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隠淪医
2022年6月12日 20:19
≪失っていく過程≫施設に何年もいることになった母は自宅に帰りたがった。父は「帰ってどうするだ」といさめていたが、父だって帰りたかった。母は「おじゃんぼん(葬式の方言)で帰れる」と言って諦めていった。その後、父に言われたのか帰りたいと言わなくなったのが却って哀れであった。遠方で働いていた私は医師を辞めて帰ることも考えたが、地元にいた兄が亡くなったばかりであり、兄の妻もがんで入退院を繰り返してい
2022年6月18日 21:45
80歳を越えると、父も母もひとつずつ諦めていった。母は歩けなくなった。暗くなるまで桑の葉をもいでいたのに。編み物ができなくなった。私のセーターを編んでくれ、それをまたほどいて父のベストに編み直したのに。ミシンがかけられなくなった。肥満気味の自分の服も父の甚平も季節ごとに作っていたのに。記憶がこぼれ落ちていった。料理もできなくなった。私の帰省のたびに、たくさんのじゃがいもをふかして、山盛りのコロ