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蕎麦の日にそばのマンガの話をしよう!そばの技術と文化を紡ぐ「そばもん」

本日、10月8日はそばの日だそうだ。他にも月末は全部そばの日という話もあるみたいだが。それはともかく、年越しそばを始め、全国だいたいの所にはそばの有名店があって、カップめんでもそばの人気は高い。

そんなそばを描いたマンガ、Wikipediaに載っているのは「エイチマン」「そばもん」、「そば屋幻庵」の3つ。案外少ない……そして、この3つだとエイチマンが非常に浮く気がするが、気にしない。

※ エイチマンは単行本化されていないから、「巨乳ハンター」の単行本、右乳編のエイチマンIVで確認しよう。手打ちそばの強化繊維のスーツと叡知?で戦う少女(いや大女)エイチマン2号の活躍が読める。作者はあの安永航一郎先生……そりゃもちろん変態の……。

「そば屋幻庵」梶研吾先生とかどたひろし先生の作品。9月24日に逝去された、さいとう・たかを先生のリイド社「コミック乱ツインズ」で不定期連載中、既刊16巻発売中。


その中で、現代のそば事情とそばの歴史を真面目に伝えるマンガが「そばもん」である。簡単なあらすじを。


「老舗、草庵の五代目の孫、矢代稜は祖父から江戸そばの全ての技術を受け継ぎ、現在は愛車のワーゲンバス(先代の愛車の日産ラルゴ?は登場早々壊れる)で日本各地を回り、その腕を振るう「そば会」を開いて暮らしている。稜は日本各地のそばにも精通しており、各地のそば屋やそばを愛する人の悩みを、そばとそばの技術で解決していく。」

※ 稜は自分から動くよりも巻き込まれる形が多い。角刈りでそば打ちで鍛えられていてガタイもいかつい稜だが、そば以外では明るく、おっちょこちょいである。お人好しというよりはメンドクサイことには距離を置きたいタイプなのだが、結局は誰かを手伝う形になってしまう。


レギュラーメンバーとしてはまず、稜の血のつながりのない姪の矢代エリカ。稜のそばが好きで押しかけつつ、稜に好意がなくもない。稜と接しているうちにそばの全てが好きになり、そば屋で働くようになる。大食い。

そんなエリカに惚れているのが佐々木貴明、通称さのじ。実家もそば屋だが、現在は名店「更科布屋」で修行中。そばの腕は残念なレベルで、いつもエリカに笑われる。しかし、ボンクラだったさのじも、稜たちの指導の元でそばへの心構えが変わっていく。

谷中藪の親父。昔から稜とつきあいがある、そば屋「谷中藪」の店主であり、稜が必要な時は調理場を貸し、自分が困ったら要領よく稜に助けを求める。そばの腕は間違いなく、後にエリカを雇い、そば屋の仕事を教えていく。

そんなレギュラーとのやりとりをしつつ「そば会」の旅に出て、日本中でさまざまなそばを作り、大好物のカツ丼を食べて暮らす稜。そばを広める旅のついでに誰かを助けつつ、そばの技術と味を守り、作り、広め、そばの技術と文化を繋ぐコトに身を費やす。


そばという食べ物だけの話。5巻のカツ丼伝説あたりでネタが切れちゃうかもと思ったが、そんな心配はまったく必要なかった。そばの世界はとても広大だったのだ。全20巻、それもぎっしりと人情とそばが詰まった非常に高い密度でだ。

作者は山本おさむ先生。「今日もいい天気 原発事故篇」とか、「赤狩り THE RED RAT IN HOLLYWOOD」を描いていたりのゴリゴリの社会派で、少し構えて読みそうになるが、そばもんで政治色が出るコトはほぼない。市民の生活を実直に描き、見せていくだけだ。硬軟の差をしっかりコントロール出来るベテランである。

本当にそばの世界は広大だ。葱の切り方、ずる玉ときらず玉、乾麺の美味しい食べ方、市販のつゆ、藪そばとは、そば屋からのカツ丼、そばを啜る是非とスメル・フレーバーの関係、返しと出汁、白いそばと黒いそば、手打ちと機械打ち、すもう、季節の変わりそば、トマト、カップ麺、オリンピックと出前機、ミレーの「種まく人」が蒔いていたのは……。

人情モノの長期連載はネタのかぶりも多くなるが、そばもんはそれも無い。本当にひと騒動・ひとりひとりのバックグラウンドが細かく設定してある。さすが社会派のマンガ家、日々を暮らす人々の引き出しはいっぱいあるのだ。もちろん稜がそばを教えるというのは一貫しているが。

機械打ちも否定はしないし、市販の乾麺やカップ麺にも敬意を払う。目の前のそばをいかに美味しく食べるかが重要なのだ。稜の怒りの先はだいたいエリカとさのじに向かい、それ以外はそばを含めて色々と扱いが雑な人間と、そばと客に嘘をつく職人だけだ。


道民なので北海道のそばを描いた19巻は格別である。ニュージーランドからやって来て専門学校でマンガを学び、ニュージーランドの手塚治虫になると言うマンガバカのアンディと北海道クルーズの船で知り合った稜。アンディとの北海道旅は、アンディの好きな釧路出身のマンガ家である珠川アンを追う旅に。

釧路で弐八庵のつぶそば、竹老園 東家総本店の緑のそば、玉川庵のカキそばを食べ、日本一のそば生産地である幌加内町(そして道内でコンビニのない市町村2つのうちの1つ。あのセイコーマートもまだないのだ……)の新そば祭りに呼ばれていた稜は会場でそばを振る舞う。

新連載がボツになりそうでケンカして珠川アンに逃げられた編集者が、そば打ち必修科目な幌加内高校のそばを食べているうちに珠川アン先生は小樽へ向かう。群来そばを食べるため。そこでアンディはついに……。

マンガ家の悲哀も滲みつつの話である。「こち亀」の両さんから始まり、ラストはゴールデ……いやいや(笑)

※ このような地方の話で出て来るそば屋は、だいたいが現実にある名店である。


そばの日。20冊揃えるのは大変なので、まずは電子書籍サイトのあらすじなどを読んで、自分の気になるそばの話をとりあえず一冊読んでみるのはどうだろうか。そして、その後にそば屋でそばを味わうのはどうだろう。

2巻に乾麺を美味しく味わう方法も載っているので、自分で乾麺を煮てみるのもいいだろう(稜口調)。今、炊飯器でプチ騒ぎの対流も、そばなら目で見ながら調理できる。

でも、自分は昨日乾麺を煮てそばを食べちゃったのだが……そばの日、まだ二束あるか、乾麺のそば(笑)





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