見出し画像

急反発した円、急落した日経平均  2回目

急反発した円、急落した日経平均  2回目


 前回(7月30日付け)の続きである。7月31日まで開催されていた日銀政策決定会合を受けて円相場がまた急反発し、日本株(日経平均)がまた急落している。そして同日まで開催されていたFOMCを受けて米国株式も急落し、さらなる円相場の急反発と日経平均の急落となっている。

 本日(8月5日)午後3時過ぎに円相場は一時1ドル=141.66円、日経平均の終値は4451円安(12.40%安)の31458円となっている。日経平均の下落幅はブラックマンデー翌日を抜いて過去最大であるが、そこに入る前に「少しだけ」前回記事のポイントを振り返っておく。流れをよりスムーズに理解するためである。


その1 7月11日に何が起こった?


 日経平均は7月11日に42224円(終値)の史上最高値となり、円相場は7月3日に一時1ドル=161.95円と1986年12月以来37年半ぶりの円安となっていた。円相場は7月11日の夕方時点でも1ドル161.60円前後とほとんど7月3日から変化していない。

 ちなみに前年末(2023年12月29日)最終値は円相場が1ドル=140.97円、日経平均が33464円だったため、2024年に入ってから7月11日の夕方までは円安と株高が続いていたことになる。

 その7月11日のNY時間早朝(日本時間同日の夜間)に日本政府(財務省)が円買い・ドル売り介入を実施し、翌12日のNY時間と合わせて介入額は5.5兆円となった。円相場は翌週前半(7月15~17日)に一時1ドル=156円台半ばとなるが、日経平均はまだ41000円台を維持しており、一方でNYダウは7月17日に41198ドル(終値)の史上最高値となるなど、まだまだ円安・ドル高と世界の株高は持続するものと思われていた。

 日本政府(財務)は円相場が瞬間的に1ドル=160円台に乗せた連休中の4月29日と5月2日に合わせて9.8兆円の円買い・ドル売り介入を実施していたが、すぐに旺盛なドル買いに押されて円安となり、株高も続いていた。

 ところが今回(7月11,12日)は介入額が前回の半分だったものの円相場は円安に戻らず、7月30日夕方過ぎには1ドル=154円台後半、日経平均(終値)は39101円となっていた。翌31日まで開催されている日銀政策決定会合において「唐突な」利上げ観測が出ていた影響もある。

 また同日にはFOMCも開催されているが、FRBの政策金利は2023年7月から1年間も5.25~5.50%に維持されたままで、その間に何度も利下げ開始期待が出ては裏切られていた。


その2  ここで日銀の金融政策とは?


 日銀の金融政策は日本政府から「独立」していると思われているが、そうではない。とくに現時点では、9月の自民党総裁選を控えた岸田首相と「その周辺の有象無象」が暗闘を繰り返しており、日銀の金融政策は日本の経済・金融事情ではなく(もちろん国民生活の向上のためでもなく)政治事情で動いていると理解しなければならない。米国など世界の中央銀行の金融政策も似たようなものである。

 政府内でも岸田政権は2021年10月の発足直後から財務省の「言いなり」で緊縮財政・増税路線を押し付け、また日銀のコントロールも「すっかり」財務省に奪われている。そこは前任の安倍・菅政権が主導した政策を100%否定するもので、なかでも日銀の金融政策は日本経済や国民生活のためではなく、ひたすら財務省の「省益」と傘下金融機関の「収益」のためとなっている。

 また岸田首相は財務省だけでなく、米バイデン政権や(安倍派を潰してくれた)東京地検特捜部や(後釜を狙う有象無象の背後に潜む)中国共産党、さらには連立相手の公明党(創価学会)や韓国政府とその背後に潜む北朝鮮など、自分の政権維持のために周りにいる強そうな相手の「言いなり」でもある。

 ここでバイデンは11月の大統領選から降ろされたが、現政権の背後にいる軍産複合体や極左グループや不正移民を集結させて米国政府を混乱させようとする勢力やLGBT推進勢力など米民主党を支配下に置く勢力が大統領候補を「より左翼」のカマラ・ハリスに入れ替え、何としてでもトランプのホワイトハウス奪還を阻止しようとしている。

 岸田首相はそんな米民主党を支配している有象無象の勢力の「言いなり」でもあり、国民に隠してウクライナに巨額資金を提供する密約を結び(4月に米国政府から国賓待遇で招待されて逃げられなくなった)、今度は自衛隊の指揮権まで米軍に譲り渡そうしている。

 そんな岸田首相であるため今回の日銀政策決定会合における政策変更も、日本の財務省だけでなく米国政府(米民主党を支配下に置く勢力のこと)などの意向を反映したものとなる。

 さらに今回の日銀政策決定会合直前に利上げ観測が出てきたタイミングは7月19日以降である。河野太郎・デジタル担当大臣と茂木敏充幹事長といった「とくに」親中の自民党幹部が所管外にもかかわらず唐突に「利上げが必要」と発言し、岸田首相も負けずに「金融政策の正常化(利上げのこと)が成長型経済への移行に必要」など全く意味不明に繰り返していた。岸田首相は今回の政策決定会合後に「政府と日銀の連携により金融政策の正常化(利上げのこと)が実現した」と自慢し、自ら日銀に圧力をかけて利上げに追い込んだと白状している。

 それ以前には日銀が3月19日まで開催されていた政策決定会合でマイナス金利と長期国債の上限利回りを撤廃し、ETFなどリスク商品の買入れも終了させた背景は、財務省が金融政策の正常化を前面に出して「一気に」アベノミクス時代の金融政策を消し去るためである。これも「利上げ」であるが、円相場はその直後に1ドル=150円台に乗せ、さらに円安が加速していた。


その3 そんな日銀から何が飛び出した?


 そんな日銀は7月31日午後1時に政策金利を0.0~0.1%から0.25%に引き上げると発表した。政策委員の評決は7:2で満場一致ではなく、2名の委員が「時期尚早」と反対している。

 アベノミクス後の最初の「本格的な」利上げである。0.25%と言っても「すでに」リーマンショック以降の最も高い政策金利である。

 また同時に日銀は国債買入れについて、現行の月額6兆円弱の買入れ額を徐々に(四半期毎に4000億円ずつ)減らして2026年1~3月には月額3兆円程度にすると発表したが、これは6月の決定会合時に「予告」されており評決も満場一致だった。

 日銀による量的引き締め(QT)の開始である。日銀はアベノミクス初期の2013年4月に「異次元」金融緩和として国債の大量買い付けをスタートさせているが、実は日銀はそれより「ずっと以前」から国債を定期的に買入れていた。つまり今回のQT開始は戦後の日銀の歴史において季節的変動を除いて「初めて」保有資産を減少させる(市場から資金を引き揚げる)ことになる。

 つまり日銀は7月31日をもって、リーマンショック以降で最も高い政策金利と日銀の歴史上「初めて」保有資産を減少させる本格的な金融引き締めに突入したことになる。

 それでは足元の日本経済は「そんな」本格的な金融引き締めが必要とされる状況なのか?

 明らかに違う。日本の実質GDP成長率は、コロナ後の2021年度が前年比3.0%成長、2022年度が1.7%成長、2023年度が1.0%成長と「着実に」鈍化を続けており、中でも2023年度最後となる2024年1~3月期の実質GDP改定値は公共投資の計上ミスまで加わって、前期比年率換算2.9%もの大幅マイナス成長となっていた。

 また7月31日の政策決定会合に合わせて日銀自身の2024年度の大勢見通しを公表している。政策委員諸氏の見通し中央値として実質GDPを前年度比0.6%成長(4月時点は0.8%成長)、生鮮食料を除く消費者物価指数を同2.5%上昇(4月時点は2.8%上昇、2023年度実績は3.0%上昇)としており、2024年度は2023年度より「さらに」低成長となり物価上昇も落ち着くと予想している。

 ちなみにIMFの2024年世界経済予想(7月時点)における各国実質GDP予想は、日本が0.7%、米国が2.6%、ユーロ圏が0.9%、英国が0.7%となっているが、すでにECBは6月に英国中央銀行は7月に利下げに踏み切っている。

 そんな中で日銀はリーマンショック以降「最大級の」利上げと、歴史上「最初の」QTに踏み切ったことになる。さすがに今回の金融引き締めは日銀の植田総裁や政策委員諸氏の本意ではなかったはずで、さらに気の利いた「言い訳」を考える時間的余裕もなかったようである。

 7月31日午後1時の発表後しばらくは「悪材料(利上げ)出尽くし」と受け取られたからか、円相場は1ドル=154円台後半、日経平均終値は576円高の39101円となっていた。しかし午後3時半から植田・日銀総裁の記者会見が進むにつれ、状況は一変する。

 植田総裁会見のポイントは以下の通りである。

「安定的な2%物価上昇が見込めるようになっている」

 日本の生鮮食料を除く消費者物価指数の前年比上昇率は2022年4月にその2%を超え、2023年1月にはピークの4.2%となっていたが、日銀はずっと「賃金上昇を伴う安定的な2%物価上昇は実現していない」として超緩和的な金融政策を継続していた。2024年3月にようやく春闘による十分な賃金上昇が見込めるとして金融政策の正常化に踏み切っていた。今回は「いつの間にか」その安定的な2%物価上昇が見込めるようになっていたそうであるが、足元の(6月の)消費者物価指数は同2.6%上昇とピークから明らかに低下している。

「(今回の利上げは)円安によるさらなる物価上昇を回避するため」

 確かにその通りであるが、円安が加速していた間には全く出なかった発言が、明らかに7月11日以降に円相場が急反発している最中に飛び出している。だいたい日本経済の成長鈍化が続いている時期の金融政策は、物価上昇抑制より経済活動活発化を優先すべきである。

「さらなる利上げを模索することになる」

 ここが最大のサプライズで、(政策金利の)上限とされる0.5%にも拘らないとまで付け加えている。ちなみに日本の政策金利は公定歩合だった1996年9月以降、0.5%を超えたことがなく、また0.5%だった時期も短い。

 「何から何まで」違和感だらけだった植田総裁の記者会見を受けて円相場が1ドル=150円に接近したところに、NY時間7月31日午後(日本時間8月1日未明)にFOMCを終えたパウエルFRB議長の記者会見が追い打ちをかける。


その4 FOMC直後のパウエル議長の発言とは?


 先ほども書いたようにFRBの政策金利は1年前の2023年7月に現在の5.25~5.50%に引き上げられてから何度も利下げ開始期待が出ては、その都度裏切られていた。しかしここに来てそのパウエル議長が豹変する。

 これまでの議長は物価上昇がまだ十分に落ちついていないとして利下げ開始を引き延ばしてきたが、ここに来て「初めて」雇用情勢の悪化を持ち出して次回FOMC(9月17~18日)における利下げ開始の可能性に触れた。

 要するにFRBは足元の物価上昇の高止まりを気にするあまり、肝心の米国経済とりわけ雇用情勢の悪化を過小評価していたことになる。米国の失業率は2023年5月の3.4%をボトムに6月の4.1%まで上昇しており、景気後退のシグナルとされる2年国債と10年国債の利回り逆転は2022年7月から2年間も続いている。

 だいたいパウエル議長はオバマ政権時代の2012年にFRB理事に選任され、トランプ政権時代の2018年2月にFRB議長に指名されており、時の政権に気を遣うタイプである。だから2023年3月の利上げ開始も明らかに遅れており、今回はさらに利下げが遅れたことになる。

 トランプは政権に復帰すればパウエルを更迭すると言っていたが、最近になって取り消している。また自分の大統領就任までは利下げを待つようにとも言ったとされており、パウエルはそれで下げ開始が遅れて米国経済低迷のサインを見落としていたことになる。トランプは政権に復帰すれば、はやりパウエルは更迭したほうが良い。

 そんなパウエルの利下げ開始発言は、植田総裁の記者会見の半日後であり、さらに翌8月2日に発表された7月雇用統計は雇用者数が事前予想を大きく下回る11.4万人の増加でしかなく、失業率も4.3%まで上昇していた。

 結局のところ先週末(8月2日)のNY時間終値で、米2年国債利回りが3.87%、10年国債利回りが3.79%まで低下し、NYダウは39737ドルまで下落して史上最高値となった7月16日の41198ドルから3.54%の下落、NASDAQ総合指数は16776ポイントまで下落して史上最高値となった7月10日の18647ポイントから10.0%の下落となった。

 だいたい経済活動が低迷するから利下げするもので、本来は利下げが株式市場にとって「好材料」とは限らない。ここのところFRBの利下げ期待から米国だけでなく日本を含む世界中の株式市場が上昇していたことは、比較的珍しいケースとなる。

 米国だけでなく日本を含む世界中の株式市場の上昇を主導していたマグニフィセント7の時価総額合計も、ピークとなった7月10日の16兆9800億ドルから先週末の15兆1000億ドルまで1兆8800億ドル(275兆円)も目減りしている。

 米国と比較して日本はもっと悲惨で、円相場は先週末(8月2日)のNY時間終値で1ドル=146.50円となり、37年半ぶりの円安となった7月3日の一時1ドル=161.95円から9.54%の急反発となっている。

 また同日の日経平均は東京時間終値で2216円安(5.81%安)の35909円まで急落していたが、NY時間終了時の夜間先物市場では34800円と「さらなる」急落となり、史上最高値となった7月11日の42224円からNY時間終了時まで17.6%もの急落となっている。

 本日(8月5日)はさらに悲惨で、冒頭書いたようにドル円は午後3時過ぎに一時1ドル=141.66円と、昨年末の終値である1ドル=140.97円に急接近となり、日経平均(終値)は4451円安(12.40%安)の31458円と、昨年末の終値である33464円を大きく下回ってしまった。日経平均の下落幅はブラックマンデー翌日を37年ぶりに超えて過去最大である。


その5 それでは円相場と日本株(日経平均)はここからどうなる?


 これら急激な値動きの基本的な背景は、7月上旬に世界の円キャリートレード残高が史上最高額まで積み上がっていたところに7月11日の日本政府による円買い・ドル売り介入があった。日本政府の為替介入には必ず米国政府の承認がいるため米国政府もこれ以上のドル高を避けたいと考えている可能性も浮上したため、一部でキャリートレードのポジション解消が進んでいた。しかし7月31日の日銀政策決定会合の前までは、まだまだ半分以上(3分の2ほどの)ポジションが残っていたはずである。

 これはIMMにおける建玉推移から判断するが、IMMの建玉といっても全体の為替取引に占める割合は「ほんの一部」で、また発表が週1回であるため、あくまでも傾向を把握する程度にとどめるべきである。

 またこれとは別に円売り・日本株買いや、ドルの買い下がりや、日本株・米国株の新規買いなどのポジションも積み上がっていたところに、7月31日の日銀政策決定会合による利下げ決定と、FOMC後のパウエル議長の利下げ発言が加わったため、これら大半のポジションが一気に巻き戻されたはずである。

 円のキャリートレードは、低利の円を調達してドルに転換し、その資金が米国資産(主に米国株とくに半導体やAI関連)に向かっているため、一気に円の買戻し・米国株売りとなる。

 この組み合わせは日本株にとっても大きなダメージとなるが、それに円売り・日本株買いや、ドルや日米株式の買い下がりのポジションまで一気に解消(損切り)され、結果的に円が急反発して日本株が急落となった。とくに日本株は2024年に入ってからの上昇分以上を吐き出してしまった。

 結果的に2024年に入ってからの(反対決裁が必要な)日本株のポジションは「ほとんど」解消され、同じく(反対決裁が必要な)円売りポジションも「かなり」解消されたはずである。

 ここからの日本株(日経平均)は、株価下落による資産効果の剥落に円高による輸出大手企業の業績悪化が加わり日本経済の低迷にも拍車がかかるため、明らかに下落幅は行き過ぎであるが値ごろ感だけで本格反発とはなりにくい。また最近急増しているアクティビストによる日本株ポジションも「相当な」ダメージとなり、資金量の乏しいアクティビストはポジション解消に追い込まれるているはずである。

 円相場については、日米金利差が一気に解消されるわけではなく、日本経済低迷のため「さらなる」利上げ予想も萎むため、また新たにキャリートレードなど円売りポジションが積み上がってくるはずである。

 以前から書いているように円相場は、1985年2月の1ドル=263円から2021年12月の1ドル=102円までの37年間の「円高とボラティリティ低下」の時代が終わり(1ドル=360円の固定相場が終焉した1971年8月のニクソン・ショックから数えると50年となる)、2022年初めに「円安とボラティリティ拡大」の時代に入ったばかりで、簡単に元に戻るはずがない。

 つまり現在も間違いなくボラティリティは拡大しており、円安も取引レンジをやや拡大させながら「相当期間」続くはずである。とりあえず1ドル=140円より円高が定着するとは思えず、まもなく円安再開となるはずである。

 ただ11月5日の米国大統領選では、さすがに米国の有権者は左翼勢力が擁立するカマラ・ハリスより、もう少しまともなトランプを選ぶはずである。そのトランプの通商・経済・外交・軍事政策は日本にとって厳しいものであるはずで、そこは慎重に考える必要がある。しかしとりあえず現時点ではこのように考えている。