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あなたを愛しているけど、あなたに傷つけられるわけにはいかない。:Graveyard/Halsey

 日本生まれの日本語育ち、義務教育でひいひい勉強した英語は身に付かず、軽い気持ちで手を出したイタリア語ばかりがなぜだか上達した私なのですが、私って外国語できるんじゃ~んと気付いてからは、苦手の英語にもちょいちょい挑戦してみるようになりました。以前も下手の横好きでエド・シーランの「ゴールウェイガール」を和訳してみたように、今回はホールジーの「グレイブヤード」の歌詞を日本語で読んでみたいと思います。

ホールジーの「グレイブヤード」を日本語で読んでみる。

 タイトルのGraveyardという単語は、墓場を意味します。
 まず、graveお墓、いわゆる墓穴です。ちなみに同じスペルの形容詞がイタリア語にあるんですけど、こっちはグレイブではなくグラーヴェと発音して、深刻なという意味になります。実は英語にも語源を同じくする形容詞のグレイブがあって、こちらはイタリア語とだいたい同じで、シリアスよりももっとヤバそうな雰囲気を出してくれます。語源のラテン語gravis(グラヴィス)が重みや厳粛さを示す語だったことを思うと、陰鬱な感じがしてゾクゾクしちゃいますね。
 それからyardは一般的にはお庭を、もうちょっと踏み込むとなにかで囲まれたそれなりの大きさの空間を指します。校庭はスクールヤード、家の裏にあればバックヤード、お墓があったらグレイブヤードです。

It's crazy when
The thing you love the most is the detriment
Let that sink in
You can think again
When the hand you wanna hold is a weaponand
You're nothin' but skin

ヤバイよね
あなたが一番愛してるものがケガのもとなんて
よく考えてみよう
考え直せるよ
あなたの掴みたい手が凶器だったら
そしてあなたが素肌だったら

 ここで初めて見た単語なんで私もピンとこないんですけど、どうもdetrimentというのはダメージや不利をもたらす、有害な存在を示す語みたいですね。ほんま知らんけど。大変お世話になっている『英辞郎 on the WEB』さんによるとレベル12なのだそうなので、まだ私には太刀打ちできないかな……またどこかで会おう。

 沈みこむっていう意味のsink inが、ここでは「よく考えてみよう」と訳したくだりに出てきてるのも、おもしろいなぁって思いました。モノが水の中へ沈んでいくように、モノゴトの理が頭のなかへ入り込んでいくイメージなのでしょうか。身に染みて十分に理解することをsink inと表現するのだとか。
 やっぱ墓穴のお話をしているところですからね、足を取られるような掘り返したばかりの柔らかい土を連想しちゃって、なんだか趣がある。

Oh, 'cause I keep diggin' myself down deeper
I won't stop 'til I get where you are
I keep running, I keep running, I keep running

あぁ、だから私は掘り下げ続けるの、私自身をもっと深く
やめないの、あなたのところへ行けるまで
私は走り続ける、走り続ける、走り続ける

 ここからサビです。
 やっぱり下へ下へと地獄へ下ることも辞さない下降に関する表現がくり返されているところ、湿った土の匂いがしてきそうでいいなぁ。自分自身を深堀りしているくだりにdigという動詞がありますが、墓掘り人のことをgravediggerと呼びます。内省の比喩ではありますが、ここまで掘り返す動作を強調されていると、なにかこう肉体的なダメージのことまで心配になってくるというか、まぁこのあたりは個人の想像力の範疇かな……私としては危ういものを感じています。好き。

They say I may be making a mistake
I woulda followed all the way, no matter how far
I know when you go down all your darkest roads
I woulda followed all the way to the graveyard

みんな言うの、私きっと、間違いを犯してるって
私は最後までついて行ったはず、どんなに遠くても関係ない
私は知ってるの、あなたがあなたの一番暗い道を進むとき
私は墓場までの道をずっとついて行ったはずなの

 ここの歌い出しは聞き取りやすくて口ずさみやすいですね!
 謎の単語wouldawould haveがくっついた音です。まぁ私のように中学英語も覚束ないレベルだとwould haveってなんやねんと途方に暮れるのですが、最近のweb辞書先生はすぐに「〔もしあの時~だったとしたら〕~したであろう」と教えてくれるので大好きです。習ったはずなんだけどな。
 たぶん歌の主人公が追っているのは、終わった恋の相手なんですかね。
あの時の私なら間違いなく彼を追ってたはずなんだけど、たぶんこれは追えなかったんじゃないかな、実際は。

Oh, 'cause I keep diggin' myself down deeper
I won't stop 'til I get where you are
I keep running when both my feet hurt
I won't stop 'til I get where you are
Oh, when you go down all your darkest roads
I woulda followed all the way to the graveyard (No, oh)

あぁ、だから私は掘り下げ続けるの、私自身をもっと深く
やめないの、あなたのところに行けるまで
私は走り続けるの、両足が傷付いても
やめないの、あなたのところへ行けるまで
私は知ってるの、あなたがあなたの一番暗い道を進むとき
私は墓場までの道をずっとついて行ったはずなの(いやだな、あぁ)

 こっちには現在形のwillがありますね。
 ついて行くはずだった相手は一番暗い道を進んで行ってしまったあとで、残された歌の主人公は今でも追いたい気持ちと戦ってるんじゃないかな。

You look at me
With eyes so dark, don't know how you even see
You push right through me
It's gettin' real
You lock the door, you're drunk at the steering wheel
And I can't conceal

あなたは私を見るの
すごく暗い目で、あなたにどんな風に見えてるのかもわからない
あなたは私を押しのける
現実味が出てきたね
あなたはドアに鍵をかけて、運転席で酔っ払ってる
そして私は隠せない

 これは友だちにやめとけって言われるのも納得の仕打ち。
 最後のconcealって隠すっていう意味の他動詞なんですけど、これ目的語はどれなんだろう。なにを隠せないのかちょっと呑み込めないので、宿題として掘り下げが必要ですね。
 あれかな、傷つけられるまではなんとか我慢がきいてたけど、関心を向けられなくなったことや、飲酒運転っていうあからさまな破滅的行為を前にすると、もう「これアカンわ」っていう思いを誤魔化しきれなくなった感じなのかな。

Oh, it's funny how
The warning signs can feel like they're butterflies
あぁ、これっておかしいよね
警報がまるで蝶々みたい

 ……と、ここで大きく「はあっ」っと息を呑むわけです。
 あれドキドキしちゃいますよね。
 この先の歌詞はくり返しとなるので割愛します。

 ここからは単なる私の感想なのですが、思春期の感情ジェットコースターに乗っているティーンエイジャーのときに聴いておきたかった曲だなぁと思います。以前にご紹介したJ-Axの「Via di qua」でも同じようなことを書いた気がしますが、私は『あなたを傷つける愛から逃げろ』と、子どものときに教わりたかった。イタリア人ラッパーの J-Axおじさまは家族からの歪んだ愛に押しつぶされるな」とエールをくれましたが、ホールジーさんは自分自身の愛の歪みを知って、加害者から逃げて、生き延びて」と背中を押してくれているのではないかな。

 あーあ、もっと英語が上手だったら、さらに多くの情報をキャッチできてたんだろうな~と思うと惜しまれます。ぼちぼちですね。精進します。


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