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高円寺「本の長屋」のつくり方 ー 古民家改修・箱店主100人・本のコミュニティづくり ー

嵯峨創平


高円寺に箱店主100人が集う「本の長屋」が開店

東京・高円寺駅の北口から商店街を5分ほど歩いた先に、大正時代に建てられた四軒長屋がある。ここで古本屋兼居酒屋コクテイル書房を20年以上営んできた狩野俊氏が[本の長屋]づくり構想をクラウドファンディング(※1)で呼びかけ、300万円を超える資金と100人超の箱店主が集まった。長屋の空き店舗を改修して、2023年6月1日に[本の長屋]共有書店がオープンした。

オーナー狩野さんが語る本の長屋の「意義」

「本を媒介にして皆が安心して過ごせる居場所をつくる」

これが[本の長屋]の理念だ。①古書居酒屋、②共有書店、③イベントスペース(共有書店2階・整備中)、④箱店主サロン(コクテイル書房2階)という4つの機能を持ち、読書会・イベント・Webサイト運営・出版活動・地域貢献などの「部活動」を行う。

狩野氏は店づくりの要件を「第一にきちんと売れる持続可能な書店であること、第二に本を媒介にして人がつながり・考えを深め合い・人間関係を醸成できる場をつくること。そこからコミュニティは自然に生まれる」と語る。100人の箱店主は年齢・居住地・職歴・趣味はばらばらだが、このメンバーが出会い、本を介して語り合う機会が「部活動」だ。

大正時代の長屋をリノベーションして「場」づくり

築100年を超える四軒長屋は、戦前・戦後の激動の時代、サブカルの街として各年代の若者を集めた高円寺の記憶を伝える場所だ。この長屋を残しながらシェア型書店(共有書店)に改修する作業から店づくりは始まった。元美容院だった内装を取り去ると、スケルトンの空間には柱や壁の歪み・雨漏りによる腐食などが現れた。これらを狩野氏の旧友の大工さんが苦心しながら補修し、歪みに合わせて100箱の本棚を設置した。箱店主のボランティアや若いスタッフ達も床のレンガ敷きに汗を流した。狩野氏は「こうした共同作業の経験が場をつくる意味で大きかった」と言う。

みんなでつくる本の長屋の「仕組み」づくり

場づくりの次は「仕組み」が大切だ。部活動は、既にコクテイル書房で4つの読書会が行われていて、新規の読書会アイデアも生まれている。関連の作家やテーマ別の展示を行う計画もある(共有書店の1階奥スペース)。これらに先行してコクテイル書房の名物「文学カレー(漱石・太宰・朔太郎の3種類))」のランチセット営業(11:30〜14:00)も始まった。

5月のプレオープン期間には「沖縄と高円寺をつなぐ読書会」や「作家•角田光代さんのトークイベント」が開催されたが、これらの企画運営を支えたのは箱店主や若いスタッフで編成された実行委員会だった。東京の一角に生まれた小さな店が、都会のコミュニティを生み出す孵卵器として今後どんな化学反応を起こすのか楽しみだ。

(本記事の内容は2023年7月掲載時のものです)

※1 「高円寺にある築100年の古民家で「本の長屋」をつくりたい」


嵯峨創平

ヤマノカゼ舎主宰、岐阜県立森林文化アカデミー元教授(山村づくり、森林環境教育)。2022年から東京を拠点にまちづくりライター、比企丘陵[沼タイズ]副代表、高円寺[本の長屋]箱店主など。


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