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東京に住む龍 第五話 龍の婚姻③

「天国に行くよ」

  ワープというのか、瞬間移動というのか、古式豊かに神隠しと言うべきか、披露宴会場の天国のホテルに一瞬で着いてしまった。天国の五つ星ホテルで最上位の格式があるホテルだそうだ。天国のホテルは廊下も宴会場も何処までも、畳敷きだった。盛装した客人はその上を歩くので、和装にしろ洋装にしろ男も女も裾を大々的に引いていた。ホテルの外観は分からない、いきなり宴会場の扉の前に立っていた。内部は伊勢神宮を思い起こされる、白木のシンプルな内装だった。天国に来たという実感はないが、現世の人間社会にないものだった。白木の扉には、真鍮のよく磨かれた金具がついているが華美ではない。

 現世でいうところのウエディングコーディネーターらしき、奥女中的な女性と黒い直衣の侍従が私達の後ろにいて、龍君の長い裾を持っている。この披露宴の段取りも何も分からない。大人しくはいはいと言っているしかない。辰麿が手を繋ぐ。握って欲しくない気分なのに。扉が開き、大宴会場に導かれ入場した。神と妖の世界で最上位の龍である。天国の要人が集まっていた。会場をぐるりと廻り、多くの高雅な参列者に祝福され、現世と同じような高砂席に座った。 

 現世の和風披露宴では金屏風に前に坐るだけだが、ここの高砂席のうしろは、白と金の着物のような柄のファブリックで高い天井から下まで装飾されていた。和風なのにロココ調のカーテンにようにア・シリメントリーの大胆なバランスが取り入れられ、豪華で洋風でありながら、動きのある天井飾りバランスが取り付けてあり、白地の金襴カーテンが贅沢に床まで垂れていた。それが不思議なことに出雲大社を彷彿とさせる内装に合っている。うっとりと眺めていたいが、この前に坐らされた。

 式次第は分からないが、披露宴の最初に参列者が挨拶に来た、夫婦単位もしくは家族単位だった。贈り物がある場合はこの場で渡された。小手毬も辰麿の真似をして立ち上がって挨拶を見様見真似でした。高砂席の前には長い行列ができた。

 一番初めは二人の女性を連れた、天帝様、アマノスグレヤドノ命は、神武天皇の弟で、現世では知名度零の神様なのだそう。天国が地上の現世と別れて以来、日本のあの世冥界のトップだそう。直衣に冠りを被り髪の毛を綺麗に髷に結っている。龍君がぐちょぐちょの長髪なのでそこに目が行った。二人の女性は同格の正妻だそう女房装束に大きな裳を引いていた。三人とも肌艶が良く三十代に見える。その後に左大臣右大臣参議と続き、各省庁のトップ、何とか大臣ではなく、長官と呼ぶそうですが続いた。夫婦同伴で長官職の三分の一は女性だそうだ。

 男性は直衣か狩衣か、ぐっと江戸時代で羽織袴。女性は平安装束なら女房装束か小桂着、江戸時代風に豪奢な打ち掛けか、何枚も重ね着した江戸褄と振袖、いずれも優雅に裾を引いていた。席につくと中居さんが裾を綺麗に整えていく。洋装も二・三人にいたがヴィクトリア朝のバッスルスタイルのドレスだ。

 天国の政府、高天原政庁と云そうだの高官の挨拶で、地獄の役人も挨拶に来た。はじめに来たのは、冬に命を助けられたあの鬼だった。辰麿と野守さんは知人なのかフレンドリーに話す。野守はその役職故か、生来のものなのか、ピクリとも表情を変えない。美貌の顔を裏切らない、低くよく通る声をしていた。一本角の鬼でストレートヘアを背中まで伸ばし、うち紐で一つ結びにしている。冬に逢った時と同じような、黒の羽織に袴、腰には反りのある日本刀ではなく、真直ぐな古代の太刀を佩いていた。装飾は博物館で見たような古代刀の装飾だが、あちこちと瑕が付いた武骨なものだった。

「お久しぶりです。野守です。本日は私だけなく、家族もご招待頂き、恐悦でございます。

 お嬢さんご気分は良いですか」

「野守さん、結婚しちゃった」

「祝いの席なので、あまり言いたくはありませんが、青龍様。女心を踏みじにじるのは、私達の世界では好ましくありません。下等な現世の男尊女卑の風に、毒されているのではないでしょうか」

「僕は龍だよ、世界最上位の神獣だよ」

「青龍様、ここに列席されている方どんな方かご存知でしょうか。あなたの軽薄な悪だくみは、見抜かれているのですよ」

 野守は小手毬に話しかけた。

「お嬢さん、ここには神も仏も多くいらしゃいます。私の様な鬼やら妖も列席しています。あなたが、青龍と意思に反して無理矢理結婚させられたことは、我々には分かっています。

 下劣な龍なんだよ」

 そこまで聞いたところで、小手毬は笑ってしまった。世界で一番という龍をとっちめる鬼。この構図も面白いが、小手毬のことを分かってくれている人ならぬ鬼がいると分かって、面白かったし嬉しかった。言葉にしないが、けたけたと笑って止まらなくなってしまったくらいだ。

「まあ、そんなにいきらなくても、お父さん」

 野守の後ろから、上品な丸髷に結った若い女性が現れた。大きい丸髷に銀の装飾の付いた櫛に、控えめな花簪が上品な若妻然としている。針山を連想させる険しい山が裾に大きく刺繍された黒留袖の下に、ふきに綿の入った金襴の下重ねを何枚も着た、小柄な女性が顔を出した。裾模様は豪奢な刺繍が施されたものだった。現世では見たことがない江戸時代そのままの江戸褄の裾を引いている。帯結びはお太鼓ではなく文庫結びで武家の夫人といった折り目正しさがある。

 小手毬は素敵な女性だと思った。歳は若く二〇代前半にしか見えなかった。夫とは真逆の美人で、大きくぱっちりとした目、睫毛も長く顔の印象が明るく、現世のアイドルグループのセンターを張れそうな愛らしい女性。後で知ったのだが胡蝶さんは、天人で政府高官のお嬢様でした。

「小手毬っ、野守さんの奥さんの胡蝶さんだよ。地獄大学の物理学部の教授でさ、野守さんと一緒に僕の研究をしているんだ」

 こんな若いのに大学教授、と驚いた。

「妻の胡蝶です。三十年前より青龍の上空での飛行活動の研究をしています。こいつが宇宙空間でやっていることは全部把握しているのです。何か変なことをしたら、奥様にお知らせしますぞ」

「野守さーん。プライバシー侵害だよ」

 小手毬は今度は声を上げて笑った。ふと会場中の視線が集まっていることに気が付き慌てた。

「そうなの、私の研究は龍の天空での行動の観察なの、毎日観測しているわ」

「妻が龍の独特の波長を解析したのです。おかげで、今は龍の研究が私たちの世界、人間のいうあの世では、文系理系を横断して、一番人気のある研究分野になんです」

 小手毬は言葉が封じられていなければ、こいつの研究が、何で人気何だと突っ込んでいたところだった。龍と云うものが飛んでもなく、大物で神秘的な生き物だと何となく理解した。玉の輿に乗ったのか私。

「忘れるところでした、息子たちを紹介します。長男の鬼火です。高天原政庁の外務省で欧州局に勤務しています。あちらは一神教なので、角の生えた鬼が外交交渉に行くと、相手が錯乱するので、結構有利なんですよ」

 母親譲りの甘いマスクの鬼火君の額には、お父さんの野守氏と同じ一本角が生えている。キリスト教国に行ったら、悪魔みたいなのが天照大神のお使いなのだと、混乱するだろう。

 この会場にいる多くの官僚たちと同じく、髪を結い上げ烏帽子をかぶり。クリーム色の葛布のような織の直衣に、お父さんと違って、直衣から覗く下の衣が緑色で指袴も丸紋の濃い緑色。全体に上品着こなしだった。話し方も貴公子然としている。

 後に続く小手毬と同じ年恰好の青年二人は水干を身に着けていた。後で知ったが、あの世では幼稚園児から大学生まで、学校にいるものは水干をお洒落着にしていた。また水干は広く仕事着としたスーツや作業着の位置づけ、大人も着ている。亡者を裁く十王庁の役人は水干を着ていたるくらい、広く着られている。

 一人は、鬼火さんと打って変わって、坊主刈りでワイルドな顔立ち、背丈は父親や兄弟と同じなのだが、がたいのよい自衛隊員のような体形だ。父親譲りの一本角が額から生えている。古い黒系の数種類の金襴をパッチワークした水干を着た、武骨そうな青年だった、野守さんが紹介する。

「次男の鬼灯です。御料人様より一歳年上の、大学三年生で、医学部生です。現世にはない不老不死科の医師を目指しています。ははは。こいつは、兄弟の中で一番繊細で器用な子供なのですよ。」

 そしてもう一人一番下の弟が紹介された、何と丸の内のビル街で、あわや車に轢かれそうになり、野守さんに助けられたとき、一緒にいたスーツ姿の青年だった。名前は曼珠沙華、内閣官房では田中曼珠と名乗っているそうだ。

 細面でスレンダー、三人の兄弟の中で一番父親似だった。兄弟の中で角が生えていない。

 流行なのか決まりなのか、彼もまた白地の金襴のパッチワークの水干を身に着けていた。

「あの時は助けて頂いてありがとうございました」

「あの時ってなんの事なの、小手毬は曼珠沙華君と逢ったことがあるの」   

 それには答える気はなかった。辰麿は「ねぇねぇ」と聞くので野守さんが説明してくれた。私が自殺しようとしていたと聞いて、辰麿は「小手毬ー、どうしてー」と聞いてきた。目出度い結婚式の場で、こんな不穏な話をするのは鬼らしい。 

「ねぇ、野守さん。今日は鬼百合さんは来なかったの」

 辰麿の問いに、今度は胡蝶さんが答えた。

「鬼百合は、今療養中なの、来れなくって、ごめんなさいね」

「鬼百合さんは、小手毬とお友達になれるかと思ってったんだ。楽しみにしていたんだ。とっても残念です」

「元気になったら是非お家に、遊びに来て下さいね」

 私に女性の鬼のお友達を紹介するというのはびっくりだった。あの世との繋がりが出来た私への、辰麿の心使いを少しだけ感じた。

 野守一家の後には、有名な閻魔大王の三代目という偉い方が続き、ヴィジュアル的に怖い鬼という厳つい二本角の大きな鬼が、黒い女房装束のおっとりした女性を伴って来た。阿鼻地獄という一番重い罪人の行く地獄の長で、奥さんはそのそばで温泉旅館を営でいるそうだ。地獄関係の偉い人も多く招待して、どこまで顔が広いのか、この龍。

 お色直しで、会場から出たところで、野守と外務省勤務の長男が、黒いサングラスに金モールの付いたベルばらのオスカルのような恰好、十八世紀ヨーロッパの男性の服を着た男と、ラテン語で話ていた。ラテン語会話を実際に使っているのをはじめて見た。引き付けられるように、聞き耳を立ててしまった

 あの世の世界では、英語よりラテン語なんだそう。辰麿がラテン語をやらせたがったのは、このためだったのか。リスニングには自信があったが、聞きなれない言葉が多かった。後で知ったが、現代伊・仏・西語が結構交ざっているそうだ。

 ベルばら男が、二人に説得されたのか去った後で野守さんは、

「私の娘たちは、不幸な目に遭わなければければいけないのだろう」

 というと深いため息をついた。私の存在に気が付いた野守さんは、こちらを向いて軽く会釈して、宴会場に戻って行った。

 前日と同じく婚礼用の大振袖に着替えた。今度は龍君に買わせた、青地に小手毬の花と大胆な熨斗の総柄だった。緑の着物の眷属が髪を結い上げてくれた。作日と同じくお姫様の吹き輪に髪を結い、銀の簪と前差しに花笄を付け今日は、生花をたくさん挿した。桔梗の紫が効いている。

 鏡の前で我ながら可憐と、見惚れていると、辰麿がまた乱入してきた。辰麿も黒紋付に羽織袴になった。平安時代から江戸時代、いや令和になった。鏡に写る辰麿はお公家さん顔にざんばら髪だ。私はこの男と一生別れることが出来ないし、それは永遠なのだ。

「小手毬ー、しかめっ面しないで、お振袖可愛いよ。大人っぽいのも似合うー」

 奴にひとつ皮肉を言ってやりたかった。上手く言えない。指を絡めて来る。子供の頃からさんざんやっていたので、自然と手を繋ぐ。

 慣れというのか不愉快ではない。

「今晩おうち帰ったら、また楽しもうよー、小・手・毬ー」 

 お仕度する眷属に聞こえないように、耳元でいう。何も言い返せないので、睨んでやった。とわいえ奴の腕力に屈することになるかと思うと、嫌になる。

 夕方まで続いた大層な披露宴が終わると、辰麿に抱かれて瞬時に龍御殿の玄関前に着いた。東京の空は夕焼けだった。

 

 翌日から、幽世にある辰麿の龍御殿で妖怪の眷属にかしずかれる生活を送り、そこから大学に通うようになった。大学の事務所で結婚による姓の変更手続きを済ます。我ながら真面目というか馬鹿だなと思う。職員に好奇の目で見られているのを小手毬は感じた。教室で知り合いの学生や教員に祝福もされたが、さして嬉しくもなかったのに、愛想よくしている自分に、心の中で少し驚いた。

 数日後の次の週末、小手毬はお着換えの間で、髪をまた吹き輪に結い上げ、結婚式とは別の振袖を着せられた。辰麿は青色の直衣に烏帽子。そして相変わらずのざんばらの長髪だ。また着付け中に辰麿はやってきて、袋帯を締めている最中に、『龍珠の交換』をした。小手毬は白い珠を口から吐きだしたのだった。

 玄関から外に出ると、また辰麿に抱きあがられた、瞬時に球体の中に小手毬は入っていた。透明で分厚い球体は、龍の爪でがっしりと掴まれている。

 龍となった辰麿は、宝石のような原色の青と緑入り混じったモザイクのような鱗を煌めかせていた。雲間を飛んでいく、時々青龍は、小手毬の入った珠を顔の前に持ってきて、ご機嫌そうな表情をした。龍となった辰麿の顔は、絵画でよく見る龍よりずーと若く、皺もなかった。顏と腹はエメラルドグリーン色だった。目だけは人間の辰麿と同じくこぼれんばかりの大きな黒い目をしていた。口はおちょぼ口の辰麿と大きく違い、鰐のような口で、細かく鋭い歯が見えた。そこに、ちろちろと赤い舌を歯の隙間から覗かせる。

 球体の中は案外心地よく、寝そべると程よい弾力の透明の物質だった。龍珠での移動は悪いものではなかった。

 小手毬は辰麿から、「龍会議」に出席すると言われていた。そこでたった五柱だけの仲間の龍に紹介するのだという。場所は人間も神々の察知できない天空の亜空間にあるそうだ。それを聞いた時小手毬は、人類の科学を舐めるなそんなものあるかと、思った。あの世の科学が地上のホモサピエンスなんぞより、ずーと進化していることを知るのはこの直ぐ後である。

 龍珠の中から、東京から日本海を渡り大陸の方に飛んでいくのが見えた。そこまでは龍珠からでも分かったが、雲に突っ込んで数十分飛行して、辰麿に抱かれる感触がした瞬間、いつの時代のものだろうか、中国風な部屋の中に立つ辰麿に抱かれていた。

 龍のいる天上の亜空間はどんな場所かは室内にいるので分からないが、龍会議の部屋は五角形をした部屋で部屋の中央に、大層古い時代らしい彩色された彫刻が施された五角形テーブルと揃いのいすが置かれていた。その五角の机の後ろ二箇所に、同じ装飾が施された机といすが置かれている。大陸の匂いのする調度でいつの時代かの中国のデザインのような、金を使った派手な彩色だが、テレビで見た紫禁城とも違う趣の部屋だと、小手毬は思った。

 龍の会議にて他の龍に紹介されるので、今日は直衣に振袖という盛装をして来たのだった。天空にある龍の集会所に龍とその龍珠である配偶者を伴い集まる。そこで紹介されるのだ。

 部屋の装飾を興味深く見て歩いた。部屋はさして大きくはないが、極彩色の装飾で埋め尽くされているが、上品な印象な部屋だ。

 ふと気が付くと、ピンク色の唐時代の衣装を纏った若い小間使いが、何処からか現れた。中国茶と点心を給仕してくれた。小手毬の知っている景徳鎮の食器より繊細な柄のティーセットを用意してくれた。中国茶とパイ菓子に見えた半円形の小ぶりの点心は、中身が鶏のひき肉を味付けしたものだった。

 点心で一服した頃、室内に、豪華に盛装した人々が集まって来た。皆派手に宝飾品を付け、それぞれ別な服装をしていた。

 モンゴルの民族衣装のような白い絹のゆったりとした上着を着た、寡黙な中年男性は白龍。黄色の秦の始皇帝のような前袷の黄色い衣に派手な天冠を付けた黄龍、彼は愛人が沢山いるんだって、

 左隣の席についたのは、意外にも女性で、金糸の縫い取りのある更紗の上着に同柄の更紗の踝まであるタイトスカート、よく見ると巻スカートになっている物を着ていて、ネックレス・イヤリング・バングルを幾つもつけていた。アクセサリーの石はルビーなのか赤い色をしていた。彼女は紅龍。紅龍の後ろの席、小手毬の隣の席には、小柄な中年男性が座った。紅龍の夫でジャワ原人だそうだ。

 先程の小間使いは、龍の眷属だと辰麿が教えてくれた。甘いお菓子が欲しいと伝えてくれと頼むと、日本語が分かるのか、小間使いはにっこりとし、扉の向こうに行って、中に甘い餡子の詰まった焼き菓子を持って来た。辰麿と二人、中国茶で頂く。

 点心もお茶も高雅な現世では味わえぬものだ。イギリス式のアフタヌーンティー並みに、点心が次から次に、運ばれ景徳鎮をもっと豪奢にした食器やら、金メッキされた銀器の器に高く盛付けられたのが、サービスされた。

 四人の人間いや神の姿をした龍は、発音が中国語みたいな言葉で会話をしている。小手毬はそれを見ながら、五柱の龍と言っていたのに四人かとぼんやり思った。四人の話し合いの内容は分からないが、遅れている龍の取り扱いのことの様だった。

 隣の男性に声を掛けられる。想定外にも英語だった。小柄で麻の白い軍服のような詰襟の服を着ていた、紅龍の配偶者で龍珠だった。気を使ってくれているのか、当人の英語力がトラベル会話程度なのか、明瞭な発音で会話してくれたので、外国人との英会話の経験がない小手毬でも会話ができた。

 まず紅龍の龍珠に、黄龍と白龍には龍珠がいないのか質問してみた。黄龍は生来の浮気性で妻がいない。白龍は龍の勢力争いで、龍珠の奥さんを、今会場に来ていない黒龍に食られてしまった。その所為か黒龍は他の龍に嫌われていること。今日姿を現さないのもその為ではと話された。

「青龍さんとも黒龍は因縁があるのですよ」

「知らないわ、どういうこと」

「青龍様はきっとあなたにお話すると思います。龍珠とはそのようなものです」

「私はよく分からないのです。青龍に振り回されて結婚したばかりですもの、人間ではなくて龍と言われて、何も考えられないのです。因縁ってなんのこと何ですか」

「私は百万年位しか生きてないので詳しいことは知らないのです。青龍さんは黒龍の弟だと聞いています」

 黒龍が中々来ないので、小手毬にその場にいる、白龍・黄龍・紅龍とその夫を紹介された。龍会議はときどき龍だけしか知らぬこの場所で行われているそうだ。龍同士はほぼ毎日天空を飛び、そこで気儘に交流している。込み入った話や新年の宴や、慶事があるときはここに集うのだった。

「龍珠というのは、どういうものなのでしょうか」

 小手毬は紅龍の龍珠に質問してみた。

「見ていることです。自分の龍のことを、見るのが役目であり、宇宙の采配なのです」   

 いい加減時間が経って散会にぼちぼちしようとした頃、点心と中国茶を用意した、ピンク色の可愛い唐風の衣装を着た先程の小間使いが、黒龍の来訪を伝えた。室内の和やかな雰囲気が張詰めるのが小手毬でも分かった。

 黒いチャイナ服は綸子のように模様が織り込まれた光る織で、中国風の雲らしき模様が織り込まれている。白龍さんの服にデザインが似ていたが、シンプルで細身のシルエットになっていた。宝飾品など一切付けず、古典的な盛装をしている他の龍とは違い、モダンな印象の服装だった。それだけに黒龍に異質な印象を持ってしまった。

 青龍こと辰麿は、黒龍に小手毬のことを簡単に紹介した。ちらりと小手毬のことを黒龍は見ると、龍の言葉で「お幸せに」とそっけなく祝いの言葉を述べて、黒龍はその場を去って行ったのだった。

 

 お姫様抱っこで、現世も天国も地獄も幽世も、宇宙空間にも飛んで行く。



前話 第五話 龍の婚姻②

つづき 第六話 小手毬さん地獄に行く①

https://note.com/edomurasaki/n/nb4d522fde998

東京に住む龍・マガジン

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一話 僕結婚します

https://note.mu/edomurasaki/n/n3156eec3308e


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この小説について

「青龍は現生日本に住んでいた。現世日本政府は龍のお世話係で、あの世の支配下にあった。人類は龍君のお嫁さんを可愛くするためだけに進化した。
 青龍は思った
『1億歳の誕生日に結婚しよう。そう20歳のあの子一緒になるんだ。』
 そんなはた迷惑な龍の物語である。」

 異世界に移転する小説ばかりなんだろう。みんな現世に疲れてる?でも反対に、異界の者が現世にいるのはどうだろうと思ったのが発想の源です。思いついて数秒で物語のあらすじと、主なキャラクターが思い浮かびました。でも書くのは大変です、

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