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「勉強しなさい」より、大人がワクワクしながら学ぶ。ビリギャル小林さやかさんと、子どもの可能性を開く社会を探究する

若者の自己肯定感が低い日本。

「自分自身に満足している」と答えた若者は約45%で、諸外国と比べて著しく低い数値となっています。子どもは可能性に溢れていると言われることがありますが、この数値を見ると、可能性にフタをしてしまっているのではないかと思ってしまいます。そのフタを生み出しているものとは、一体何なのでしょうか。

岐阜県飛騨市で中高生向けの探究塾「EdoNewSchool」の開校準備を進める株式会社Edoは、「どうしたら、子どもの可能性が開く社会をつくれるのか?」をテーマとしたトークイベントを開催しました。ゲストは、ベストセラー本『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話(以下、ビリギャル)』に登場する主人公のモデルとなった小林さやかさん。

聞き手は、Edo代表の関口と、スタッフの安久都が務めました。

小林さんは、大学卒業後も変わらず自分の可能性を信じて学び続けている大人の1人。「影響を受けてきたのは、近くにいる人の存在だった」と言い、これまでに出会ってきた方が自身にどのような変化をもたらしたのかをイベントの中で語って下さいました。

この記事を読んでいるあなたは、自分の可能性を信じていますか?

この問いに自信を持って「はい」と答えられない方にこそ、トークイベントの内容をじっくりと味わっていただきたいと思います。

小林さやかさん
1988年3⽉⽣まれ、名古屋市出⾝。
『学年ビリのギャルが 1 年で偏差値を 40 上げて慶應大学に現役合格した話』(坪田信貴・著)の主人公であるビリギャル本人。高 2 の夏に小学4年レベル、偏差値30 の学⼒しかなく、教師に「人間のクズ」と呼ばれたことも。その後、1年で偏差値を40上げ、慶應義塾大学に現役で合格。
卒業後は、ウェディングプランナーとして仕事をし、その後は講演、学⽣・親向けのイベントやセミナーの企画運営など、幅広い分野で活動中。2019年3⽉に自⾝初の著書『キラッキラの君になるために ビリギャル真実の物語』(マガジンハウス)を出版。
2021年に学習科学の分野で修士課程修了。2022年秋より米国コロンビア教育大学院に進学予定。

認知科学の研究によって、教育の“前提”は大きく変わった

ーー 昨年から勉強を開始し、見事コロンビア教育大学院に合格した小林さん。まずは、小林さんが研究を進めている学問についてお聞きしました。

安久都:小林さんが学ばれている認知科学や学習科学とは、どのような学問なのでしょうか?

小林:一言で言うと、人がどう学んでいるのかを科学的に捉えようとしている学問です。大きく分けると、心理学に分類されます。これまではずっと、「赤ちゃんは何も知らず、白紙の状態で生まれてくる」と捉えられてきました。だから、教育によって知識を詰め込んでいかないと、一人前の人間として生きていけないという考え方が当たり前でした。

けれど、研究が進んでいったことで、そうではないことがわかってきたんです。生まれてきた時点で、赤ちゃんは知っていることがたくさんある。主体的に学ぶ能力がある。その力を、、教育によってどう引き出していくか、という視点に変わっていったんです。

今の教育の多くは、学校の先生が知識の伝達者となり、いかに効率良くたくさんの情報を詰め込めるかを重視していますよね。でもそれって違うんじゃない? といろんな人が言い始めたわけです。

関口:今まさに私は飛騨市の教育委員会の方と一緒にお仕事をさせてもらっているのですが、その中での中心テーマは「人が育つ地域をどうつくるか」なんですよね。どんな知識を身につけるかよりも、どんな資質や能力を育めるか、という視点で考えているところです。小林さんのお話を聞きながら、地域全体で取り組もうとしていることと繋がるなと思いました。

「かっこいい大人」の存在が、子どもの可能性を広げる

ーー 小林さんが学習科学に興味を持った背景には、ベストセラー本『ビリギャル』を読んだ方からの言葉が影響していると言います。

「元々頭がよかったから慶應大学に行けたんだ」

そんな意見に対し、「違う」と反論する小林さん。では、何が小林さんを慶應大学合格へと導いたのでしょうか。

小林:信じてくれた人が近くにいたから。この一言に尽きます。塾講師の坪田先生や母親が高い目標を持った私を否定せず、サポートしてくれたから、頑張れた。母親からは、「ナイストライだね!さやちゃんは何でもできるよ」と小さい頃から言われ続けてきましたし。だから、「慶應大学に受かることが無理」だなんて、最初は思いもしませんでした。

今回のコロンビア教育大学院受験でも、夫の存在がすごく大きかったんです。受験を始める前に、私が「海外行ってみようかな」とボソッと言ったら、彼が「めっちゃいいと思う!」と言ってくれて。「会社はどうするの?」と聞くと、「辞める」と即決(笑)。2人でアメリカに住むなんて楽しそうじゃない?という話になり、それで勉強へのスイッチが入ったんです。そういうマインドの人が近くにいてくれたことが大きかったですね。

安久都:自分の夢を応援してくれる人の存在によって、その夢の実現に大きく近づく感じがします。多くの子どもが「自分には無理」と思ってしまう要因は、周囲の人の影響もあるのかもしれませんね。

小林:「自分にはできない」と思う子ども達は、可能性を信じてくれる人に出会っていないだけなんじゃないかなと思います。夢を語っても、「それより次の定期テストに向けて頑張りなさい」と言われてしまう。それだと新しいことに挑戦できないですよね。子どもの可能性を開くには、「かっこいい大人だ」と思われるような人を増やすのが近道だと思います。

学校教育の課題は、先生が学び続けられる仕組みができていないこと

ーー さらに話題は、先生の忙しさや学校教育の仕組みへと広がりました。子どもの可能性を阻む要素は、さまざまなところにあるようです。

関口:僕は学校の中に入らせてもらって、授業づくりのお手伝いさせてもらうことがあります。その中で、自分の心が反応することがあるんですよね。

プロジェクトベースの学びに関わっていたときに出会った「自分を変えたい」と言う男の子のことが印象に残っています。彼は元々、10人くらいの前でしかしゃべれなかったんです。それが、自分で決めた課題の取り組み成果を発表する場面では、500人の前でしゃべることができた。その様子を見て喜ぶ先生方に、心を動かされましたね。

関わっている先生からは、「人の成長について、没頭して探究したりする時間が取れない」「仲間と学び合えるコミュニティがない」という悩みをよく聞きます。先生が学びを深められる仕組みはどうしたらできるだろう、と考えることがあります。民間事業者だからこそできることをやっていきたいですね。

小林:日本の学校の先生は、忙しすぎますよね。情熱の塊のような人が集まっているはずなのに、そういう人たちが子ども達と向き合ったり、学び続けたりする仕組みができていないなと思います。

私は、生徒への学習評価の問題も気になっていて。先生達の力で授業を変えることはできるけれど、受験システムが変わらないと難しい部分はあると思います。

「失敗させない」より、「失敗から何を学ぶか」が大切

ーー  実際に学校現場に入り、先生とともに授業づくりに取り組んだ経験のある小林さん。そこでは、受験システムが学校での授業に大きく影響していたと言います。

小林:例えば、私が関わってきた中学校では、主体的で対話的な深い学びを重視していました。そのために、ある先生が講義型から探究型の授業スタイルに切り替えたことがあったんです。生徒達自身で課題を見つけ、答えを探していく。長期的に見たら、効率的に暗記するよりもそっちの方が楽しいし記憶にも残ります。けれど生徒達からは、「テストでどこが出るかわからないので、前の授業に戻してくれませんか?」という意見が出てしまったんです。評価の問題って、それくらい大きいんですよね。

多くの大学受験においても、知識量を問う評価方法から脱却できていません。そこから抜け出さない限り、子どもも保護者もそこに合わせるしかないんですよね。

関口:学校における評価は、大学受験のシステムの影響が大きいなと思います。大学受験のあり方の理想とは、どのようなかたちなのでしょうか?

小林:今の大学受験のシステムが全部だめなわけではないと思っています。人の認知って多様なので、1つの評価方法で順位をつけること自体がおかしいんです。いろんな評価方法が用意されるべきだと思います。

関口:アメリカの大学入試では、オールマイティな人ばかりが採用されていると聞いたことがあります。起業経験があり、ある程度勉強もできて、人柄も良くて…という感じです。そうなると、家庭の経済環境に依存する部分は大きくなると思うんですよね。日本は知識偏重になっていますが、格差を生みにくい仕組みでもあると思います。かと言って、それだけでいいのか?という問題もあるので、評価を多様にしていくのは良い流れだと思います。

小林:日本は「点数を出したもん勝ち」という考えが強いんですよね。慶應大学の受験も、暗記しまくったから合格できたんです。

一方で、コロンビア教育大学院の入試で重視されていたのは、解決したい課題とそれに対する活動実績、そして現在持っているビジョンでした。「今までどういう課題感を持って、何をやってきたのか?」「そこから何を学んだのか?」「入学してからは何をするのか?」などを言語化できていないといけません。

そもそも失敗をだめだとはされておらず、体験から何を学んだかを評価されるんです。日本だと失敗させないマインドが強いですよね。大学入試の評価方法にも、その文化が反映されているんだと思います。

まずは自分が、「あんな風になりたい」を思われるような大人に

安久都: 受験システムという大きな枠組みを変えていくことも長期的には必要ではありますが、決して簡単なことではありませんよね。では、子どもの可能性を伸ばすために、1人の大人としてできることはあるでしょうか。

小林:「自分は最近何を学んだだろう?」と自身に問いかけてみてほしいです。勉強って学校だけでするものではないはずです。だけど、子ども達にそう思わせているのは大人なんですよね。

ワクワクしながら生きている大人が近くにいること自体が、一番の英才教育だと思っています。大人を見て「あんな風になりたい」と思ったら、子どもは勝手に勉強します。まずは、大人が楽しんでいる姿を見せてあげてほしいですね。

関口:先生達がワクワクした大人に出会うことも大切だと思います。僕は知り合いの先生と3〜4人でサウナに行ったり、火を囲んでしゃべったりすることがあるのですが、そこに面白いことをしている人を招待するんです。そうすると、先生達の出会いが広がり、自分の授業でいろんな人を呼んだりすることができる。

小林:仲間がいるって、大事なことだと思います。学校の中でいろんなチャレンジをしたい先生って結構いるんですよね。先生が変わったら、授業が変わり、生徒が変わる。1人で授業の準備をするのではなくて、同じ教科の先生と一緒に話したりするだけでも、変わっていくのではないかなと思います。

ーー 子どもの可能性を伸ばそうとする前に、まずは自分の可能性を信じて進んでみる。私たち大人ができることは、そこからかもしれない。

小林さんは、コロンビア教育大学院入学を目指して英語を学ぶ中で、あるフィリピン人の先生に出会ったんだそう。その方とのエピソードから、改めて日本の文化への違和感を感じたと言います。

小林:フィリピン人の先生に、ある質問をされたことがあります。その方はビリギャルの映画を見てくれていて、「みんながあなたの挑戦を止めたのはなぜ?信じられない。あれは映画の脚色なの?」と聞かれました。

フィリピンでは、誰かの挑戦を止めるようなことはありえないんだそうです。挑戦しようとする人の行動を根拠もなく止めようとするのではなく、頑張る人を応援するような文化を日本にもつくりたいですね。

ーー 最後に、「子どもの可能性を伸ばす社会」をつくるために、小林さんとEdo代表の関口から、どんな挑戦を続けていきたいかを話してもらいました。

関口:地方で起業することを周りに言ったときに、「ちゃんと食っていけるの?」「なぜ地方で起業するの?」と色々言われたことがあります。その言葉が気になっていたこともありますが、今では5人もスタッフがいてくれてありがたいなと思いながら毎日を過ごしています。

現実的な話をすると、金融機関からはなかなか融資が降りなかったりして苦労することもあります。けれどそれで諦めるのではなく、僕自身が情熱を注ぎながらやりたいことをやる人でいたいですね。小林さんのお話からは勇気をもらいました。ありがとうございます。

小林:私は今34歳で、英語もろくにできないのにこれからアメリカに留学するんです。コロンビア大学院の受験に挑戦してみて思うのは、「望めばできる」ということです。

学びは一番リターンの大きい投資だと思います。今は支出の方が多いけど、長期的に見たら絶対にいい投資。夫婦揃って収入が不安定になるので、多くの日本人には間違っていると思われる選択かもしれないけど、私はそれを正しかったと思える道にしていきたいですね。

自分の生き方で、人の可能性の広がりを表現する

『ビリギャル』の映画や本にも描かれているように、たった1年間で学力を大きく上げて慶應大学に合格した小林さん。この1年間は、アメリカへの留学を目指し、大学入試に向けて勉強に励んで来られました。そして、今回のイベントで語って下さったのは、その2つの体験をもとに、近くにいる人の影響力の大きさ。

「システムや仕組みも大切だけど、1人の大人としてワクワクした毎日を送ることこそが、子どもの可能性を開くための一歩に繋がる。私はそれを、自分の生き方で表現したい」

そんなメッセージを、小林さんから受け取りました。

あなたは最近、どんなことにワクワクしましたか?
どんなことに挑戦し、何を学びましたか?

学びは決して、苦しくてつらいものではありません。それを、私たち大人の生き方によって子どもに伝えることができれば、それだけで子どもの可能性は大きく開いていくのではないでしょうか。

(執筆:建石尚子


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