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東北の人々

自分で書いたことを見て、
書き残したことがあると思い出した。

東北の人々の性質……というと大雑把すぎるか。

山形県の肘折温泉や瀬見温泉の人々の性質について。

上記にも書いたが、肘折温泉で私は旅館の接客にあまり良い印象を抱かなかった。

玄関を訪っても、ホールで先客の用をしているだけである。
「いらっしゃい」と言うでなし、目で挨拶するわけでなし。
ひたすら先客と荷物の話をしている。

帰りに関しても殆ど同じだった。
チェックアウト時間だから、出て行こうとする客と話をするのはわかる。
だからしばらく玄関の受付前で待っていたのだが、いつまでたっても先客との話を終えない。

「すいません」
と仕方なく声をかけたところ頷くものの、まだ先客と話している。

こちらもバスの時間があるから重ねて大きな声で、
「チェックアウトお願いします」
と催促した。

内気な私には、かなり珍しいことである。

それでやっとチェックアウトをしてもらったのだ。

ここでもう一つ恥ずかしい話がある。

チェックアウトをしている間にお腹が不穏にグルグル鳴り始めたのだ。
バスに乗る前に用を足さねば……。

支払いを終えるなり玄関そばのトイレに飛び込んだ。

そして出て来た時には玄関ホールに誰もいなかった。

まあね。
朝は忙しいもんね。
トイレに入っている支払い済みの客を待ち受ける義理はない。

けどさ。
フツー客が玄関を出て行くまで待たない?

ちょっと玄関の掃除をしているふりとか、受付を整理してるふりとかして。

「ありがとうございました」
って見送らない?

現実にそうしてくれたホテルもあった。
(てか、何度チェックアウト直後にトイレに行ってるんだ私は?)


というわけで肘折温泉のその旅館に、私は不快感しか抱かなかった。

だが続いて瀬見温泉に行ったのだ。
そこで「おや?」と思う事態にぶち当たる。

上記にも書いたが、瀬見温泉の旅館は至れり尽くせりだった。

接客に何ひとつ不満はなかった。

昭和レトロ感あふれる冷蔵庫も、それはそれで良しとする。
(イヤミ?)

問題は帰りの電車、陸羽東線である。


チェックアウトして観光をしていた私は、間抜けな事に電車の時間を読み間違えた。

駅に近づいて電車が走り去るのを見送った。

けど、まさかそれが自分が乗るべき電車とは思っていなかった。

瀬見温泉の観光地 亀割子安観音

駅舎の前で電車から降りて来た地元のご婦人に、
「駅の中にトイレはありますか?」
と尋ねたのだ。

来た時にトイレを見つけられずに難儀したから。

するとご婦人はトイレのある場所を教えてくれてから、
「どこ行きの電車に乗るんですか?」
と尋ねたのだ。

「古川方面です」
と答えたところが、

「今行ったのがそれですよ。次の電車まで三時間以上ありますよ」

そしてご婦人は次々に言い募るのだ。
「どの駅に行くのか?」
「どこの旅館に泊まったのか?」
「その旅館なら通り道だから途中まで一緒に行こう」
「まだ三時間以上あるから旅館で休ませてもらえばいい」
「この辺には休んだり観光したりする所はないのだから」
等々々……。

「いえ」「あの」「その」「大丈夫です」
などと、たじたじした揚句に、
「駅のトイレを使うので、どうぞ行ってください」
と、そのご婦人を見送ったのだ。

結論から言えば、私はその30分程後に来た逆方面行きの電車に乗った。
つまり新庄駅に行ったのだ。

そもそもが来た時と同じルートを素直に使えばよかったのだ。
陸羽東線で新庄駅に戻り、山形新幹線で東京駅に戻ればね。

ただ私は車窓に違う景色を見たかったのだ。
別に鉄ちゃんじゃないけれど。

だからわざわざ地元駅のみどりの窓口に行って、違うルートの切符を買ったのだ。

それが陸羽東線で古川駅に出て、東北新幹線に乗って東京駅に帰るという大回りルートだった。

新庄駅にて

新庄駅のみどりの窓口で、理由を話して素直なルートに切符を変更してもらった。
そして来た時と同じ山形新幹線で東京に帰った。

さて、その帰りの山形新幹線を待つ間に閃いたことがある。

山形の人はお喋りなのだ!


というか、対面した人物に対して誠実なのだ!

瀬見温泉駅で偶然出会ったご婦人は、単なる旅行客に過ぎない私の先行きを案じてくれた。

ああすればいい、こうすればいいと提案してくれて、同行までしてくれようとした。

東北人は人見知りだと言うけれど……。

いやいやいや!

人見知りを自認する私からすれば、とんでもなく人懐っこい。

対する人にいつまでも話し続ける。

と、そこまで考えてまた閃いた。

肘折温泉の朝市
人懐っこいバッパが大勢いる

肘折温泉の旅館の人達も、目の前のお客さんに対してひたすら誠実だったのだ。

後から来た客よりもまず、対面している客と話し続けるべきである。

おそらく、そんな感覚だったのではないか?

どうもそんな気がする。

そうか……そうだったのか……。

ごめんね、肘折温泉の旅館の人々。
別に後から来た私を排斥していたわけではないのね。

ただひたすらに対面した相手の接客をする不器用なまでの誠実さだったのね。

新庄駅の待合室で山形新幹線が来るのを待つ間。

私と同じく電車を待つ人々が話している。

黙って聞いていると、どうも初対面の人達らしい。

それが延々と会話を続けているのだ。

新庄駅

誰だ!?
東北人が無口だの人見知りだの言った奴は?

(え、誰も言ってない? 私の思い込み?)

東京駅の新幹線待合室なんかシーンと静まり返っているぞ。

こんなに見知らぬ同士で話に花を咲かせたりしないぞ。

コミュニケーション能力ハンパねぇ!!
東北人恐るべし!!

などと再認識した肘折温泉、瀬見温泉の山形旅であったのだった。

どっとはらい。




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