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ドラえもん「どら焼きが消えた日」と「宇宙戦争」侵略SFの原点が、すこしふしぎになったドラえもんの誕生日!

2021年9月4日の夕方、ボケーっとテレビをBGMにして、タブレットでマンガを読んでいた時に「ドラヤキ星人」なるフレーズが耳に入った。個人的にとてもどら焼きが好きなので、タブレットからテレビに目をやると、ドラえもんの前に頭部がどら焼きの多足宇宙人が立っていた。

「ドラえもん誕生日スペシャル」の中の一篇、「どら焼きが消えた日」の話の流れは以下のとおりである。


※ 正式なあらすじはドラえもん公式サイトの記事でどうぞ。


「ドラえもんの誕生日である9月3日にサプライズとしてどら焼きを沢山食べさせたい。そのためにドラえもんにどら焼き絶ちをさせ、さらに当日はドラえもんの周囲の日付を9月4日として誕生日は終わったとダマそう。

さらに9月3日の記憶がないドラえもんに、『どら焼きの食べ過ぎで怒ったドラヤキ星人が誕生日を食べた』とサプライズの瞬間までダマそう。

そう思っていたのび太たちと、まんまとダマされているドラえもんの前に、本物のドラヤキ星人が現れた!それもドラ焼きをエネルギー減とするために。ドラえもんはどら焼きのために戦おうと決意し、のび太たちはドラミちゃんの手の込んだサプライズ劇と思い込んだまま、侵略星人のドラヤキ星人との戦いに挑む……。」


ダマされてどら焼きに飢えたドラえもんと、サプライズの寸劇として戦うのび太たち。この対比はもちろん面白いので後述したい。まずはいきなり現れたドラヤキ星人のほうのくだりであるが、コレは完全にH・G・ウェルズの元祖地球侵略SF「宇宙戦争」のオマージュであった。これには虚を突かれた。まあ、オチはご想像におまかせします……。


※ だが、「宇宙戦争」のあのオチは、このコロナ禍が世界を歪める現状を鑑みると、予見とも言える大変秀逸なものなのである。ペスト菌が英国領だった香港で猛威を振るったのが、原作発表の4年前である1894年なので、それがあの素晴らしい顛末のヒントになっていたのかもしれない。


さて、ダマされたドラえもんだが、こちらは「宇宙戦争」の生んだ、もうひとつの逸話である、もうひとりのウェルズ、オーソン・ウェルズのラジオドラマ事件がベースであろう。

1938年10月30日、CBCラジオで放送されたドキュメンタリー仕立ての「宇宙戦争」。そこでオーソン・ウェルズがあまりに熱演しすぎたため、全米で「火星人が攻めて来た」コトを信じてしまった人たちが出現し、パニックをおこして大騒ぎになった事件である。

今では「ホントはそんなに騒動になっていない説」が優勢となっているようだが、我々の世代は五島勉先生の「ノストラダムスの大予言」とか矢追純一氏のテレビ番組「木曜スペシャル UFOシリーズ」の影響力を体感しているので、プロレスファン的に「あったと信じたほうが楽しめる」と思うのだが。


※ この我々の世代はオーソン・ウェルズによる英語教材の新聞広告の影響でラジオドラマ事件を脳に刷り込まれてもいるので……。


そんなラジオドラマにダマされたみたいにパニックになってしまい、ネズミに襲われた時の如く、どら焼きのため狂気に走るドラえもん。それに対して、ドラミちゃんによって仕込まれた作り物と思い込み、寸劇のヒーロー役を楽しみながら本物の侵略星人と戦うのび太たち。

このコントラストは本当に秀逸で、ラジオドラマ事件と本家「宇宙戦争」を非常に巧く練り込んでオマージュしたように思える。

地球侵略SFの原点とそのサブエピソードが、とてもうまくドラえもんの原作者、藤子・F・不二雄先生の「すこしふしぎ」なSFに変換されていたこの「どら焼きが消えた日」。見られなかった方にも、ぜひ配信や円盤化された際には楽しんで頂きたいお勧めの一品である。


ここはマンガブログ……のハズなのでマンガの話に移りたい……がその前に。


「宇宙戦争」は何度も映像化されており、皆様の記憶に新しいのはスティーヴン・スピルバーグ監督による2005年の映画「宇宙戦争」であろう。トム・クルーズとダコタ・ファニングという名優二人を使い、現代劇としてアレンジされたそれは、原作のテイストを残しつつ素晴らしい映像化をしてくれた。キャラ設定の改変により作られた息子の行動で、少し焦らされたりもするが、トライポッドに捕まるシーンの撮り方などは個人的に好みである。


さて、やっとマンガの話題に。

近々にこの「宇宙戦争」がコミカライズされているのだ。


コミックビームに2018年10月から連載していた、マンガ:横島一先生、脚本:猪原賽先生、原作:もちろんH・G・ウェルズ先生による「宇宙戦争」である。

このマンガの特色はなんといっても「時代設定を含めて原作に忠実」であるコト。1901年、20世紀初頭のイギリスを舞台にしており(よく考えると世紀末SFの原点的な部分もあるのだ、原作は1898年だし)、当時の状況下、当時の技術力で火星人に蹂躙される軍隊や市民の作劇・作画がとても素晴らしい。

特に、英国軍の衝角艦サンダーチャイルドが、とても強い・強すぎる敵の戦闘機械であるトライポッドに向かっていくシーンなどは「コレよ、コレが見たかったんだ!!」と涙を流すものである。

アレンジとしては文筆家だった「わたし」が、カメラマンの「私」という設定に変えられ、さらにファインダーの枠内に侵略の様を収めるコトに執着する、戦場カメラマンとなっていくコトである。これは物語の中ではうまく作用されていて、原作ではまどろっこしかった「わたし」の行動理由が、「私」の行動理由ではシンプルに解りやすく、納得しやすいものとなっているのだ。

敵のデザインなどはやや生体的に描かれており、当時のイギリス軍の大砲や船と比較しての異様さが巧く表現されている。逆にしっかりした時代設定に基いて描かれた衝角艦サンダーチャイルドは「こうだろうなぁ、カッコいいなぁ、強そうでいい登場だなぁ、でも、勝てないよなぁ……。」と現代の読者に思わせる。

ビームコミックスとして発売中の単行本では全3巻。非常にコンパクトのようだか、緻密な作画と、うまい構成で気持ち良く原作を再体験させてくれる。時代設定を変えたり、ヘンに無駄な脂肪をつけて長々と見せられるよりは、原作の良さをそのまま伝えて魅せてくれるほうが好感が持てるのだ。

是非、手元に置いて何度も読み返して欲しいマンガである。


※ なお、トップに張った絵は自分が3Dソフトで適当にサクっと作った奴なので、「ドラえもん誕生日スペシャル どら焼きの消えた日」にも、コミカライズ化された「宇宙戦争」にも、もちろん偉大なる原作「宇宙戦争」にもなんの関係もありません(笑)

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