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ビル・ミッチェル「市場関係者を歯牙にもかけなかった黒田日銀は正しい(正しかった)」(2023年1月26日)

世界中で(日銀を除く)中央銀行が金利を引き上げ始めて9ヶ月ほど経過した。これは、中央銀行はインフレ圧力への対処として金利操作を活用し、財政政策はインフレと戦うために(とにかく財政黒字を目指して)金融政策を支援すべきだ、とする主流派経済学への回帰の表れに他ならない。〔主流派経済学の見解によるなら〕中央銀行は、何らの「将来予測」の見解を作り出してインフレを起こし、金利を引き上げてインフレ圧力を抑制できるとされている。結果、市場は失業率を安定物価と整合的な水準に引き上げるので、物価安定を通じて完全雇用が達成される、とされる。つまり、〔主流派経済学によって〕完全雇用は、労働者の就業要求に十全に応じられるだけの雇用がある状態ではなく、インフレ率によって定義されるようになったのだ。これは、1970年代以降、学会と政策立案者を支配してきた、NAIRUコンセンサスと呼ばれるものだ。パンデミックの間には、このアプローチは放棄され、特に「このアプローチによって何十年にもわたって不必要に失業率を上昇させることになってきた」とFRBが声明を出した後には、中央銀行は物価安定だけでなく、低失業も目標にするのではないかと、期待が生まれた。むろん、進歩的な経済学者は、金融政策の利上げ転換は、不確実な分配結果を生み出し(金利の上昇によって債権者は得をし、債務者は損失を被る)、金利上昇は事業コストを押し上げる〔悪性の〕物価上昇を引き起こすとの、悪性シナリオの可能性を指摘し、利上げは〔中央銀行と資本家との〕取引だとして全否定している。とにかく、我々はこの悪質なNAIRU理論からしばらく開放されていたが、結局は中央銀行による金利操作の世界に戻ってきたのだ。日銀だけが、再度荒野に立って、このNAIRU理論に抵抗し、グローバルな圧力への政府の対処方法を示している。大事なのは、〔利上げ転換によって〕誰が喜んでいるのかを見ることだ。〔利上げによって〕濡れ手に粟だと、取らぬ狸の皮算用をしていた金融市場関係者は、〔日銀の利上げ拒否によって〕自身が主張していた支配権を拒絶するようなイデオロギーの洗礼を浴びたのである。因果応報で喜ばしい出来事だ。

またもや、日銀は金融市場の期待に応えない!

金融市場では先週、日銀が政策を据え置いたことに対して、不信感が広がった。

ツイッター上で、現代貨幣理論(MMT)に死亡宣告を続けているツイ廃ヒーロー(彼は我々の研究にご執心のようだ)も、最近になって金融市場の関係者達が、日銀に政策を変更させ他国と歩調を合わせるように圧力をかけていると呟いている。

このツイ廃ヒーロー氏は、金融市場は、強欲な市場関係者によって支配されており、市場関係者はその意向の赴くままに、日本の政策立案者を恐怖によって屈服させ、日本国民への影響を無視して、投機家に何十億もの利益を与えるように政策を調整させられると考えているようだ。

彼は、金融市場の権力を含めて、あらゆることについて間違え続けている。

現在、金融市場では中央銀行の政策変更から利益を得ようとする投機が広がっている。「賢明な」金融市場は、主流派経済学の「インフレは上昇すれば金利も上昇しなければならない」との主張を理解して、〔利上げへの〕政策変更は避けられないことを織り込んでいるされている。

これらは愚かな論理である。

こうした論理では、日銀はイールドカーブ・コントロール政策(投機筋が主導する10年物国債の金利を押し上げようとするのを阻止するために必要なだけの国債を購入する政策)の放棄に追い込まれているとされている。なので、投機筋は日本国債の金利の上昇を見込んで、空売りを盛んに行っている。

こうしたチンピラのような市場関係者達は、満期国債を短期の先渡取引で額面保証価格よりも安い価格で購入してから、満期時に空売り契約を完了すれば、日銀の政策変更から濡れ手に粟的に儲けられるとの思惑を持っているのである。

投資銀行関係者による「インフレに対処するために金利を上げなければいけない」といった主張は、どんな場合でも、彼らの所属する金融機関が金利上昇で恩恵を受ける事実からのポジショトークであることは間違いない。

ポジショトークを隠すために、彼らはテレビやメディアに出演して、インフレ〔や円安〕が加速する懸念を表明し、金融政策に責任ある調整を行うように促すのだが、その動機は単に自己利益を得ることにしかない。

しかし、チンピラのような金融市場の関係者たちは、自身が実際には物乞いである事実を受け入れられないようだ。彼らは一貫して蚊帳の外にいるのにだ。

彼らは、中央銀行の庇護の元で、金融の安定性を損なうような空売り戦略でしか利益を得ることができない哀れな存在である。

なので、日銀が政策変更を行わないと表明したことで、金融メディアは認知不協和に陥っている

〔認知不協和として〕以下のような記事を読むことができる。

1.日銀は、憶測が百花繚乱する中で、市場からの圧力をはねのけ、直近の制作決定会合で決めたイールドカーブ・コントロール(YCC)について従来の方針の維持を堅持した。

2.これが報じられたことで、最近では空前の円高が進行した。

3.今後、金融市場は日銀のYCCを辞めさせようと、日銀の決意に対して好戦的な対応でもって迫るかもしれない。

今朝(2023年1月26日)、日本銀行は「金融政策決定会合における主な意見(2023年1月17日・1月18日開催分)」を発表した。

日本銀行が、各国の中央銀行ボードメンバーよりも優れた現状認識を持っていることは明確だ。

日本銀行は以下のように述べている。

消費者物価は、目先、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から高めの伸びとなったあと、そうした影響の減衰に加え、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果もあって、来年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくと予想される。

輸入物価の前年比プラス幅は明確に縮小しており、物価上昇の起点であるコスト・プッシュ圧力は減衰し始めている。
価格転嫁の進捗は、企業収益の改善や、賃上げと投資の積極化につながっており、それが従業員のエンゲージメントの向上やイノベーション創出を通じて、さらなる収益改善・賃上げをもたらす、という形で好循環が回り始めつつある。

これを纏めると以下となる。

1.現在のインフレは一時的なものであり、利上げを正当化するものではない。

2.財政政策(家計への補助金等)によって輸入エネルギー価格の上昇に対処することで、生活費への圧迫を和らげることができる。

3.物価上昇圧力のピークは過ぎつつある。

4.〔企業〕利益と名目賃金が上昇しているのは「好材料」である。国によって政策立案者が労働者の実質賃金の引き下げを要求しているが、これは、そうした国では見られないような所感だ。

金融政策については、日銀は以下のように述べている

物価見通しを踏まえると、現在は、金融緩和の継続により経済をしっかりと支え、企業が賃上げしやすい環境を実現することが重要である。
持続的な賃金上昇が見込めるまで、企業の変革努力を後押しするため、債券市場の機能度にも留意しつつ、イールドカーブ全体を抑制することが必要である。

これを纏めると以下となる。

1.日銀の目的は、高賃金・高生産性の経済であり、現在の諸外国とは正反対の熱意を抱いている。

2.日本銀行は、賃金上昇を支えるためには、経済活動の活発化が必要であり、景気刺激策を維持において考えられる限りことをしなければならないとしている。

さらに日銀は金融政策において、金融市場に若干の警告を行っている。

市場が落ち着き、市場機能が回復するにはやや時間がかかる可能性がある。金融緩和の継続が必要であること、日本銀行の緩和姿勢は変わらないこと、また、賃金の上昇はこれからなので、2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な達成には時間がかかることを丁寧に説明していくべきである。
長期金利には上昇圧力が生じ、イールドカーブ上の歪みが解消していない中、国債買入れの増額や共通担保資金供給オペの拡充等により、イールドカーブ全体にわたって金利上昇を抑制すべきである。

これを纏めると以下となる。

1.投機筋は、日本銀行に利上げと国債買い入れプログラムの終了を迫って利益を上げるような試みは徒労に終わるのでやめておくように。

2.日本銀行はこうした圧力に屈せず、また屈する必要も感じていないたため、〔イールドカーブの〕金利コントロールと国債買い入れを拡大するつもりである。

3.恥を知れ!

この文章の後半では、財務省や内閣府からの意見を読むことができるが、そこでは「政府としては、景気の下振れリスクにも十分対応し、日本経済を民需主導の持続可能な成長経路に乗せていくため、総合経済対策および令和4年度第2次補正予算を迅速かつ着実に実行する」と書かれている。

日本政府は財政黒字には執着していない!

〔以下近況報告〕

ネイチャー誌の新型コロナウィルスについての研究

今週、新型コロナウイルスの長期的な後遺症についてを研究した最新の科学文献を広範に再調査したものを読んだ。

「新型コロナウイルスの長期後遺症の再調査:主要な発見、メカニズム、推奨事例」は、2023年1月13日にネイチャー誌掲載。このトピックに関する信頼できる膨大な研究に基づく最新情報の提供。

グレート・バリントン宣言を元に、ツイッター等でモブが陰謀論を垂れ流している。それによるなら、〔コロナ対策による〕社会への強制的なルールの押し付けは、コロナの危険性を一般民衆に信じさせて巨利を得ようとする製薬会社の巨大な陰謀である、とのことだ。こうした鬼才たちに言わせると、コロナは季節性インフルエンザより危険でないのに、科学によって我々は動揺させられ、歴史的重大事件に仕立て上げられている、とのことだ。

私は、皆にこのネイチャーの記事を読むことを進める。

コロナの長期後遺症は、「衰弱をもたらす病気」であり、我々の想像以上に頻繁に罹患するとの見解が、多くの証拠から一般的なものとなりつつある。

現在、推定で約6500万人がコロナ長期後遺症に苦しんでおり、その中には多くの子供も含まれている。そうした子供は、親による初期感染保護がら漏れいたため、生涯にわたって後遺症に悩まされるかもしれない。

証拠は以下だ。

発症率は、非入院患者の10~30%、入院患者の50~70%、ワクチン接種患者の10~12%と推定される。(…)コロナ長期後遺症は、あらゆる年齢で急性期疾患の重症度と関連しており、診断割合は36~50歳で最も高い。コロナ長期後遺症の患者のほとんどは、入院歴のない軽症急性疾患患者である。

全体として、知見を深めるためにさらなる研究、検査体制のさらなる整備、公的な安全対策(マスク着用の義務化、ビルや学校の換気の改善)などが必要だ。

新型コロナウイルスについては、未だに多くのことがわかっていない。

しかし、現在分かっているのは、何より感染を避けるようにすべきだということだ。

そのため、資本による「開放」の圧力に屈した政府が、今やポスト・コロナの時代であり、「ウィズ・コロナ」に慣れていくべきだなとと喧伝した時に、私が想起するのは、平均寿命の短縮や慢性疾患、労働市場の混乱などの、社会への負担の転嫁だ。

ポスト・コロナの時代に突入していないのは明確だ。

ヘルシンキ大学公開講座「進行中のパンデミック、気候変動、インフレ上昇に直面した世界的課題」2023年1月25日開催

昨夜(2023年1月26日)、ヘルシンキ大学で毎年恒例の公開講座を行った。

今年のテーマは、「進行中のパンデミック、気候変動、インフレ上昇に直面した世界的課題」であり、過去12ヶ月で世界中で起こった変化を分析している。

Youtubeでリアルタイム配信したのだが、放送の遅延からか、録画データは音声と動画がズレており、ネットワークに混雑があったと思われる。

当初は遅延に対応しようとしたのだが、結局はそのまま20秒遅れたままで配信を続け、画面をなるべく見ずに私は発言している。

なので、私は、カメラを見つつ虚空に向かって話している。

技術的な問題はあるが、音質は問題ない。

オンラインMMT講義「現代貨幣理論:21世紀の経済学」は受講者の登録を受け付けている。

4週間の無料コースで、2023年2月15日から開講する予定だ。

たくさん動画やディスカッションを通して、MMTについて適切に学ぶことができる。様々なMMTの学者が登場している。

以前のコースを既に修了している人のために、今回は新しい教材をいくつか用意している。

新しい動画とテキスト教材によって、現在のインフレをMMTの観点から考察している。

また、受講生は教材に基づいて、私と質問を含むインタラクティブなライブ・イベントも数回開催される予定だ。

さらなる詳細は以下のURLを参照してほしい。

https://edx.org/course/modern-monetary-theory-economics-for-the-21st-century


音楽:鈴木常吉

今朝は、これを聞きながら仕事をしていた。

この曲は、日本の歌手/ギタリストだった、鈴木常吉によるものだ。彼は2019年に癌で亡くなったが、我々を楽しませてくれる素晴らしい楽曲を多く残してくれた。

この曲「思ひ出」は、漫画の元にしたTVドラマ「深夜食堂」の主題歌だった。ドラマは、日本についての素晴らしい映画的視聴体験をもたらしてくれた作品の一つだ。

この曲は、2006年に発表された彼のファースト・ソロ・アルバム『ぜいご』(オフノートレーベルからリリース)に収録されている。

この曲は、音楽とフィクションにおける日本の伝統的な叙述手法――物事のはかなさと、過ぎ去った過去の出来事の記憶――を再現している。

TVシリーズにマッチした内容だ。

ドラマの原作漫画の『深夜食堂』は、ネット上で読むことができる。

TVシリーズや漫画でのストーリーやそこで展開される登場人物たちは本当に面白く、興味深い。

なにより、音楽は美しく、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

今日はここまで!

〔著者プロフィール:ビル・ミッチェル。オーストラリア・ニューカッスル大学経済学部教授。ランダル・レイ、ウォーレン・モズラーと並んで、現代貨幣理論(MMT)の創始者。また「MMT (Modern Monetary Theory:現代貨幣理論) 」の命名者としても有名。日本経済にも造詣が深く、日本についての論考も多く発表している。〕
[Bank of Japan continues to show who has the power
Thursday, January 26, 2023 bill]
〔翻訳者:WARE_bluefield
アイキャッチ画像引用元
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