見出し画像

穴があったら入りたい・3

小4のときに好きだったYくん。

吉本新喜劇の姉さんに「恋せよ乙女」と言われ、

芸のこやしにと、そのYくんに会うことにした私。

彼が住む横浜まで会いにいくことに決めたのだ。

いま考えれば、本当に頓珍漢な発想だ。

Yくんでなくても、そのあと恋心を抱いた人なら何人かいたはずなのに、

その人たちをすっ飛ばして、いきなり10年前の小4の一年間のあいだのみ

好きだった人に、無性に会いたいと思うなんて。

しかし小学生の国語の授業のときに習った、

『赤い実はじけた』のように、

私は、なんの汚れもない純粋なまでの無垢さを

取り戻したいと思ったのだと思う。思う。

とにもかくにも、

当時の主流だった二つ折りのガラケー携帯を片手に、

『横浜まで行くから会いたい』

という内容をYくんに送った私。

返事は? オーケイ!

ついに、Yくんに会えることに相成った。

だが、容易に想像できる。

このときYくんは、

「なぜ僕に、なぜ今、なぜ会いに来るのか?」

とアメリカ人が両手を左右に広げたまま

「WHY?」と肩をすくめるのと同じ状態だったに違いない。

しかし! だが、しかし!

私はというと、恋い焦がれていたYくんに会うために、

いままさに自分は行動に出ているんだという高揚感に包まれていた。

大阪は難波にある風呂なしアパートに住んで、

あらゆる場面でお金をケチっていた当時の私だが、

このときばかりは違った。

普段なら絶対に購入しない雑誌を買い、

それを参考に、白いワンピースを購入したのだ

訂正しよう。参考にではない。

雑誌のなかのモデルさんが身に着けていた格好を

そのまんま真似した。

白いワンピースには黒いリボンが何重にも施され、

ウエスト部分にもこれまた立派なリボンがついていた。

視線がリボンに集中することで、脚長効果をねらったデザインということだ!

なんと素晴らしい! 脚長効果!

貧乏生活ながらも、洋服には一丁前にこだわりをもっていた私は、

古着屋でコーディネートを楽しむという趣味をもっていた。

白いワンピースとは畑違いのジャンルを好んでいた私にとって、

未知との遭遇のようないで立ちの姿の自分が鏡に映る。

いつもと違う私=いかした私。

そんな悲しい方程式が成り立つ。

そして、私にとどめを刺したのは、

その白いワンピースを着て満面の笑顔を浮かべる、モデル蛯原友里と、

「モテコーデ」という文言。蛯原友里とモテコーデ……。

モテコーデ……。

モテ……コーデ……モテるコーデ!!

そのときの私に、その言葉の響きはあまりにも甘かった。

「ああ、もう、これを着るしかない!」

そう思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?