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金融とメーカーの違い

在庫と保有

メーカーの人にとって、顧客が次々と商品を買い求めるというのは「この商品が市場に評価された」という意味を含んでいる。さらに、売れた時点で利益額も決まる。

売れないで在庫が積み重なるのは、メーカーにとって敗北で、生産計画の失敗に他ならない。

では、生命保険はどうだろうか。こちらは在庫という概念がない。あくまで保険商品は約款という形で表現された契約の束であり、一件も売れなかったとしてもスペースは取らない。

一方で生命保険に入りたいと顧客の側から殺到する場合、保険会社の人間としては「何かのバランスが崩れている」と捉えた方が良い。

支払事由の発生率が予想より高くて、入り得になっていることが多いのである。

仮にそのような「ぶっ壊れ保険」が一時的に発売されたとしても、一度加入して更新を続ければ保険会社は保有として持ち続けなくてはいけない。

保有の面倒を見続ける、というのはメーカーとの大きな違いである。発売してたくさん売れただけでは、生命保険会社の利益は確定しないのだ。

性質的には、顧客の状況を日々ウォッチし続ながら手を打ち続けるスマホアプリに近いかもしれない。

学生時代と仕事との関連性

メーカーは大学の理系研究室と繋がりを持っていて、定期的に就活生との交流の場を設けているところが多い。

何もないところから就活をする人間よりも、情報面/人間関係の面で有利なスタートを切れるため、就活生時代は羨ましいと思いながら眺めていた。

生命保険会社で似たような性質の仕事だと、アクチュアリーが挙げられる。理系色が強く、学生時代の勉強内容が仕事に直結する。

アクチュアリーの仕事は新商品の開発や決算など、経営に直結する事項が多く、必然的に経営層とのやりとりが多くなる。

すなわち役員などに顔を覚えてもらいやすく、人数も限られているので、出世を意識するならば目指しがいのあるポジションである。

ただし、アクチュアリー資格を取れるかどうかが生死を分けるので、相当な覚悟を持って挑む必要がある(毎年の合格人数からして、弁護士や公認会計士よりも難しいと言われている)。

いざとなったら他社への転職といった形で潰しも効くので、ペーパーテストの競争に勝ってきた秀才にとっては魅力的な仕事だろう。

給料の上がり方

金融は割と若いうちに給料が急激に上がり、出世コースに乗れなかった人間は後半に突然ガクッと落ちる。

一方でメーカーは金融と比べると給料の上昇幅が緩やかである。最近の就活生の人気が金融やコンサルに寄っているのは、「転職可能性が高いから、給料の上昇をのんびり待っていられない」という意識が出ているのではないだろうか。

"出世払い"を信用しなくなっているのである。その結果、若者が安く働いてくれるから支えられていたシニア層が、早期退職含めてどんどんお払い箱になっている。

ちなみに、生命保険会社では給料アップへの合意がニュースになっていたが、高い給料を払うには相応の利益が必要で、保険料というのは金融庁の認可がいるのでそんなに簡単に上げられない。すなわち顧客には簡単に価格転嫁できない。

そのため、資産運用でしっかり頑張って利益を上げる、が今の保険会社の現実だ。

先日興味深く読んだのだが、保険会社の投資先の種類は拡大傾向だが、ポートフォリオの比率については規制がなされている。(『生命保険経営』第91巻 第1号 「保険会社の資産運用規制の変遷と比率規制の撤廃」)

今残っている規制は、「国内株式及び外貨建資産の保有はそれぞれ総資産の30%、不動産の保有は総資産の20%を超えてはならない」(いわゆる「3:3:2規制」)だそうだ。

資産運用が保険会社にとっての生命線になっている中で、規制緩和を要望する声はますます大きくなりそうである。

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