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虎造節保存会-受け継がれる話芸の先へ-

こんにちは!note更新担当のたぬ子です。

(公財)愛媛県文化振興財団では、県民の皆さんが、日ごろの成果を発表するためのイベント経費(一部)を助成する『文化活動活性化支援事業』を実施しています。

令和3年度は新型コロナウイルス感染拡大により、中止とする団体がある中、イベントを開催できた団体に取材を行い紹介していきます。

今回は、『第8回虎造節 愛媛公演』を開催された虎造節保存会とらぞうぶしほぞんかいに、お話を伺いました。

虎造節保存会 最年少浪曲師のお披露目

2021.9.25 田中裕子・富ノ介くん

―今回、文化活動活性化支援事業で行った『第8回虎造節 愛媛公演』はどんなイベントですか。

 愛媛県に住んでいる保存会会員たちの、練習の成果を発表する場として毎年開催させていただいております。

―可愛い男の子が発表会にいらっしゃいましたね。

 実はあの子、2~3歳の時にお母さんに抱っこされて「神田の生まれよ」だけ、発表会で言ったことがある子なんです(笑)
 今年7歳なんですけど、曲師(三味線を弾く人)のお母さんに「もう1度出てくれないかな」ってお願いしたら、快く引き受けてくださったんですよ。

虎造もびっくり!?愛媛県で保存会発足のわけとは…

2021.10.8 練習会

―虎造節保存会は、どうして愛媛県で発足されたんですか。

 虎造は愛媛県に縁もゆかりもないので、不思議に思いますよね(笑)

 ほんと、たまたまなんです。
 元NHKアナウンサーの八木健が、約10年前に「虎造節って今どうなっとるんやろう」って調べたら、誰も継承している人がいなくって「あれだけの話芸が、このまま無くなってしまうのか!これじゃいかん!」と、保存会を立ち上げたんです。
 その八木が愛媛に住んでたんで、事務所が愛媛県になったんですよ。それだけです(笑)

―虎造節保存会には、気軽に入会できるんですか。

 気軽に入れますよ!ぜひ、保存会にご一報ください(笑)
 保存会では練習会もしていますので、ゼロからでも始められます。

全国的に珍しい曲師の養成

2020.11.22 曲師指導

―虎造節保存会では、どんな活動をされていますか。

 最近は曲師の養成に力をいれていて、”約30分ある演目をとおして弾く”というのを目標に、来年の発表会でお披露目できるように練習しています。
 やっと、1本とおしでできる人が2人育ってきたんですよ。

 プロの団体は、もちろん曲師部門もあって何人か曲師がいるんですけど、プロの団体以外で曲師がいる団体は、とても珍しいと思います。
 たぶん、うちだけかな。すごく誇らしいです。

―虎造さんの話芸を引き継ぐのが虎造節保存会だと思いますが、新作の演目はされないんですか。

 虎造節の演目も良いんだけど、浪曲を少しでも知っていただくために現代風の演目があった方がいいよねと、八木が廣澤虎造や清水次郎長の人生を題材に新作を書いています。
 あと、まだ完成はしてないんですけど弘法大師や、愛媛にちなんで正岡子規のお話も作っていますね。

浪曲の人気を再び!

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―虎造節の魅力を教えてください。

 心地よさですね。聴いていて疲れないんです。
 それに虎造の口演は、登場人物の演じわけがとても上手で分かりやすく、場面の状況もよく分かるんですよ。これぞ話芸だなと思っています。

―すごい技術ですね。

 当時、浪曲が大人気で虎造は浪曲界トップの1人だったんです。
 だから、虎造の話芸に近づこうと間の取り方や表現を、それぞれが一生懸命研究していたみたいです。

ートップの中のトップじゃないですか!

 ただ現在では、現役時代の虎造をラジオやレコードで聴いたっていうのは80代より上になるので、それより下の世代ではピンとこないんです。
 普段、テレビやラジオで浪曲が流れてないので、浪曲の存在自体を知られてないんです。今後、どうやって知っていただくかが課題ですね。

意外と知ってる浪曲のフレーズ

2021.9.25 城戸さん  アップ

―“馬鹿は死ななきゃ治らない”と演台掛けに書かれていますが、虎造さんの言葉なんですか。

 虎造が口演した演目の台詞ですね。
 浪曲には、歌のような節の部分と、登場人物のやりとりやナレーションの啖呵の部分があるんですけど、“馬鹿は死ななきゃ治らない”は節の部分になります。
 他に、“寿司食いねえ”や“江戸っ子だってねえ、神田の生まれよ”も浪曲に登場するフレーズなんですよ!
 これは、浪曲を知らなくてもどこかで聞いたことのある、とても有名な台詞ですよね。

ーそうなんですね!浪曲の台詞って知らなかったです。

 フレーズだけは知られているんですけど、元になっているのが浪曲であるということは、ほとんどの方がご存じないんです。
 今の人は、”ろうきょく”と聞いて”浪曲”と浮かばないし、どういうものかもイメージしてもらいにくい。
 もう、絶滅危惧芸能になってしまって、担い手もほとんどいないのが現状です。

浪曲師と曲師が作り上げる1つの世界

2021.9.25八木健 桑田愛子 共演

―浪曲師と曲師は、2人1組なんですか。

 実は三味線って伴奏じゃなくて、話芸のプロと三味線のプロのコラボであって、2人で作り上げていくのが本来の姿なんです。
 

 固定の弾き方があるわけではないので、演目の内容と浪曲師の声質に合わせて、どういう風に三味線を入れて、どんなリズム・弾き方をするのかって、2人の好みで決まっていきますし。
 浪曲師のスタイルに合わせて、お客さんが飽きないように三味線でバリエーションをつけたり、試行錯誤を重ねます。

 ほんと、その時の雰囲気によって即興で組み立てていくジャズみたいな世界なんですよ。

―そう聞くと、とても興味が出ます!

 でしょう。
 よく、「三味線弾ける人は近所に何人でもいるから、わざわざ東京の人に来てもらわんでも」って、言われるんですけど、そうじゃないんですよ。

 浪曲の三味線は、演目の内容を分ってないと弾けないし、楽譜があるわけじゃないのでセンスが必要なんです。
 それに昔の音源を聴いて、どういう風に昔の人が弾いてたのかを研究した上で、浪曲師の声質や演じ方に合わせて弾いてるんです。

 だから、三味線ができるからって浪曲の三味線ができるわけではない。
 むしろ、できない。実はすごく大事で、奥が深いんです。

努力を積み上げてできた話芸

2021.9.25 記念写真

―虎造節に向いてる人ってどんな人ですか。

 浪曲って、一声・二節・三啖呵って言われるんだけど、最終的に大事なのはこつこつ努力できるか。
 ある程度、声質で向き不向きもありますけど、どんなに声が良くってもそれだけでは伝わらないですよね。

―伝えるためには、声以外の要素も大きく関わってきますよね。

 「お客様に喜んでもらいたい。楽しんでもらいたい。感動してもらいたい」って、読解力やテクニック、センスを身に付けようと努力できる人じゃないと難しいですね。

 虎造も、舞台でお客さまの反応を見ながら内容を変えていったらしいんですよ。
 そうやって、内容や自分の話し方を変えたりしながら演目を練り上げていって、虎造節ができてるんです。
 だから、そういう試行錯誤を重ねられる人なのかなあと思いますね。


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