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本ができるまで(編集の仕事:ムック編)

今回の記事では1冊の本ができあがるまでに、どのような工程を経て、何人くらいの人が関わっているのかをご紹介します。

作る本によって関わる人数も必要な職業も異なってくるのですが、本日は編プロにとって一番身近だと思う「ムック」「ムック本」をひもといていこうかと思います。

書いている間に、予想以上に長くなってしまったのですが、おつきあいいただけますと嬉しいです。

「ムック」「ムック本」と聞いて、多くの方がまず思い浮かべるのは、「ブランドムック」ではないでしょうか。

YES! 正解です。

特定ブランドの、”付録”と呼ぶにはゴージャスすぎる、バッグやポーチなど服飾雑貨がついた本。

本のようで、本でない。雑誌のようで、雑誌でない。

それもそのはず、「MAGAZINE(雑誌)」の「M」に「BOOK(本・書籍)」の「OOK」がくっついたものこそが「MOOK」なのです。

なぜこのような形態の読み物ができたのかというと、書籍は基本的に広告を挟むことができませんが、雑誌には広告を掲載することができます。

それはすなわち、「制作費をおさえられる」ことにつながるのです(広告収入はそれほど大きいのです……)。

さらに雑誌と異なり、ムックには「販売期間」が決まっていないので(作り手としては「だいたい半年くらい書店に置かれるだろう」と目安の期間を作って製作していますが)、長く書店やコンビニに置いていただけます。


・広告収入が得られるので制作費が安くつく

・販売期間が決まっていないので、売れれば増刷もできる

・製作期間が短いので「旬のもの」を「旬のうち」に出せる


そんなこんなで現在の出版業界では、版元さんはどこもこぞって、メリットが大きいムック本を製作したがります。

そこである程度のヒットが出る、予想通りもしくは以上に販売部数が伸びると「じゃあ第2弾のムックを出すか」「じゃあそのテーマで書籍を作るか」……となるわけです。

ムック本の製作期間は、私が務める会社では、実働はだいたい3〜4ヶ月。

「こんなムック、作れますか?」という版元さんの打診は、半年以上前にいただくのが普通(というか、それくらいの時期、いやもっと前にくださるとありがたい)ですが、おつきあいの長い版元さんとなると、最初の打ち合わせが発売日の半年前くらいでしょうか。

そこから2〜6人程度の編集者がチームを組み、文字通り朝から晩までムック製作に入るのです。

ここまでの関係者は、以下になります。


・版元さんの担当編集者(こんな本が作りたい!と実際に企画を立てる人)

・下請けの編プロ集団(弊社では1人〜6人で1冊を製作)


最初に企画を立てた人の会社が、「編プロに出すか、自社で製作するか」を判断するので、すべてがこの限りではありません。

この辺りを判断する時に見ていただきたいのが、「奥付の書誌情報」です。

「編集部長」「編集長」「編集」の他に、「編集協力」「スタッフ」などの肩書で他の会社のクレジットがある場合は、全部ないし一部を下請け会社が作っていると考えていただいて大丈夫じゃないかと思います。

版元さんからお仕事をいただいた編プロが、まず一番にすることは「構成を考える」ことなのですが(何ページに何を入れて、何ページには何を……という、本のページ割り、台割を考えます)、それと同時進行でデザイナーにアポイントを入れます。

社内にデザイナーさんを抱えている編プロもありますが、ムックは分類すると「通年でいただける仕事」ではなく「突然やってくる仕事」なので、すでにスケジュールが埋まっていることもしばしばです。

なので、外部のデザイン事務所やフリーランスのデザイナーさんを探し、「こういうスケジュールで、この金額でページのデザインを……」などと打ち合わせをします。

ここで1つ、大きな分かれ道があります。

それはデザインにDTPを含めるか否か、です。

書籍のデザイナーさんは、編集者から渡されたページのラフ画&原稿を元に、誌面のどこにタイトルを置くか。そのタイトルのフォントは何にするか。文字の色は何にするか……など、デザインに関わるすべてを一身に背負います。

デザイナーさんの性格や個性によって、「こんなページのイメージなんですが」と、渡したラフ画通りにできあがることもあれば、おおいにアレンジを加えられて仕上がることもあり、拝見する時は毎度毎度楽しいです。

「私のポンコツ絵がこんなクオリティに……!(感涙)」と感動する時もあれば、もちろん「うわぁ……これは残念侍(白目)」な時も。

誰に確認しても「残念な場合」は、自分自身や版元の担当者さんが納得するまで、とことんデザイナーさんに修正をお願いします。

また、デザイナーさんによって得手不得手もあるので、新たなデザイナーさんを探す時は、”「現在製作している本」に似た本を以前作ったことがある人”を道しるべにすることが多いです。

個人的には本当は、そこに固執するとデザイナーさんに「同じ仕事しか回らなくなる」ので嫌なのですが、何しろ製作期間もギャラも最低限におさえられているので、失敗はできません。

ムック製作は、自然と保守的な考えになってしまいます。

とにかくスムーズに、とにかく面倒ごとは避けて作る。

そうしないと納期に間に合わないからです。

そんなこんなで誌面が仕上がってくるのですが、正直、まだまだ文章の中には誤字や脱字が踊っています。

人間の目というものは不思議なもので(弊社に限る話かもしれませんが)、ワードファイルで確認する原稿の文章は完璧だったのに、実際に誌面にペトッと貼りつくと「あ、違うな」と違和感を覚えることが多々あります。

「それ、なんでもっと前にわからんかったん?」

とデザイナーさんに詰め寄られても仕方がないくらい、誌面上で文字を修正することも正直、多々あります。

場合によっては文章はすべてダミーになっており、「この文章はダミーです。」か「◯◯◯◯◯◯◯◯◯●」が羅列したままの誌面の時もあります(◯の最後が●なのは、”ここで10字ですよ”というデザイナーさんの優しさです)。

ですので、誌面のデザイン完成後、主に文字を修正するお仕事があります。

それこそがDTP(Desktop publishing)なのです。

誌面デザインもDTPも、現在はAdobeのIndesignというソフトが主流です。

デザイナーさんとDTP担当が別の場合、ソフトのバージョンはなるべく揃えてデータを作成していただいております(2017年2月現在、バージョンはCS6でお願いすることが一番多いです)。

と、この辺りで現在の関係者をまとめてみましょう。


・版元さんの担当編集者(こんな本が作りたい!と実際に企画を立てる人)

・下請けの編プロ集団(弊社では1人〜6人で1冊を製作)

・デザイナーさん

・DTP担当者(デザイナーさんが兼任する場合もあります)


上記4職種が本作りには欠かせない関係者になります。

デザイナー&DTP作業を社内でまかなえるという編プロは、その分さらに制作費がおさえられるので、版元さんからも重宝されます。

2016年、話題になったドラマのテーマの1つに「校正」「校閲」がありますが、制作費に余裕がある版元さんは「校正者さん」ないし「校閲者さん」をつけてくださいます。

ですが、そんな余裕のない版元さんのほうが多いのが現状です。

なので、編集者が社内で回し読みをしたり、最悪な場合は自分で何度も読み返して「校正」と「校閲」をおこないます(自分で自分の文章をチェックするのは、やはりどうしても”この先に何が書いてるのか”という”文章の展開”が想像できるため目が滑って、あまり良くないのです)。

さて、これから先、必要になってくるのは「中身を作る関係者」ですね。

DTPの説明のために、「もうすでに原稿ができている」というテイで書いてしまいましたが、まだ原稿は1行も完成しておりません。

「どんな本にするか」だけが決まっている……というところまで戻って進行して参りましょう。

今回はテーマを「スムージーのムック」ということにしてみます。

となりますと、以下の関係者が最低限必要になってくるわけです。


・スムージーのレシピ提供をしてくれる料理人(本の内容に賛同してくれて、それなりの知名度があると尚良し。場合によっては複数でも可)


場合によっては不要になるのが以下です。


・撮影用のモデル(経費削減のため関係者が代打を打つ、もしくは人が写らないように撮影する)

・キッチンスタジオのレンタル(関係者のキッチンで撮影すると経費がかからない)

・できあがったスムージーや作業工程を撮影するカメラマン(いいカメラを持っている関係者が、経費削減のために頑張る場合も)

・撮影用に小物を揃えるスタイリスト(カメラマンが兼任すると経費が縮小できる)

・誌面に絵を描いてくれるイラストレーター(写真メインのムックにすれば、イラストは不要になる)


何とも世知辛い話ですが、事実です。

細かなギャラのお話は、私が現在の編プロを辞めた後にでも記事にできればと思います。

上記関係者は版元さんから特別な指示がない限り、まずは編プロの担当者が適任を探します。

そして「この方でどうでしょうか?」と、逐一版元さんにお伺いを立て、OKが出ればその方に連絡を取ります。

版元の編集者さんは、この「スムージーのムック」以外にも、同時進行で2〜3冊抱えていることがほとんどなので、お返事の速さはあまり期待できません。

編プロも同じく、いくつかの案件を同時進行していることが多いので、返事の遅さがゆくゆく自分のスケジュールを圧迫するとわかっていても、「この隙に!」と他の作業に着手することが多いです。

……製作の話に戻りましょう。

時代の流れもあってか、無駄な経費は極力削減傾向なので、あると嬉しいのが企業とのタイアップです。

スムージーのムックの場合、以下のタイアップが考えられます。


・野菜や果物の生産者さん(材料となる野菜・果物を提供してくれれば、本の中で御社をご紹介します、と口説く=材料費が削減できる)

・スムージーのメーカーさん(上記とほぼ同じ)

・食品メーカーさん(企画の中に「スムージーと食べたい一品」とか「手軽にどこでもインスタントスムージー」のようなものがあれば、商品を無料で提供してもらえるうえ、読者プレゼントにもできる)


正直、あんまりタイアップをやりすぎると、「誰のための本なの?」という構成になってしまうので、タイアップはそんなにないほうがいいのではと個人的には思います。

1冊の後半がほぼ広告ページ……なんて雑誌は、誰も買いたくないはず。

しかしこの辺りは、「版元さんの仰せのままに」です。

編プロは下請け企業ですので、クライアントさんの言うことはたとえ自分が「黒」と思っても「白」にしなければなりません。

編プロに限らず、版元さんでも「編集長の判断」や「営業の判断」が絶対という話はよく耳にしますので、「ゼロから100まで自由に、本当に作りたい本を作りました!」というのは、この業界では稀なのかもしれません。

この辺りは、いずれ版元さんで働きたいと思っているので、判明次第、記事にしたいと思います。

さて、大まかではありますが、やっと本作りに必要な材料がそろいました。

その材料を自分で調理することもあれば、「最終的には回鍋肉になるから、この段階まで作っておいてください」とフリーライターに原稿調理を依頼することもあります。

できあがった誌面は、版元さんや校正者さんのチェックを経て、いわゆる「綺麗な体」になって印刷所に送られます。

最悪、全員の目をくぐりぬけた誤字脱字にその段階で気づいた場合、印刷所によっては現場で修正してくださったり、「1時間だけ待つんで、修正データをPDFで送ってください」などと温情をかけてくださいます。

作業工程内、誰かが締め切りを守れずに発生したスケジュールの遅れは、すべて印刷所の方々がかぶるハメになります。

そうならないように、スケジュールを管理するのも編集者の大事な仕事です。

「これは今、どうなっていますか?」という確認のメールを送るだけで、1日の作業が終わる時もしばしばです。

時代が時代だけに、直接顔を合わせて打ち合わせをせずに済む反面、メールの文章だけで本の雰囲気を伝えるのは、却って面倒くさいと感じることも。

編集者が書いているせいもあって、随所に編集者のぼやきが混ざってしまいましたが、ざっとご説明をすると、弊社ではこんな感じです。

こうして毎月1冊ないし2冊、ぽこぽこムックを生み出しております。

さて、次回はじっくりご説明を差し上げたい、「著者」と「監修者」について記事を書きたいと思います。

こちらもおつきあいいただけますと嬉しいです。

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