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華麗なる〈展覧会の絵〉&哀愁のラフマニノフ|読売日本交響楽団 大槻健(首席コントラバス奏者)

こんにちは!note更新担当のたぬ子です。

一昨年の『愛媛県県民文化会館リニューアルオープン記念コンサート』で、会場を沸かせた読売日本交響楽団(以下、読響)が、指揮者/小林資典氏、ピアノ/小山実稚恵氏と共に、愛媛に帰ってきます。

第一弾は、読響特別客演コンサートマスターの日下紗矢子氏、第二弾は、ホルン奏者の松坂隼氏におこなったインタビューですが、今回で最後の掲載となります。
そんなインタビューを締めくくっていただくのは、首席コントラバス奏者の大槻健おおつきけん氏です!

少しだけ低音楽器の比率が高い

写真提供:読売日本交響楽団

― 前回のインタビューで、ホルンは1番人数が多いセクション(管楽器の中で)だと伺いましたが、コントラバスはどのぐらいの人数で構成されていますか。

 弦楽器は、第1ヴァイオリンが最も多くて、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスと楽器が大きくなるにつれて、どんどん人数が少なくなっていきます。
 なのでコントラバスは弦楽器の中では、1番少ないメンバーで演奏していますね。
 ただ、読響の場合は下の音が分厚いのが好きな方が多いのと、楽団がそういう音のつくり方をしているので、他の楽団に比べると人数が少し多い時もあります。チェロよりは少ないことの方が多いですけどね。
 たまに、チェロと同じ数コントラバスがいるって時もあるんですけど、結構珍しいんじゃないかな。

演奏会は聴く以外も楽しめるショータイム

(C)Ayane Shindo 写真提供:読売日本交響楽団

― 今回演奏される、歌劇『ルスランとリュドミラ』序曲/グリンカ、『ピアノ協奏曲第2番』/ラフマニノフ、組曲『展覧会の絵』/ムソルグスキー(ラヴェル編)の聴きどころを、それぞれ教えていただけますか。

 『ルスランとリュドミラ』は、すごく快速なテンポの曲なので、聴いていて非常にスピード感がある楽しい曲だと思います。
 ただこの曲は、コントラバスも他の弦楽器と同じメロディーを演奏するところがあって、その部分は非常に左手が忙しいんです。
 その忙しい動きだからこそ感じられるような表現も、楽しんでいただきたいです。

 ラフマニノフのピアノ協奏曲は、楽曲の美しさが魅力的ですね。
 ピアノが目立つのはもちろんですが、ピアノソロのメロディーと、オーケストラが合わさった音色がとても美しいので、そこにも注目してお聴きください。

 そして展覧会の絵は、絵画ごとに全くテイストの違う音楽が割り当てられているので、絵画ごとのコンセプトの違いを音楽で感じられると思います。
 僕は、最終楽章の鐘が鳴ってどんどん壮大になっていくところが、とても好きなので、演奏するのすごく楽しみにしています。

― 『ルスランとリュドミラ』で、忙しいからこその表現とおっしゃられましたが、具体的にはどのような表現なのでしょうか。

 楽団員は全員弾けるので、忙しくて難しいところをサラッと弾いて、簡単に聴こえさせることもできるんですよね。
 でも、サラッと弾くだけじゃなく「こんなに難しいことをやってるんだぞ!」っていうのを、音や顔、動きに出すことで、わざと難しさや忙しさをお客さまに感じさせるという表現もあると思うんですよ。
 そういう、聴くだけではない演奏会の楽しみ方もあるので、実際に現地にいらして、1つのショーとして楽しんでいただきたいです。

エキストラで知った”読響の明るさ”

写真提供:読売日本交響楽団

― 数多くの楽団がある中で、読響に入団された理由を教えてください。

 僕らの業界にはエキストラという制度があって、楽団員が休みをとった時に、その期間だけ外部の人に演奏をお願いすることがあるんです。
 それを学生の頃に読響で何回かやらせていただいて、最初は一番後ろで弾いてたんですけれど、何回目かの公演で出演予定の楽団員が急に体調不良になってしまって。
 しかも、その方はメインの交響曲も、前半の編成の小さな協奏曲も演奏する予定だったので、誰かが代わりに前半の協奏曲も演奏しないといけなくなったんですよね。
 その時に「せっかくだから、若いやつにやらせよう!」って、僕が代わりに前の方で演奏することになって(笑)

 若手には厳しく接するオーケストラの文化がある中で、読響の皆さんは優しく接してくださいましたし、非常に明るい楽団だったので「ここで働きたいな」と思った時に、ちょうどオーディションがあって。
 楽団員の方からも「予定空いてたら受けてよ!」って、言ってくださったので「分かりました!」って受けに行ったら、たまたま受かったという感じです。

全員が意思をもつことの大切さ

(C)M.Konakamura 写真提供:読売日本交響楽団

― 読響の魅力について、教えてください。

 全ての方が、自由に自分の音楽をポジティブに出力している団体かなと思います。
 オーケストラは、自分の個性を押さえて首席が決めたことに合わせることが多いんですけど。
 僕は、オーケストラみたいな大人数で演奏する時こそ「自分にやりたいことがあるかどうか。それが演奏者全てにあるかどうか」というのが、とても大事で、それによって出てくる音が全然違うと思っているんですよね。
 読響は、楽団員一人一人の音楽に対する気持ちがものすごく強いので、出てくる音にすごく意思があって、そこに人間的な温かさや熱さを感じます。

― では、コントラバスのどこに魅力を感じますか。

 先ほどの話にも関わってきますが、僕たち低い音を担当する奏者が「どんな音楽、空気、タイミングをつくりたいのか」という意思と責任をもって、音を出しているかどうかが大事なんですよね。
 そして曲の雰囲気や空気感は、僕たちにかかってるという認識があります。同僚には「そんなことない」って言われそうなんですけど(笑)
 僕は、みんなを引っ張って曲の舵取りをすることに、非常にやりがいや魅力を感じますし、うまくいった時はとても嬉しいですね。
 「思ったとおりになった!」とか「思っていたよりも、いいものができた」という感覚があると、すごく報われたなと感じます。
 その「今、低音すごくいい仕事したな!」というのが、お客さんに伝われば1番嬉しいです。

異なる性質のオーケストラを経験して得れるもの

(C)Ayane Shindo 写真提供:読売日本交響楽団

― 反田恭平氏率いる”ジャパン・ナショナル・オーケストラ(以下、JNO)”に参加されていますが、そちらでの演奏と読響での演奏に変化はありますか。

 非常に難しい質問なんですけど、演奏のスタイルや考えてることは全く違います。
 JNOと読響の大きな違いは、オーケストラのサイズと年齢層の幅なんですけど。
 JNOは、楽団員のほとんどが同世代なので、音楽的な部分で相違があった場合に、すぐに意見交換をして試しては変更してという音楽づくりをしていますが。
 読響みたいに大きなオーケストラになればなるほど、組織的な結束力が必要で、リハーサル中は皆が自由に喋っては時間がなくなってしまいます。
 オーケストラには、それぞれの歴史や風習もありますからね。
 演奏会自体は、2つのオーケストラを比べても同じように感じると思いますが、そこまでの道のりが全然違いますね。

コンサートで音楽を体験する

写真提供:読売日本交響楽団

― 公演を楽しみにされている方へメッセージをお願いします。

 クラシックの演奏会を聴きに行くって、すごく特別なイベントで、家族全員正装してお出かけするイメージが強いかもしれないんですけど、日常の一部としてラフな格好でお楽しみいただきたいです。
 曲の予習もせず新鮮な気持ちで僕らの演奏を聴くのもいいし、とても静かでよく眠れると思いますし。
 お仕事や日々の活動の癒しを、もしくは活力を、読響のコンサートで補っていただきたいなと思っておりますので、ぜひぜひ僕たちの公演にお越しください。

 今は、YouTubeとかで簡単にコンサートの動画を観れると思うんですけど、動画は受け身というか、演奏者の一方通行なんですよね。
 でも、実際のコンサートだと演奏している側は、お客さんがどのぐらい入り込んでくれているのか空気で分かるので、心が離れているなと感じたら、次の部分を盛り上げて、もう1度心を掴み直そうとします。
 だから動画とは違って、お客さんと演奏者が相互にコミュニケーションを取ることができるし、お互いの心が会場にあるんですよ。
 その生演奏でしか味わえない感動や空気感を、ぜひ体験していただきたいです。

詳細・問い合わせ先


読売日本交響楽団公演
2022年10月1日㈯ 13:00開場 14:00開演
愛媛県県民文化会館 メインホール

S席:6,500円 A席:5,500円 B席:3,000円

問い合わせ先
公益財団法人 愛媛県文化振興財団
089-927-4777(平日9:00~17:00)


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