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それでもマンガ家は田畑に向かう!厳しさ滲み出る農村移住マンガたち。

・はじめに


以前記事にした十勝ひとりぼっち農園(横山裕二先生・小学館・週刊少年サンデー)が10巻に到達。近々の5月14日にはなんとHBC(北海道放送)「あぐり王国北海道NEXT」に横山裕二先生、いや横山裕二農園長が出演した。

横山裕二農園長の狭い十勝ひとりぼっち農園の一部(全部?)を十勝あぐり王国農園としてカレー用野菜を作る、それの育成の状況が逐次放送されるという話である。さらに「あぐり王国北海道NEXT」のHPでの不定期連載も得たのだ。

北海道以外の人にはこの凄さがわかりにくいと思うが、「あぐり王国北海道NEXT」とは前身の「森崎博之のあぐり王国北海道」から14年も続く、JAグループ北海道提供の農業王国北海道にして屈指の農業振興TV番組である。

前身のタイトルからもわかるとおり、番組の顔はあの大泉洋や安田顕の所属するTEAM NACSの森崎博之リーダー。そのリーダーのメイン番組である「あぐり王国北海道NEXT」の準レギュラーになった横山裕二農園長。これはもうTEAM NACSの準構成員、いや大泉洋や安田顕と並ぶといっても過言……あ、過言です、スミマセン(笑)

しかし作中でギャグで「十勝の名士」とのたまっていた横山裕二農園長も、これでJAグループ北海道お墨付き。畑は狭くも週刊少年サンデーの連載、YOUTUBEチャンネルでの十勝農業紹介動画、「あぐり王国北海道NEXT」と名士と呼ばれるにふさわしい活躍である……のかも。


さて、そんな十勝ひとりぼっち農園の展開であるが、似たように山村へ移住して農業をするマンガ家さんは他にもいる。そんなマンガを紹介してみたい。


・「ぼっち村」「ぼっちぼち村」


「ぼっち村」(全3巻)は週刊SPA!で連載していたマンガ家、市橋俊介先生による農村移住マンガ。打ち切りの影に怯えた市橋先生が編集者との打ち合わせで農村移住マンガの新連載を決めて移住。だが移住の田舎は理想の田舎とは限らない。大家との確執、高原の寒さ、人付き合い。理想の田舎と農業を目指して3度転居する市橋俊介先生。

ぼっち村はとにかく田舎移住の表裏を描いている。これでもまだ描けなかったコトは山ほどあるのだろうが、それにしても虫、野生動物、泥棒等々沢山の危機が襲ってくる……が、何より人付き合い。田舎移住にはどうしても自分より年上の濃い世代との付き合いが発生する。もちろんその中にはいい人もろくでもない人もいる。

特に市橋先生の場合は微妙な立ち位置のまま(農業主体の生活も見込んでいるが、公的な農家ではない)で成果物の販売を行ったりもしているので、いろいろなやっかみ等もあったと考えられる。

そして転居は今までの負の関係を清算出来る代わりに、信用も失っていくし、次がいいとは限らない。厳しい。

「ぼっちぼち村」は週刊SPA!で「ぼっち村」の後に連載された作品。次の転居は人付き合いには少し楽かもしれない移住者の多い土地。賃貸から新居と土地を買って、ぼっちから嫁と共になマンガ家と農業兼業生活に進みだす市橋先生。

だが、そんな市橋先生の前に幸福と不幸が襲ってくる。幸福も不幸も襲ってくるのだ。子供の誕生と難病による1年間のドクターストップ。そのため田舎子育てマンガへと変わる「ぼっちぼち村」は……。

SPA!での連載は2021年9月14日号で終了、特別編として2022年1月増刊の¥enSPAで次の新居の競売物件購入と引っ越しを描いている。2巻の発売が待たれるが……。

田舎移住と農業と現実という面ではこれほど生々しく現実の怖さが見えるマンガは無い。ちゃんと面白く、でも厳しさも伝わる貴重なマンガである。


・「なんでオレがこんなこと」


「なんでオレがこんなこと」(既刊6巻、各巻3話構成)は高波伸先生がいつのまにやら徳島の限界集落で暮らす話。ウサギや鹿を解体して食べたりする話や猫や犬との出会いと暮らしなどが描かれている。

特に4巻の10話から始まる水田の水問題。上流側の隣の田んぼとのゴリゴリの農業用水の奪い合いは酷い。上流側が勝手に堰き止める幼稚な行為からのこの話は移住マンガでもトップクラスに酷い話だ。

田舎にもメンドウな人がいるのは当然だが、田舎内だけの付き合いでメンドウなまま増長する人もたまにいる。都会にだって似たような人はいるハズだけど、近所付き合いが希薄だから問題になる確率が低い。騒音問題などはあるだろうけど、直接収入に響く問題はそうそう起きないだろうし。

水については四国の農家のみなさんにとっては特に問題が大きい気がするが、そういう地理的問題も含んでいるからのトラブルなのだろうかと思ってみたりもしないでないが。


・「山奥の農村で男女6人マンガ描いてます」


「山奥の農村で男女6人マンガ描いてます」は矢尾いっちょ先生により描かれた農村移住マンガ。山口県周南市大道理地区に移住した男子3人、女子3人の物語。

謎のコンセプトの話だが、山口県の専門学校で講師をしていた、ゴルフマンガを中心に活躍していた樹本ふみきよ先生が、田舎にトキワ荘的なまんが村(アレなマンガ村ではない)を作れば安く若者がマンガ(と農業)に取り組めるのではと進めた計画のようである。その名も「アトリエ樹本 大道理まんが村」。

男女用に古民家2軒を借りて作るまんが村。地元官公庁のマンガ制作と共に自分のマンガを描いているそれは、とても贅沢な話なのかもしれない。

マンガ内での農業の描写は少ないが、単行本書おろしの中での時間割では週3日程度は労働の半分をマンガ、半分を農作業にしているので結構な農作業量の割合にも思える。

現在は「漫画工房 樹本村塾」と改名して活動している模様(HP内連載も多数)。新しいマンガ家育成の形態であり、継続出来ているなら他にも広がる活動かもしれない。虫や土や寒さに強い人マンガ家志望者にはオススメなのかな。

・おわりに


田舎暮らしは大変。そんなトコにマンガ家を送り込む編集もヒドイと思ったりするが、今後は強くなるジャンルかもしれない。十勝ひとりぼっち農園は「週刊少年サンデー」のネームバリューや支える有名マンガ家の存在、編集長・担当編集たちのサポートが強い。もちろん謎の愛されキャラという横山先生の特性と良い関係の農業のプロたちも。北海道・十勝という土地柄も良かったのかも知れないが(道民の大半は数世代前には余所者からのスタートだ)。

出版社と編集部がドコまでサポートすれば良いのか、初期費用も普通の取材費としては高いだろうし……という部分もあるが、マンガ家に人生を賭ける気概とコミュ能力の高さがあればいい方向に進むコトもあるかもしれない。

田舎でマンガ家を育てるのはこのインターネット時代、電子作画・入稿の可能な状況ならばアリかもしれない。これは農業にかかわらずそういうケースが増えても良いのではないだろうか。もちろん田舎暮らしマンガ家にとっても良い時代なのだ。自治体が運営する正しいまんが村だって出来るかもしれない。

それこそ北海道の音更とかに作れば、たまにあの先生やあの先生やあの編集者やあの編集長が……。

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