【イベントレポート】自由進度学習×eboard×スクールタクト ~ICTに惑わされず教育の本質を追求する~

こんにちは、eboardの吉永 @errie です。eboardでは代表の補佐を中心としたバックオフィス業務を担当。非常勤講師として高校で「情報」「探求」の授業も、担当しています。

9/27開催のDMM教育総合サミット主催ウェビナーは、高校でICTを活用している教師としても、とてもエキサイティングなお話でした。トークのエッセンスを、自分なりにまとめてお伝えします。

登壇者の方は、こちらの面々。

・HILLOCK初等部 スクール・ディレクター蓑手章吾さん
・株式会社コードタクト 後藤正樹さん
・NPO法人eboard 代表 中村孝一

自由進度学習とは?

まずは、蓑手先生の実践「自由進度学習」のお話から。

蓑手:自由進度学習を実践するようになったのは、特別支援学級での経験がきっかけ。特別支援学級から、通常学級の担当にもどる際に、通常の学級でも特別支援のように、一人一人に寄り添う「インクルーシブな学び」を実現していきたいと思うようになりました。

インクルーシブ教育とは、障害のある子を隔てるのではなく、障害のある人も障害のない人も共に、教育を受けるべきだとする教育の考え方。障害についてだけでなく、性別や国籍なども、インクルーシブに考えることもできる。

私(蓑手先生)が実践している自由進度学習では、今日取り組む【何を/どれだけ/誰と/何で/どのように】やるかを、子ども達が自分で決めて学習しています。具体的には、45分の授業が ↓↓↓ のような流れに。どの単元をやるか、タブレットを使うかプリントを使うか、教科書とノートを使うかなど、学び方も自分で決めて、自分で進めます。

① 一斉授業(講義形式でインプット):10分
② 個別に立てた「めあて(目標)」に沿って学習:25分
③ 丸つけとふりかえり:10分

あらかじめ、単元テストの日程は知らせているので、それに向かって勉強する子もいれば、次の単元に向けてやる子もいます。自分が苦手だと思ったら、前の学年に戻っていてもいい。自分の目の前にある階段を、それぞれが自分のペースで1つ1つ登るように進めていきます。

自由進度学習の要 「めあて」と「ふりかえり」

蓑手:自由進度学習や学習の個別化では、この階段の1段の設定が、とても大切。いわゆる 授業の「めあて(目標)」にあたるものです。いきなり2段飛ばで進むのは難しい。やっぱり、自分のすぐ上のちょうどいい高さを登るのが、一番力が発揮できる。

これまでの一斉授業だと、10段飛ばしを求められている子もいれば、逆に自分のできることより10段下のことを、させられている子もいました。自分で段の高さや幅を決めて、挑戦できる子になって欲しいと考えています。

そのためにも、自分の「めあて」は自分自身で評価しやすいように、数字を使って書くように働きかけています。「がんばってやる」ではなく、プリント「2枚」やる。そして、ギリギリ達成できないくらいの目標をおいて、本気を出させるようにします。

「めあて」に対する「ふりかえり」も、大切なポイント。ふりかえりは、めあてに合わせて分析をして、次の授業へつながるように書いてもらいます。もちろん、最初から全員ができる訳ではなくて、毎時間に書く事で、できるようになっていく。自分の力を、進度を見極められるようになっていきます。

もちろん、紙でやってもいいのだけれど、スクールタクトを使うとクラス全員の目標が一覧で見せ合いっこできるので、自分で立てためあてが、「オレはコレをやる」という宣言のようになる。できるはずなのに、低いめあてだとカッコ悪いなとか。クラスメイト同士で「いいね」やコメント、質問もできます。

蓑手:自分はいつも、この画面を見ながら教室を回っていました。生徒に「めあてのプリントを見せて」と言わなくても、手元で確認する事ができるし、教師が後でふりかえりにコメントをつけたり、かんたんになります。

一方で、個別学習教材のeboardのいいところは、こういった「個別に学ぶ」上での「わからない」やつまずきを、子どもたち自身が動画を見て解決できること。自分が学びたい、もっと知りたい事を動画の授業で補っていくことができます。

ICTで実現するインクルーシブな学び

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ここからは、蓑手先生の事例を受けて、後藤さん、中村を交えたクロストークに。

後藤:蓑手先生のゴールが、インクルーシブな教育の実現にあるのが、とても面白かった。インクルーシブがゴールであれば、ICTはやはり欠かせないツール。アナログでは、なかなか40人の子どもを見きれない。

中村:これまでの学校は、「みんながこれでやる」という一斉授業の基準があって、そこからこぼれてしまう子に 個別支援をしている形。蓑手先生の インクルーシブは「もともとバラバラな個人」がいて、その「総和としての学級がある」と感じた。発想のベースが違うなと。

蓑手:これまではどうやってひとりで40人をまとめていくか、という事に教師のパワーを注いできた。そこにさらにICTもやるの?と思うと無理に感じてしまう。でも、そもそもの見方が反対で、全体を進めていくという枠を取り払って、「40人に特別な支援をすればいい」という意識でやるといいのでは、と思う。おそらく、教師のスキルセットは変わる。一斉授業とは違うスキルだけど、できるんじゃないかと思う。

後藤:実践方法を聞いて、「本気のめあて」を設定するのが面白いと思った。新しいやり方を試す時は、個々人が本気である必要がある。そうじゃないと、そのやり方が正しいか間違っているかを判定できない。みんなを本気にさせるのが大事だと思っている。

蓑手:せっかく学校きて算数やるんだったら、成長した方が楽しいし、どうせやるんだったら無駄な努力はしなくていい。どうやったら一番伸びるのかを数値で証明していかなくちゃいけない。自分が本気を出して、「できなかったことができるようになる」を実感させていくプロセスを採っていた。

中村:目標設定やふりかえりは、仕事のあり方と全く同じだな、と思った。「よい学び」と「よい仕事」は同じ。通常、仕事はアウトプットの割合が多いけれど、それだけではいつか枯渇する。いい割合でインプットがあると、仕事のアウトプットもいいものになる。学びもインプットが中心になりがちだが、いい学びにはアウトプットも欠かせないと思う。

3人が考える 「教育DX」とは?

後藤:例えば、生徒に提供するIDを生涯にわたって使えるようにしようとか、教科書とか単元の振り方を標準化して、検索しやすくしようということを、デジタル庁では進めている。僕のなかでのDXは、第1段階としてまず効率化・合理化をして、第2段階としてそこに温かみをプラスするイメージ。電話→効率的なメール→非同期でも声が伝わるボイスメール→対面に近いzoom、みたいな。効率化の先に温かみがある。それがDX!!!

中村:DXは、デジタルトランスフォーメーション。formをtransする。形が変わる事だと思っている。今日の話を通じて、スタート地点の違いを感じた。今ある業務を効率化するのは単なる「デジタル化」で、自由進度学習は「DX」している。デジタルがあるのを前提として、目的は変えずに「いい授業とは?いい校務とは?」と考えた時にいいものが実現できたら、それがDX。 GIGAスクール構想で、一人一台端末が配備されるだけでは、まだまだトランスフォーメーションには至っていない。子どもたちがハッピーになる事がゴールであるのであれば、学校や教育もトランスフォームした方がよいことが、たくさんあるはず。

蓑手:実は、教室内で音楽を聴きながら課題をやっている子もいる。それも、自分では抵抗あったんだけど、それでその子が本気出せるんだったらいいと思う。ダメだったら自分で戻ってくる。それが自己調整。やる気出ないから音楽聴きながらやろうかな、と。そういうことを自分で選択できるようになると、みんなバラバラでオッケーになる。インクルーシブだから、特別だから、というのであれば、みんな特別になっちゃえばいい。

中村:まずは校務をデジタルでやったら、いいとも思った。資料がなんでデジタル化してないの!というのは、民間では普通になってきてるけど、たとえば「去年の運動会のおたより」がデジタル共有されてない・引き継がれていない、という実態から変えていくのは、ありなんじゃないかと思う。

蓑手:校務でデジタルの良さを味わっていないと、なかなか授業での導入に前向きになりづらい。子どもも大人もおなじなので、二段先の事を学んでも、自分では使えない。授業で導入するのがこわいのであれば、失敗できる環境をつくってあげる。大人どうしで試してみる。研修で、職員会議で使ってみましょう。得意な誰かに任せるのではなくて、やる時には手伝いますよ、という教育ができれば、それが授業の中でも出来るようになっていく。

教員のマインドセットを、どうDXするか

後藤:教える人ー教わる人、という構造になっている学校という組織は、実は社会の中で特殊。仕事も、たとえば子育ても、なんでも見様見真似で覚えていくもの。「学校とはそういうもの」と僕らは、呪縛のようにインストールされている。ICTがあるからこそ、変えていくチャンスだと思っている。

蓑手:呪縛の最たるものが失敗。教育の中では、失敗が大事だというけど、先生も生徒も失敗できない環境にある。失敗をデザインしていく。どういうふうに段階的に預けていくか。失敗するのが大事なのではなく、やり直せる事が大事。失敗させまくる事が大事というわけではない。失敗をどうコーディネートするか。パソコンそのものが魔法の道具ではなくて、教師側が「こうあってほしい」というマインドが乗った上で、何回でもやり直せる環境があるという事を伝えていきたい。生徒にも、教師にも。

後藤:学校は、安全に失敗できる環境であるべき。ITがあればよりそうなると思う。

最後に

蓑手:憲法に規定されている「健康で文化的な最低限度の生活」。よくよく考えるとすごい。「だからおまえこれでがまんしろ」と読めちゃう。ここを拡張できるのがデジタルの力だと思う。最低限度のレベルをあげられる。そのポテンシャルがある。「あきらめない/あきらめさせない」デジタルで救えるようになったものがたくさんあると思う。そこに向き合っていきたいし、「使わなくていいよね」ではないと思う。

中村:「学びをあきらめない社会を実現する」が、eboardのミッション。学びづらさを抱えている子に、デジタルの部分で使ってもらっている。eboardは公教育では全部無料で使ってもらえるので、そういう子どもたちに、ぜひ先生から届けていただけるといいかな、と思います。

後藤:株式会社なのでスクールタクトは無料ではないんですが(笑)、 一緒に使ってもらえればと思います。今回三人で話してみて、あらためて発見があった。参加者の方もそうであると、嬉しいです。

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蓑手さん、後藤さんの活動についてはこれまでも伺う機会があったのですが、後半のほぼフリートークのようなやりとりに、ハッと気付かされる事がたくさん。個人的に、蓑手さんの「失敗をコーディネイトする」という言葉が、特に心に残っています。

何度でも劣化なくやり直せるのがデジタルのいいところ、というのは普段から十分わかっている事ではあるのですが、本当に教師としての自分は「失敗しない/させない」の呪縛に囚われているなあと感じました。まだまだ変わらなくてはいけないし、そのためにICTが、eboardができる事はたくさんありそうです。がんばります!

DMM教育総合サミットでは、10/1までの会期中、教育とICTに関するウェビナーが多数開催されます。こちらもぜひご覧ください!


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