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華麗なる〈展覧会の絵〉&哀愁のラフマニノフ|読売日本交響楽団 松坂隼(首席ホルン奏者)

こんにちは!note更新担当のたぬ子です。

一昨年の『愛媛県県民文化会館リニューアルオープン記念コンサート』で、会場を沸かせた読売日本交響楽団(以下、読響)が、指揮者/小林資典氏、ピアノ/小山実稚恵氏と共に、愛媛に帰ってきます。

第一弾では、読響特別客演コンサートマスターの日下紗矢子氏におこなったインタビュー。
第二弾は、ホルン奏者の松坂隼まつざかしゅん氏です!

読響ホルンセクションのみなさんは、とても仲がよく、コンサートの前には一緒にお昼を食べに行かれるそうで、お客様からも「ホルンのみなさんは、よく一緒にいられますよね」とお声をかけられるとか‼

今回は、松坂氏にホルンの魅力や、ホルンならではの聴きどころについて、お伺いしました。ぜひ、最後までご覧ください。

ホルン同士で集まるのが好き

写真提供:読売日本交響楽団

― ホルンセクションは、どのような方が多いですか。

 ホルンは、オーケストラの管楽器の中で、一番人数の多いセクションなんですよね。
 そして、更に上吹き・下吹きって、セクションの中で分かれていますし、団員の性格もバラバラなので「こういう感じの人が多い」と、はっきり言うのは難しいんですけど。
 パッと浮かぶのは、子どもみたいな人がいますね(笑)

 あと、ホルンにはナチュラルホルンという種類があって、ナチュラルホルンは歴史的な楽器なので、学問としてホルンに興味を持って取り組んでいる方もいます。

 お酒飲めるか飲めないかは別として、宴会が好きな人も多いですね。
 コロナで、お酒を飲む機会が減っちゃったので、最後に集まったのは2年半前になりまけど、よくホルン同士で集まっていました。
 読響に限らないんですけど、ホルンの人たちってホルン同士で集まるのが好きなんですよ。

― ホルンの方が集まると、どんなお話をされるんですか。

 いろんな話をしますよ。音楽の話とか、スポーツの話とか。
 最初は、ホルンの話をしないでいようって感じなんですけど、お酒が入ってくると、だんだんホルンの話が増えてきますね(笑)

― 酔った時に、ホルンの話になるということは、生活の中心がホルンなんですね。

 なんだかんだ、みんな好きでホルンを始めていると思うので、プロにならなかったとしても、どこかにホルンが関わる生活を送ると思うんですよね。
 だから、話の中心にホルンがくるというのは「必然なのかな」って、気はします。

残ったホルンで始まった、分析の音楽家人生

写真提供:読売日本交響楽団

― ホルンを始められたきっかけを教えてください。

 元々、小さい頃からピアノを習っていて、「音楽にずっと触れていたいなぁ」ということもあり、小学3年生の終わりぐらいから小学校のオーケストラに入部しました。
 入部すると担当の楽器を決めるんですが、有名な楽器は片っ端から決まっていくんですよね。
 僕は、優柔不断で引っ込み思案だったので、中々手を挙げられず、やりたい楽器も特に決まっていなくて。
 そうこうしてるうちに「ホルンはどうだ」って、先生に言われて、ホルンを始めました。
 だから、余った楽器を割り当てられたっていうのが、入口です。

 たまたま顧問の先生が、アマチュアでホルンを吹いていらっしゃる方だったので、ホルンの運指など基礎的なことを、直接教えてくれました。
 だから、ホルンに取り組む最初の姿勢は、小学校の部活動で作られましたね。
 そこからホルンのことをもっと知りたくなって、CD屋さんにホルンのCDがあれば「これ買って!」と、親に頼んでいました。
 その頃から、ずーっと聴いてるCDもありますし。
 好きなホルン奏者も、小・中学生ぐらいでハッキリと決まってましたね。

― 小学生の時から「ホルンのCDが欲しい!」と、言われていたんですか!?

 そうです。なんだか、すごく興味が湧いたんですよね。
 でも、ホルンという楽器そのものに興味が湧いていたので「金管五重奏や木管五重奏のCDを買って」とはならず、ホルンのソロや、ホルンの四重奏のCDばかり買ってもらっていました。
 先生が「こういうのあるよ」と、紹介してくれたのも大きかったと思います。

― 余った楽器でホルン担当になってから、CDを買い集めるほど興味をもつには、どういった心境の変化があったんですか。

 顧問の先生が、背の低い方だったんですけど、ホルンを吹いている時は、とても大きく見えて、その姿を「お!すごいっ!」と思いましたし。
 コンクールのために取り組んでいる曲が、ホルンや金管楽器が活躍する曲が多かったのもあって、オーケストラのCDをいろいろと聴くうちに、だんだんと興味を持ち始めました。
 もうすでに当時、同じ曲を別の指揮者や、別のオーケストラで聴き比べていて「同じ曲なのに、全然違う音してるじゃない⁉」と、不思議な印象をもったことも、興味を持った一因ですし、「ホルンを分析したい」と思い始めたきっかけですね。

― 音楽は、感性の世界だと思っていたのですが、お話を伺うと分析や勉強の世界なんですね。

 感性は確かに大事だと思うんですが、音楽を仕事にしていると、それだけで成り立たせるのは難しいですね。
 オーケストラは、団員の個性や意見に折り合いをつけていかないと、成立させられない部分があるので、その落としどころを見つけるためにも、いろいろ研究しています。
 それが、自分のプラスになる部分もあるので、好みか好みじゃないかに関わらず、糧になると思って取り組むのが、オーケストラ団員の音楽との向き合い方だと思っています。

― 勉強や分析で、たくさんの引き出しを作っていらっしゃるんですね。

 引き出しを増やすことが自分のためになると、読響に入団してすぐの頃に実感したことがありまして。
 スタニスラフ・スクロヴァチェフスキさんが、常任指揮者の時だったんですけど。
 彼が指揮者になってから、とにかくホルンが標的にされることが多くて、最初のうちは「どうやって逃げ出そう」って考えていました。
 でも「この先も彼と付き合い続けるのに、逃げ続けているだけでは僕の方が潰れちゃうな」と思って、警察や探偵みたいに生い立ちから彼を調べたんです。
 すると、彼は子どもの頃”天才ピアニスト”と言われていたけれども、戦争で手を負傷したことが原因で、ピアニストになるという選択肢を失い、その代わりに、オーケストラをピアノに見立てて演奏活動をする方向に舵を切ったことが分かりました。
 そこで僕は、彼の頭の中には”常にピアノがある”と考えて、いつも指摘されている理由と、その考えを分析した結果、「僕がやらなきゃいけないことは、こういうことなんだ!」と、1つの答えを出しました。
 その答えを持ってリハーサルに臨んだところ、彼から「お前はできている」と、言われたんです。

 それが「知るということは、物事を円滑にさせるんだな」と、思ったきっかけですね。
 それから指揮者もですけど、プレーヤーさんの演奏スタイルも、意識しながら演奏するようになりました。

「音楽で生活していく」そんな確信をもっていた

写真提供:読売日本交響楽団

― どの段階でプロになろうと決心されたんですか。

 高校を決める時ですね。
 僕、音楽高校に進学したんですけど、音楽高校に入るってことは、もう潰しのきかない業界に進むことが確定するんですよ。
 だから、高校に進学する時に「音楽業界に足を進める」と決めていました。

― 一切の迷いなく、決心されたんですか。

 ホルンにするか、ピアノにするかの二択で悩みました。
 今思えば、僕なんかほんとに井の中の蛙でしたから「ピアノを選んでいなくて、ほんとに良かったな」と思いますけど。
 あの当時は、結構頑張っていたつもりだったので、ピアノでの進学も考えていましたね。
 でも、ほんとに悩んだのはそこで。「この業界に進んで大丈夫か」という悩みはありませんでした。

 家族も「好きにしたらいいよ」って感じで。まあ、本音を聞いたら「堅い仕事に就いてくれ」って思ってたかもしれないですけれど。
 小学生の頃から「音楽で生活できたらいいな」と、言い続けていたみたいなので、親もたぶん諦めてたんでしょうね。

― では、小学生のころからの夢を叶えられたということですね。

 当時「自分には夢がある!」とはっきり言っていたのは、僕ぐらいじゃないかな。
 もっと言うと「音楽に関わっていくんだろうな」という、確信めいたものがあったんですよね。

 母親が、すごくクラシック音楽が好きな人で、FMラジオのクラシック番組を目覚まし代わりにしていたり、クラシックCDをよくかけていたりしていたので、常にクラシックが流れていることが当たり前だったんです。
 だから、何で生計を立ててくかは、分かっていなかったけれども「クラシック音楽の業界に行きそうだな」というのは、ハッキリ思っていました。
 うちは、ごく普通の一般的なサラリーマンの家庭なんですけど、そういう専門的に音楽をやっている人が周りにいない中で、将来の軸を明確に持っていたというのは、珍しいと思います。
 もしかすると、その変な押し付けがない環境が、自分にはよかったのかもしれないですね。

ホルン大活躍のプログラム

写真提供:読売日本交響楽団

ー 今回演奏される、歌劇『ルスランとリュドミラ』序曲/グリンカ、『ピアノ協奏曲第2番』/ラフマニノフ、組曲『展覧会の絵』/ムソルグスキー(ラヴェル編)について、ホルンの聴きどころを教えていただけますか。
 
 『ルスランとリュドミラ』は、あっと言う間に終わっちゃうんです。
 あっと言う間に終わっちゃうんですけど、元気なところから穏やかなところまで、全てがギュッと詰まってる、ほんとに楽しくて元気な曲で、「序曲と言えば!」という定番中の定番ですね。

 ラフマニノフの『ピアノ協奏曲第2番』は、第1楽章の終わり頃にホルンのソロがあるんですよ。
 愛媛公演では、僕が吹くことになるんですけど。
 これね、何十回吹いたかな。読響に入って以来、ほんと何十回と吹いた曲で、とっても美しいソロなんです。
 他の部分で出てくるソロは、必ずピアノと絡んでいて、ピアノが一瞬伴奏に回ったり、対旋律みたいに絡んできたり、あるいはその逆になったりすることが多い中、ホルンのソロに関しては、ピアノが休んでいる間のソロなんですよ!!
 例えば、テレビでこの曲を演奏していると、バッ!とホルンのところにカメラが向くぐらい独立したソロなので、ほんと見せ場ですね。
 いろんな曲をやっていて思うんですけど、ホルンは他の楽器がお膳立てしてくれた、一番印象に残るタイミングで、ソロをやるイメージがあって。
 今回も、「ちょっとピアノ以外の音が聴きたいな」っていう、いいタイミングでくるソロなんです。
 お膳立てバッチリで、オーケストラからホルンへ旋律が変わる時に「どうぞ!」というのが、見えるような渡し方なので、ぜひお楽しみいただきたいですね。 

 『展覧会の絵』は、冒頭のトランペットが非常に有名ですけど、実は途中で同じメロディーをホルンが物静かに吹くんですよ。
 これはもう、トランペットとの対比と言ってもいいと思うんですけど、同じメロディーなのに全然雰囲気が違って、かなり渋い感じの音楽に聴こえると思います。
 でも、そこがホルンの良さなので、トランペットばかりの印象になることが多い曲ですが、途中に出てくるホルンのメロディーにも注目して聴いていただきたいです。

肌で感じる音楽を楽しんでください!

写真提供:読売日本交響楽団

― 公演を楽しみにされている方へ、メッセージをお願いします。

 コロナ禍で約2年半もの間、コンサートの開催や聴きにくることが、ものすごく制限されてしまっていたので、生の音を聴く機会というのが、非常に少なかったと思うんです。
 音楽好きの方だったら、その間もオーディオの機械やスピーカー、ヘッドフォンを使って、楽しまれていたと思うんですけど。
 ホールの中で響く音や空気、そういったものが震えている様子を耳だけではなく、体で感じられるのは、生のコンサートだけだと思うんです。
 そういう「肌で感じる音楽を、楽しんでいただきたい」と思っていますので、ぜひとも足を運んでいただいて、生の音楽を楽しんでもらいたいなと思います。

詳細・問い合わせ先


読売日本交響楽団公演
2022年10月1日㈯ 13:00開場 14:00開演
愛媛県県民文化会館 メインホール

S席:6,500円 A席:5,500円 B席:3,000円

問い合わせ先
公益財団法人 愛媛県文化振興財団
089-927-4777(平日9:00~17:00)


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