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【2022年版】株式投資型クラウドファンディング総まとめレポート

2022年も残すところあとわずか。今年は、国の看板政策に「株式投資型クラウドファンディング」をはじめとする金融分野のキーワードが盛り込まれるなど、新たな動きが数多くありました。主なできごとを振り返ってみましょう!

■株式投資型クラウドファンディングとは?

はじめに株式投資型クラウドファンディング(以下、株式投資型CF)についての説明です。株式投資型CFとは、個人投資家がインターネットを通じて非上場のベンチャー企業に対して少額から投資できる仕組みです。

個人投資家側は、投資先が将来成長し、新規株式公開(IPO)や事業売却(M&A)などに至れば、投資額を大幅に上回るリターンを得られる可能性があります。一方、スタートアップが倒産・解散に至った場合、投資金額を上限とした損失が発生する可能性があります。

スタートアップ側は、出資に対して株式を発行し、事業に共感してくれる株主を獲得することができます。株式投資型CFはスタートアップの資金調達手段を多様にする目的で、2015年に創設された制度です。

■2022年の振り返り

それでは2022年の株式投資型CF市場の動向と、関連するイークラウドの動きを振り返ります。

株式投資型クラウドファンディング市場総括

日本証券業協会の統計によると、2022年11月末までの株式投資型CFの取扱件数は153件、調達額は23億9,136万円となりました。調達額は前年から大きく増えた2021年に次ぐ金額となり、取扱件数も今後集計される12月分を含めれば、2021年と同程度の規模となる見込みです。

また制度開始以来の累計調達額は今年100億円を突破し、11月末までで112億5,435万円となっています。

イークラウドの2022年11月末までの実績は6件、2億1,195億円となります。サービスを開始した2020年からの累計では15件、5億2,376万円となりました。

また、2022年の1案件当たりの調達額が市場平均で約1,500万円となる中、イークラウドはそれを上回る約3,000万円となっています。(イークラウド調べ)

株式投資型クラウドファンディングを利用した企業のイグジット

業界全体では2021年に引き続き、今年も株式投資型CFに挑戦した企業のイグジットが発生しました。

イークラウドでは、資金調達を実施した企業の買収(M&A)が成立し、個人投資家に2.69倍のリターンが発生しました。募集からM&A成立までは約9か月で、イークラウド調べでは業界最速のリターン発生となりました。

日本初の株式投資型CF「FUNDINNO」でも、資金調達した Innovation Farm のM&Aが成立し、投資家へのリターンが実現したと発表しています。

株式投資型クラウドファンディングの制度改正

2022年は株式投資型CFをめぐる大きな制度改正がありました。

1月施行の改正金融商品取引法(施行令、内閣府令などを含む)に関する制度改正で、いずれもスタートアップへの投資を促す、業界にとってポジティブな変更となりました。改正の詳細は1月公開のnoteでもご紹介しましたが、今回はそのおさらいと改正後の動きをご紹介します。

▼今年1月のnote

資金調達の「1億円未満」の通算方法の見直し

株式投資型CFでは、スタートアップが調達可能な金額は1社につき、1年間で1億円未満とされています。この1億円未満の算定方法について、これまでは過去1年間の、同一の種類の有価証券による他の調達額と、株式投資型CFでの調達額とを「通算」して1億円未満とすることが求められていました。

ところが改正法の施行で「通算」が原則不要となり、株式投資型CF単体で1年間に1億円未満の資金調達を行うことが可能になりました。

これを受けイークラウドでは、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達後に株式投資型CFを行う事例や、VCと併用して株式投資型クラウドファンディングを活用する事例が新たに生まれました。

イークラウドではこれらの状況を踏まえ、提携VCからの出資済み企業がイークラウドで資金調達する際の、優遇プランの提供を開始しました。またイークラウドとVCの提携の輪も全国に広がり、11月末時点の提携VCは36社となりました。

投資金額の「50万円以下」が一部緩和

個人投資家に定められていた上限投資額も一部緩和されました。

これまでは1人が1社に対し、株式投資型CFを通じて1年間に投資できる金額は50万円までとする上限がありました。しかし改正法施行に伴って、特定投資家として認定された個人投資家はこの50万円の上限がなくなりました。

特定投資家とは、適格機関投資家を始めとしたいわゆる「プロ」の投資家を指します。

このため、例えば大口の個人投資家がプラットホームに特定投資家として認定された際に、株式投資型CFのそのプラットフォームを通じて知ったスタートアップに投資する場合は、この要件緩和が効果的となります。

改正法施行を受け、FUNDINNOは、特定投資家向けの口座開設を可能としたことを公表しました。

またFUNDINNOは、ベンチャー企業が1億円以上の大型資金調達を可能とする「FUNDINNO PLUS+」を開始したと発表しました。このサービスは、株主コミュニティ制度と特定投資家制度を用いて、大型調達を可能とするものです。FUNDINNO PLUS+ 第1号となったアン・コンサルティングは、1.1億円の資金を調達したと公表しています。

■2023年以降につながる動き

ここからは来年以降の制度改正につながる主要なトピックスを紹介していきます。

なんといっても2022年は、政府がスタートアップ支援を前面に打ち出したことが大きな話題となりました。岸田文雄政権は看板政策「新しい資本主義」実行計画を策定し、このうち「スタートアップ育成」や「資産所得倍増」などを目玉施策に掲げました。

この動きの一環で「株式投資型CF」「エンジェル投資」の利用促進も、各種経済対策に盛り込まれました。2023年以降、関連する法制度の整備へ、検討の動きが具体化すると見込まれます。

もちろん以下に示す制度設計などの具体的な支援策も重大ですが、こうした政府の姿勢により、スタートアップ育成の機運がようやく日本にもたらされたことにも大きな意味があります。社会課題の解決を担うスタートアップへの投資を促すという、株式投資型CF業界が貢献してきた領域が、改めて評価される未来が始まろうとしています。

主要な経済対策に関連制度がラインナップ

2022年中に政府が示した、株式投資型CF市場に影響がありそうな主な施策は以下の通りです。

「スタートアップ育成5か年計画」

新しい資本主義実行計画などに基づいて政府は11月、「スタートアップ育成5か年計画」を策定しました。スタートアップへの資金供給策として、株式投資型CFに関連した部分では以下の方針が示されました。

第二の柱:スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化

(11)株式投資型クラウドファンディングの活用に向けた環境整備
株式投資型クラウドファンディングは、非上場企業が株式を発行し、インターネットを通じて多くの人から少額ずつ資金を集める仕組みであるが、現在の発行総額上限(1億円)を超える資金をプロ投資家から調達することを可能とすることを検討するなど、実際のニーズや投資家保護の観点も踏まえながら、必要な見直しを図る(~2025年度)

スタートアップ育成5か年計画から引用、()内は同ロードマップ内で示されている計画年度
太字は筆者

この方針により、株式投資型CFによる資金調達の1年間の上限額が、現在の1億円未満から引き上げられる可能性がありそうです。調達上限額が大きくなれば、株式投資型CFを活用しようと考える企業が増えることが見込まれます。

「令和5年度税制改正の大綱」

新しい資本主義実行計画などに基づいて政府は12月、「令和5年度税制改正の大綱」を閣議決定しました。エンジェル税制・エンジェル投資に関連した部分では以下の方針が示されました。

個人所得課税: スタートアップへの再投資に係る非課税措置の創設

○保有株式の譲渡益を元手に、創業者が創業した場合やエンジェル投資家がプレシード・シード期のスタートアップへの再投資を行った場合に、再投資分につき20 億円を上限として株式譲渡益に課税しない制度を創設する。

令和5年度税制改正の大綱の概要から引用。太字は筆者

この方針により、株式を売って得た譲渡益を元手にしたスタートアップへの投資は非課税とするなどの制度ができる可能性がありそうです。このほかエンジェル税制について「所要の措置を講ずる」としており、現行制度よりも利用もしやすくなる可能性があります。

そのほか株式投資型CFの追い風になりそうな制度

上記以外にもスタートアップの出口戦略を後押しする施策が複数示されています。

例えば、全国の研究大学について1大学で5社起業し、1社はエグジットを目指す「1大学1エグジット運動」(スタートアップ5か年計画)。企業がスタートアップを買収した際にも法人税の優遇が受けられるよう、既存の「オープンイノベーション促進税制」を拡大する方策(令和5年度税制改正の大綱)などが挙げられます。

これらは、株式投資型CFやエンジェル投資にダイレクトに関わるものではありませんが、市場環境に追い風となる施策といえそうです。

■株式投資型クラウドファンディングの今後の議論

時代の追い風が吹く株式投資型CFですが、今後の議論として最も注目されるのは、スタートアップが一度に調達できる金額の上限規制です。

株式投資型CFでは、投資先のベンチャー企業が破綻した場合などの投資家の数および損失額を限定するといった観点から、1年間に調達可能な金額を1億円未満としています。

先述した通り、スタートアップ育成5か年計画でもこの1億円規制などについて「必要な見直しを図る」ことが明記されましたが、上限額がどの程度拡大されるかや、拡大できる場合の条件などは、関係省庁内の今後の議論にゆだねられることとなりそうです。

海外における株式投資型CFの調達上限額は、米国で7億円程度、英国で11億円程度となっています。日本でも株式投資型CFで1億円以上の調達が見込めれば、より成熟したスタートアップが株式投資型CFを利用する可能性が高まります。

個人投資家にとっても幅広い企業を応援できるようになるため、株式投資型CFを利用する個人投資家の裾野が広がるなど、業界内外の注目度の向上が期待されます。

■株式投資型クラウドファンディングの米国・英国の動向

ところで海外の株式投資型CFをめぐる状況はどのようなものなのでしょうか。先行する米国と英国は2022年も盛り上がりを見せていました。主要トピックスをみてみましょう。

※海外の株式投資型CFの仕組みは、日本の株式投資型CFの仕組みとは異なります

米国で株式投資型CFイベントが3日間にわたり開催

米国・ロサンゼルスで11月、起業家や投資家が参加するイベント「Equity crowdfunding week」が開かれました。イベントサイトによると3日間で50以上のセッションが開催。市場動向や業界分析をめぐる講演のほか、資金調達のワークショップなど実務的なイベントも開催されました。

▼Equity crowdfunding week のイベントサイト

イベントでの株式投資型CFに関する講演では、市場規模について「今後数年間で2,000億ドル(27兆円)を超える見込み」と紹介されており、米国での株式投資型CFの勢いが伺えます。※1ドル=135円で換算

イベントでは初の「Equity Crowdfunding award」も開かれ、「PLATFORM OF THE YEAR」や「FOUNDER OF THE YEAR」といった部門ごとの表彰も行われました。

米フィンテック大手が英プラットフォームの買収を完了

米国の大手フィンテック企業 Republic は、英国の株式投資型CFプラットフォーム Seedrs に対する、1億ドル (135億円) の買収を完了しました。

買収完了で、北米と欧州でサービスを提供する初の国際的な株式投資型CFが誕生することとなりました。買収契約と同時に、Republic は Seedrs に多額の投資を行い、欧州での事業拡大を加速させる方針を明かしています。 

このグローバルプラットフォームの誕生によって、株式投資型CFの国際的な存在感が高まることが期待されます。

米プラットフォームが『コミュニティラウンド』を立ち上げ

株式投資型CFを「コミュニティラウンド」と提唱しているのが、米国のプラットフォーム Wefunder です。その Wefunder が「communityround.com」というサイトを立ち上げ、資金調達に成功した企業や調達を計画している企業の紹介を始めました。

▼communityround.com のサイト

communityround.com の紹介ページには、資金調達の結果や、株式投資型CFを利用したことに対する起業家の手ごたえのほか、個人投資家が何に期待して投資したかのコメントなどが掲載されています。「コミュニティが強力になった」「昇給以上に会社の士気を高めた」など、スタートアップ側のリアルな喜びも記載されています。

昨今「ファンマーケティング」「コミュニティマーケティング」という言葉が注目されるように、多くの企業がユーザーコミュニティの形成や活用を強化しています。

communityround.com では、こうしたファンづくり、コミュニティづくりの一手として株式投資型CFを利用することの意義を、各事例から学ぶことができるようになっています。

コミュニティづくりを目指して株式投資型CFを利用した海外スタートアップの事例については、過去のnoteでもご紹介してきました。今後も、株式投資型CFがコミュニティマーケティングの手段として、さらに注目されることが期待されます。

▼株式投資型CFを利用した海外事例についてのnoteはこちら

■まとめ:今年の総括と2023年に向けての考察

2022年の株式投資型CF市場における資金調達額は、前年から大きく伸びた2021年に次ぐ金額となり、取扱件数も2021年と同程度の規模となる見通しです。株式投資型CFで資金調達を実施した企業の買収(M&A)事例も複数成立し、個人投資家にリターンが発生しました。

また、政府がスタートアップ支援を前面に打ち出したことで「株式投資型CF」「エンジェル投資」の利用促進が、各種経済対策に盛り込まれました。2022年中に、資金調達の「1億円未満」の通算方法の見直しや投資金額の「50万円以下」が一部緩和されましたが、2023年以降も、関連する制度の見直しについて、検討が進むと見込まれます。

加えて、海外のように、マーケティングにおけるトレンドの観点からも、企業のコミュニティづくりの手段としての株式投資型CFの認知度向上が期待されます。

資金調達をした会社がIPOやM&Aに至るといった成功例が増えていけば、個人投資家の関心が一段と高まる可能性もあります。2023年以降は、政策的な側面からも、市場トレンドの側面からも、株式投資型CFの領域の動きが一層注目されます。

株式投資型クラウドファンディングを活用した資金調達についてもっと詳しく聞きたい方は、代表・波多江直彦のTwitter問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

▼イークラウドのサービスサイトはこちら


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