っている。

 英国でもBOEの国債関連損益は国庫(財務省)に帰属するが、英国では実際にその損失分の610億ポンドを財務省が直接BOEに支払っている。 

 ここでも妙なところだけ律儀な英国人の気質をよく表している。英国では他にも「似たような話」がいっぱいあるが、別の機会にご紹介したい。

 そしていよいよ日本(日銀)である。


その4 日本の経済状況と日銀の金融政策をめぐる「いろんな事情」


 日本の8月消費者物価指数(総合)は9月20日に発表されるが、7月は前年同月比2.8%上昇と、米国(2.9%)とほぼ同じで、ユーロ圏(2.6%)や英国(2.2%)より上昇していた。また日本の消費者物価指数のピークは2023年2が月の4.3%上昇と、米国やユーロ圏よりかなり低い。

 日本の消費者物価指数は生鮮食品を除いた数字が重視されているが、国際比較のためには総合を重視すべきである。8月はまさにその生鮮食品が値上がりしている。

 それでは日本経済は「物価が安定的に上昇するほど」順調なのか?というと、これも違う。(ここにきて急激に修正されているが)円安と輸入に頼るエネルギー価格の上昇によるもので、日本経済が順調に成長している結果ではない。

 それでも日銀は3月19日に政策金利(短期金利)のマイナスを解消して0.0~0.1%とし、同時に長期金利の上限を設定していたYCCも解消する「金融政策の正常化」に踏み切った。 

 さらに7月31日には政策金利(短期金利)を0.25%に引き上げ(この時点でリーマンショック後の2008年12月以降で最高の政策金利となる)、同時に日銀の国債買入れ額の縮小開始も発表した。

 買入れ額の縮小は現在の月額6兆円程度から徐々に縮小し、2026年1~3月に月額3兆円とするが、実際の日銀保有国債残高は2025年後半から徐々に縮小に向かう程度で、日銀はまだ量的引き締め(QT)を開始していないことになる。

 それより日銀の「親会社」である財務省は、ここでアベノミクスを完全終了させたことになる。日銀の金融政策は主要中央銀行に比べて「1周り以上」遅れており、世界の中央銀行で唯一「物価上昇を抑えるための利上げもQTも実施することなく」経済回復に専念することが出来たはずである。

 その割には足元の日本の経済状況も、その弊害であるはずの物価上昇も「それほど」ではない。その理由はアベノミクスが実施されている間に財務省は消費税を5%から(軽減税率があるとはいえ)10%まで倍増させ、とくに2021年10月に岸田政権になると緊縮財政・増税路線を「さらに」強化しているからである。

 そして日銀は「さらに」利上げすると公言している。大変に違和感があるが、これこそ日銀の金融政策をめぐる「最大の事情」である。

 現在の日銀は完全に財務省の傘下であるため、日銀の事情は財務省の事情で、財務省の事情は日本の金利水準を長短とも引き上げて財務省傘下の金融機関の収益を拡大させるためである。長短金利が上昇すれば貸出金利や日銀当座預金への付利は「すぐに」上昇するが、預金金利や生保の配当率などは「ほとんど」上昇しないため、まさに「濡れ手に粟」状態となる。

 最近は「うまい具合に」金融機関やその取引先の上場企業も「社外取締役」を多数起用することになっているため、財務省OBや「御用学者」などを大量に送りこむことが出来る。まさに「形を変えた天下り」で、自然に財務省の金融機関や上場企業に対する発言力も増すことになる。

 このタイミングで日銀に「利上げ」を公言させる理由は、これしかない。

 日銀の政策決定会合は9月19~20日であるが、FRBの利下げが確定的であり、また(あまり関係ないと思うが)自民党総裁選を控えているタイミングでもあるため、今回は「さすがに」利上げは見送ると思われるが、日銀の金融政策はここまで見てきたFRBやECBやBOEなどとが「また違った事情」で決まるため、何が起こっても不思議ではない。

 その反動は当然に円高である。FRBを含む主要中央銀行が利下げに向かう中で日銀だけが世界で唯一の利上げを公言しているからである。

 ドル円は昨年末(2023年12月29日NY終値)の1ドル=140.97円から、7月11日に一時1ドル=161.95円と1986年12月以来の円安となったが、そこで円買い・ドル売り介入がありFRBの利下げ開始が確定的となるなどで9月16日には一時1ドル=139.57円と2024年の最円高となり、9月17日NY終値は(どういうわけか多少の円安となる)1ドル=142.20円となった。

 まだ株式市場では「条件反射的に」円高は株安、円安は株高となっているが、実際に円高が進んでいるため日経平均(東京市場終値))は7月11日の42224円から9月17日の36203円まで14.2%も低い。利下げが確定的であるためNYダウは史上最高値圏にある。

 さて積みあがっていた円キャリートレード残高が8月上旬までに「ほとんど」解消されたため、円高加速もほぼ完了したとよく言われるが、それはレバレッジが掛かった狭義の円キャリートレード残高だけの話である。

 これからFRBが利下げ開始となり(見てきたように急速かつ大幅な利下げとなる)、日銀が利上げを公言いているため、ここまで根雪のように積みあがった広義の円キャリートレード残高(要するに売り遅れているドルや、買い過ぎているドルのこと)がこれから徐々に解消に向かうことになる。

 この広義の円キャリートレード残高は、円高に向かえば向かうほど解消すべき残高が膨らむ「厄介な」ものである。

 つまり本格的な円高は「まさに」始まったばかりである。2023年末のドル円は1ドル=140.97円であるが、2022年末は1ドル=131.10円、2021年末は1ドル=115.09円、2020年末は1ドル=103.25円だった。 

 この円高が止まる時は、日本経済がさらに落ち込み、(その時点の政策金利から)また利下げ期待が出てきて、とくに長期金利(10年国債利回り)が想定以上に低下する時である。

 実はこの可能性は2025年中には「結構」高くなっていると考えている。