見出し画像

足関節内反捻挫 アスリハメモ

意外とこういう「メジャー」な傷害のリハビリってついついルーチン的にやってしまいそうになるんですよね。むしろマイナーな傷害の方が自分が無知であることに自覚的になれるので、エビデンスを洗いざらい調べて、しっかり評価して……と丁寧にできるような気がする。
ちょうど最近トレーニング指導させていただく機会があり、その過程で一度エビデンスを確認したのでそれのまとめ。
備忘録なので特に役立つことは多分ナイデス


それは本当に捻挫か?初期評価について

基本はHOPSで疑いを立てる。受傷パターン、腫脹、疼痛、圧痛など。
骨折の可能性を可能な限りR/Oする。身体所見で疑わしければ医師へrefer。

腓骨遠位部の骨折をR/OするためにSqueeze testは行うべきらしい(Starkey & Brown, 2015)。
ただこのテストはsyndesmosis injuryを見る上でも精度が高いわけでもなさそう(Schqieterman et al., 2013)。なので果たして有用かどうか。

ひとまず医師へreferすべきかどうかの指標はOttawa Ankle Rulesで良いんじゃ無いかなーという気もする。

Magee & Manske (2021)より。グレー領域はBuffalo modificationでの触察部位。

Ottawa Ankle Rules[OAR]は、
・外果/内果後方縁から6cm上までの部位、舟状骨、第5中足骨底のbony tenderness
・受傷直後は独歩できたか
・評価実施時点の独歩の可否
で評価する。どれか1つでもあれば骨折の可能性も否定できないのでX-pの撮影が必要であると判断。

足関節骨折に対するOARの精度は感度98.0%[95%CI: 96.3-99.3]、特異度39.8%[27.9-47.7]、-LR0.08[0.03-0.18]なので(Jenkin et al., 2010)、R/Oのツールとしては悪くないか。

外果/内果領域の触察について、原法は後方縁としているが、Buffalo modificationでは外果/内果中心から直上6cmと変更される。これによって特異度が50%前後にまで上がる(Ibid)。

ただしOARは18歳未満には使えない。また、それ以外にもいくつかのexclusion criteriaがあるため注意。

介入の基本戦略

(再)受傷のリスク因子から考える

足関節捻挫のリスクは多因子的であるため、包括的な評価とそれに基づくアプローチが必要。
DelahuntとRemusらは年齢、体組成、既往歴、足関節・股関節の筋力、バランス能力などがintrinsic risk factor(=個々人レベルで持ちうるリスク因子)となることを指摘している(Delahunt & Remus, 2019)。

Delahunt & Remus (2019)より。

Kobayashiらのメタ分析では、リスク因子に関して以下のような指摘がされている(Kobyashi et al., 2016)。

  • 非受傷群に比べて受傷群ではBMI値が高かった

  • 足関節のROMと捻挫の間に関連性は見られず

  • 遠心性の内がえし筋力と高速な求心性の足関節底屈筋力は足関節捻挫と有意な関連を示した

  • 他動での内がえしの関節位置覚は受傷群と非受傷群で有意に異なった

  • 短腓骨筋の反応時間は足関節捻挫と関連していた

このようなリスク因子は男女で異なる可能性が指摘されている。
Masonらは女性を対象とした研究が多くない点を指摘しつつ、例えば男性ではBMI値がリスクファクターになるものの女性ではそうではないといった、足関節捻挫のリスク因子における性差について調査している(Mason et al., 2022)。

Mason et al. (2022)におけるリスク因子と性差に関するforest plot。
Mason et al. (2022)を基に作成。

理屈上はこのあたりについて評価し、不足している要素についてトレーニングしていくのを基本方針とするのが良いのでは?とも思われる。
とは言っても、例えば内がえし/外がえし筋群の筋力などは直接的な要因では無いかもしれないがバランス能力を適切に発揮する上では必要な要素になるはず。

なので、足関節と股関節(特に外転)のMMTはスクリーニング的に用いるのが良いか。要検討。

エクササイズのモダリティについて

転帰を良好にする&再受傷を予防する観点から、足関節捻挫後にはリハビリテーションのプロセスとして運動療法を行うことが強く推奨される(Kaminski et al., 2013; Doherty et al., 2017; Vuurberg et al., 2018; Martin et al., 2021; Wagemans et al., 2022)。
したがってどれだけフィールドの内外かかわらずトレーニングできるかが肝。
そのコンポーネントとしてはROM、筋力強化、神経筋トレーニング、姿勢の再教育、バランストレーニングが含まれる(Martin et al., 2021)。

特にバランストレーニングは重要。無介入の対照群と比べてバランストレーニングによる介入によって足関節捻挫リスクが46%減少する(RR=0.56)というメタ分析もある(Bellows & wong, 2018)。

したがって、まずはoff-the-fieldのレベルでのトレーニングの目標としては、Yバランステストのような動的バランステストで適切にパフォーマンス発揮できるかという所に定めるのが良いのではないか。
その過程で不足している要素(筋力、可動域など)をトップダウン的に評価し、アプローチするというイメージ。
だいたいその過程で腓骨筋か後脛骨筋か中殿筋かのどこかしらに問題があることが多い(気がする)。

ただ、バランストレーニングはprogression/regressionのタイミングがイマイチ経験則的になりやすい気がする。個人的には1つのステップで7割できるようになったら次のステップにチャレンジするという認識。

基本的には静的→動的、開眼→閉眼、両脚→片脚(というよりもBOSを狭くしていくというイメージ)、摂動なし→あり、といった変数を調整しながら進めていくのがよさそう。
BOSUバランスとかも有用。ランディングに摂動を加える↓のようなものも中〜後期には実施することも。

最終的には動的バランスが安定し、片脚でのホッピングができるようになるとランニング系のプログラムに安心して進められるかなーというイメージ。

off-the-fieldでの動的バランス(Yバランスなど)がある程度できるようになったらオンフィールドでのトレーニングになるだろう。
まずはjoggingからはじめ、段階的なランニング、およびCODが重要になる。
CODはリアクションの有無も調整。特に競技でリアクションが要するのであればアジリティトレーニングは必須だろう。

その他のモダリティについて

徒手療法は有効、特に運動療法と組み合わせるとアウトカム的には良い転帰をもたらす(Vuurberg et al., 2018)。

超音波療法は2011年のコクランレビューでは「急性の足関節捻挫の治療に超音波療法を使用することは支持されない」と結論づけられている(van den Bekerom et al., 2011)。
APTAによるCPGでも、

Clinicians should not use ultrasound for the management of acute ankle sprains.

Martin et al. J Orthop Sports Phys Ther. 2021;51(4):CPG1-80.

として、超音波の利用をすべきではないとしている(Grades of recommendation: A)。

なので超音波は足関節捻挫後のマネジメントには必要ないというイメージか。harmfulではないのでやっても良いが、臨床的に重要な効果をもたらすわけではないという感じ。

その他のphysical agentsも、効果が無いわけではないが劇的に推奨されるわけでもなさそう。

競技復帰のクライテリアをどうするか問題

競技への復帰(RTP)に関する明確なエビデンスは存在せず、コンセンサスは得られておらず、様々なアウトカムが利用されている(Wilkstrom et al., 2020)。

Wilkstrom et al. (2020)を基に作成。

ここからは疼痛やROM、筋力、バランス、競技特異的動作など様々な要素を総合的に解釈した上で意志決定をする必要性が示唆される。

特にfunctional performanceについて、非受傷肢と比較することはベースラインが無くても評価可能なので有用か。
上表では80~90%で揺れているが、D'Hoogheらは非受傷肢と比較してパフォーマンスで90%以上は発揮できるようにすべきと指摘している(D'Hooghe et al., 2020)。

患者報告アウトカムpatient-reported outcomeは多くの種類があるが、APTAのガイドラインではFoot and ankle ability measure[FAAM], Lower extremity functional scale[LEFS]が一例として挙げられており、これらを含めた妥当なスケールを用いて評価すべきとしている(Martin et al., 2021)。

個人的にはLEFSは評価項目がかなりADLに偏っているので競技復帰の指標としてはあんまりなのでは……という所感。
FAAMのsports subscaleを用いるのはありかも。
こういうスケールはちょいちょい推奨されるけど妥当性・信頼性が報告されている日本語版がないことが多いのがつらい。

FAAMのsports subscale。Martin et al. (2005)より。


FAAMのsports subscaleの日本語版。三宅ら. 臨床スポーツ医学. 2022;30(2):357-364. より。

2021年のdelphi studyではスポーツへの復帰の判定に含めるべき項目/含めるべきでない評価項目について以下の通りまとめられている(Smith et al., 2021)。

Smith et al. (2021)を基に作成。
項目後の値について、1~3は調査のラウンド、割合[%]は合意の割合を指す。
略→FMS: functional movement screen, ACWR: acute:chronic workload ratio, FAAM: foot and ankle measure, FAOS: foot and ankle outcome score

Tassignonらは、足関節捻挫後の競技復帰は複雑系の考え方に基づいて非線形かつ連続的な概念として考えられるべきであると指摘している(Tassignon et al., 2019)。

したがって、競技復帰にあたっては単一的な変数だけで考えるべきではなく、複数の変数を統合的に見ていく必要がある。上述したアウトカムはあくまでその変数の一例にすぎないと考えておくのが良さそう。


References

  • Bellows R, Wong CK. THE EFFECT OF BRACING AND BALANCE TRAINING ON ANKLE SPRAIN INCIDENCE AMONG ATHLETES: A SYSTEMATIC REVIEW WITH META-ANALYSIS. Int J Sports Phys Ther. 2018;13(3):379-388.

  • Delahunt E, Remus A. Risk Factors for Lateral Ankle Sprains and Chronic Ankle Instability. J Athl Train. 2019;54(6):611-616. doi:10.4085/1062-6050-44-18

  • D'Hooghe P, Cruz F, Alkhelaifi K. Return to Play After a Lateral Ligament Ankle Sprain. Curr Rev Musculoskelet Med. 2020;13(3):281-288. doi:10.1007/s12178-020-09631-1

  • Doherty C, Bleakley C, Delahunt E, Holden S. Treatment and prevention of acute and recurrent ankle sprain: an overview of systematic reviews with meta-analysis. Br J Sports Med. 2017;51(2):113-125. doi:10.1136/bjsports-2016-096178

  • Jenkin M, Sitler MR, Kelly JD. Clinical usefulness of the Ottawa Ankle Rules for detecting fractures of the ankle and midfoot. J Athl Train. 2010;45(5):480-482. doi:10.4085/1062-6050-45.5.480

  • Kaminski TW, Hertel J, Amendola N, et al. National Athletic Trainers' Association position statement: conservative management and prevention of ankle sprains in athletes. J Athl Train. 2013;48(4):528-545. doi:10.4085/1062-6050-48.4.02

  • Kobayashi T, Tanaka M, Shida M. Intrinsic Risk Factors of Lateral Ankle Sprain: A Systematic Review and Meta-analysis. Sports Health. 2016;8(2):190-193. doi:10.1177/1941738115623775

  • Magee DJ, Manske RC. Orthopedic physical assessment. 7th eds. Elsevier;2021

  • Martin RL, Irrgang JJ, Burdett RG, Conti SF, Van Swearingen JM. Evidence of validity for the Foot and Ankle Ability Measure (FAAM). Foot Ankle Int. 2005;26(11):968-983. doi:10.1177/107110070502601113

  • Martin RL, Davenport TE, Fraser JJ, et al. Ankle Stability and Movement Coordination Impairments: Lateral Ankle Ligament Sprains Revision 2021. J Orthop Sports Phys Ther. 2021;51(4):CPG1-CPG80. doi:10.2519/jospt.2021.0302

  • Mason J, Kniewasser C, Hollander K, Zech A. Intrinsic Risk Factors for Ankle Sprain Differ Between Male and Female Athletes: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Med Open. 2022;8(1):139. Published 2022 Nov 18. doi:10.1186/s40798-022-00530-y

  • Schwieterman B, Haas D, Columber K, Knupp D, Cook C. Diagnostic accuracy of physical examination tests of the ankle/foot complex: a systematic review. Int J Sports Phys Ther. 2013;8(4):416-426.

  • Smith MD, Vicenzino B, Bahr R, et al. Return to sport decisions after an acute lateral ankle sprain injury: introducing the PAASS framework-an international multidisciplinary consensus. Br J Sports Med. 2021;55(22):1270-1276. doi:10.1136/bjsports-2021-104087

  • Starkey C, Brown SD. Examination of orthopedic & athletic injuries. 4th ed. F.A. Davis;2015

  • Tassignon B, Verschueren J, Delahunt E, et al. Criteria-Based Return to Sport Decision-Making Following Lateral Ankle Sprain Injury: a Systematic Review and Narrative Synthesis. Sports Med. 2019;49(4):601-619. doi:10.1007/s40279-019-01071-3

  • van den Bekerom MP, van der Windt DA, Ter Riet G, van der Heijden GJ, Bouter LM. Therapeutic ultrasound for acute ankle sprains. Cochrane Database Syst Rev. 2011;2011(6):CD001250. Published 2011 Jun 15. doi:10.1002/14651858.CD001250.pub2

  • Vuurberg G, Hoorntje A, Wink LM, et al. Diagnosis, treatment and prevention of ankle sprains: update of an evidence-based clinical guideline. Br J Sports Med. 2018;52(15):956. doi:10.1136/bjsports-2017-098106

  • Wagemans J, Bleakley C, Taeymans J, et al. Exercise-based rehabilitation reduces reinjury following acute lateral ankle sprain: A systematic review update with meta-analysis. PLoS One. 2022;17(2):e0262023. Published 2022 Feb 8. doi:10.1371/journal.pone.0262023

  • Wikstrom EA, Mueller C, Cain MS. Lack of Consensus on Return-to-Sport Criteria Following Lateral Ankle Sprain: A Systematic Review of Expert Opinions. J Sport Rehabil. 2020;29(2):231-237. doi:10.1123/jsr.2019-0038



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?