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量産型エリート達に囲まれた『芸術家』の圧倒的存在感。


映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』を観てきた。

きっかけは今朝。
娘の幼稚園の運動会が雨で延期になったので子供達がおばあちゃんの家(夫の実家)に遊びに行きたいと言い出し、夫が義母にお伺いの電話をしたのだが、しばらく義母と話していた夫がこちらに
「ねえねえ、三島由紀夫詳しかったっけ?下高井戸シネマで三島由紀夫の面白そうな映画やってるんだって。」
と話しかけてきた。
そして「俺たち出かけた後一人で観てきたら?」と言ってくれたので映画情報をググって観に行ってみることにした。

三島由紀夫のことはめちゃくちゃ詳しいわけでは無い。
ただ大学時代悪友とちょっと首を突っ込んだサークルで、仲良くなった文学青年的先輩が三島由紀夫を愛読していて、それに倣って少ない脳みそで無理やり何冊か読んだりしたのがきっかけで少しは彼のことを調べたりした。あとその名残で留学先のパリで『豊饒の海』を長風呂のお供にしていた時期があった。その程度。

東大でこんな討論会があったことは今朝映画情報を見るまで全く知らなかった。

私は高卒で就職した団塊世代の両親に育てられたので学園紛争にあまりいいイメージがない。
革命だなんだと騒ぎまくってるけど、そんな運動やれてるのは働く必要がなくて誰かのスネをかじって生きてるおかげなのに、大学生という立場に甘んじながら学校や世の中を批判している、中二病ならぬ大二病だろと思っていた。

小難しい言葉で議論をまくしたてたって所詮机上の空論、恵まれた身の上のおぼっちゃま達の暇つぶしに過ぎない、この映画も初めはそう思って観ていた。

三島由紀夫を呼びつけた全共闘の東大生たちはいかにもな秀才クンたちという感じで、話し方も『めっちゃ早口で言ってそうww』と揶揄される書き込みの如くであり、もうほんと典型的な頭でっかちで勉強以外の世界知らないんだな〜という面々。

だがそこに、強烈な存在感を放つ芥正彦氏が赤ちゃんを肩車して登場する。赤ちゃん同伴で現れただけでもびっくりなのに、三島由紀夫とのやりとりもそれまで喋っていた他の東大生とは全く違う切り口、空気感で三島由紀夫と受け答えを繰り広げていく。

映画を観終わった後でググって調べてみたが、この赤ちゃんは芥氏が学生結婚した奥様との間にもうけた長女で、この日は奥様が仕事に出かけるので自分が面倒を見る日だったとか。
1969年。
オムツもまだ布が主流だったのではと思うのだが、芥氏が頑張って替えたりしたのだろうか。
まあそれだけでも育児はおろか自分のパンツすら洗ったことあるかどうか怪しいのに口調だけはやたら高飛車な東大生クンたちとは一線を画しているわー、と二児の母だとそんな視点を持ってしまう。
タバコ持ってる手で抱っこしてたのはめちゃくちゃヒヤヒヤしたけど。赤ちゃんに副流煙モクモクってすごい時代だよね。

映画は当時の討論会の録画と、関係者へのインタビューで構成されているのだが、芥正彦氏は当時も現在も唯一無二の圧倒的なオーラを放っている。
他の東大全共闘の人たちは、きっと皆さんそれぞれ非常に優秀な方々なのだろうけど、50年を経た姿を見てもまあ想像通りというか、よくいるエリートのおじ(い)さんになったね、という感じなのに。

少し話がそれるが、私は職業柄アマチュアで音楽を嗜んでいる社会的地位の高い方々に出会う機会が多く、中にはかなりの腕前の人もいたりする。
だがそういう人の上手さは器用さと勤勉さに基づく類のものがほとんどで、芸術的な感性から派生している上手さであることは滅多に無いと感じるのだ。
そしてそういう人たちは、ヴァイオリンをとったらただの貧乏なド庶民の私にこう言ってくださるのだ。
「うろうろさんがお金持ちになることは今からだってできるけど、私が今からうろうろさんのようにヴァイオリンを弾けるようになるなんてことは、いくらお金を積んだってできないんですよ」
(それでも私は『ヴァイオリン上手じゃなくてもお金ある方がいいよ』と思ってしまうけどw)

話を元に戻すが、とにかくあの芥氏の雰囲気と発言は、あそこにいた東大生クンたちが仮にいくら芸術に興味を持って造詣を深めたとしても決して醸し出すことのできない『芸術家』のそれなのだ。そしてその彼だけが持ちうる感性でもって同じく『芸術家』である三島由紀夫氏と『交信していた』ように見えた。

多分、彼は先に私が書いたようなことは感じていたのではないだろうか。
自分たちがやっていることが所詮、
誰かに生活を支えてもらってる上で成り立っていること、
本当には世の中の役には立てていないこと、

そしてそのことに無力感を覚えることすら、恵まれたものの自己陶酔だということ。

なんて勝手なこと書いたら今なお眼光鋭い芥氏に「違う!」とすごまれてしまいそうだけど。


エネルギー欲しい方いらっしゃいませんか?売るほどあります!(≧∇≦)