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十、閉経前夜の大胆行動

 閉経を目前にした今、私はセックスレスの解消に本腰を入れている。いままで身体を守ってくれていた女性ホルモン、なかでもエストロゲンの減少に対する危機感からだ。

 身を以って感じるのは生理の変化だ。経血量が減り、月の周期から大きく外れている。実感はないものの数値で示されるのが、脂質異常症だ。今まで標準値を保っていたLDLコレステロールが、この数年基準値を超えている。

 最も気掛かりなのが、膣の乾燥だ。エストロゲンが分泌されれば膣が潤い、その分泌液の自浄作用で細菌の侵入を防げるが、閉経後はそれが期待できない。手の届かない場所の痒みやムズムズ感に耐えられそうにない。ましてや性交痛を我慢してまで事に及ぶなど、私には到底考えられない。

 身体の老化を受け入れて、女性としての一線を退く。そんな潔さを持てない私は、もう少し悪足掻きしようと思う。膣の潤いを定期的にチェックする手段として、セックスは有効だ。

 私の相手となるのは連れ合いだ。連れ合いは十五年前に大きな病気を患ってからは、体調が優れない。その身を気遣ってセックスレスを甘受していたが、「最後の日」がそう遠くないと感じた私は、連れ合いに対して「更年期をラクに乗り越えるためにはあなたの助けが欠かせない。」と打ち明けた。

 セックスレス解消に一役買っているのが、行動科学者デズモンド・モリスの「親密さの十二段階」だ。「目から目」から「性交」までの進展を十二段階で示している。長年同じ屋根の下で暮らしていても、一足飛びに 「性交」では無理がある。その途中段階を日常に取り入れ、ちょっとしたきっかけで頂点に達するとしたら、私にとってのベースキャンプは「腕から腰」とその先の「口から口」だろう。ハグとキスだ。

 狙いは当たった。胸を合わせて互いの背中に手を置くと、たまにハプニングが起こる。満足そうな表情を浮かべながらも、脳は膣粘膜から伝わる指の感触を冷静にジャッジする。痛みはない。濡れ具合はどうだろう。皮膚を伝う感覚はない。加齢で濡れにくくなっている。ならば聞くしかない。

「濡れてる?」

「うん。」

 その先はチェックできたりできなかったり。連れ合いの体調次第となる。挿入なしでセックスと言えるかどうかはさておき、いずれにせよ最後はハグをする。眠くなったらハグを解いて手をつなぐ。いつの間にか眠りに就く。

 自らの体調管理のために、身近な人間を利用している――その感は否めない。その一方で、スキンシップを重ねるうちに情は湧いてくる。更年期を乗り切るには周囲の理解や助けが必要だ。その思いは言葉にしないと伝わらない。お互いの気持ちが離れる前に協力関係ができた。これで更年期を乗り越えられるとよいのだが。

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