プリズム 著 ソン•ウォンピョン
【この恋が永遠では無いからこそ、出逢いと別れを繰り返せ】
ソウルで暮らす四人の男女の一年間の出逢いと別れを、四者四様の愛の形の物語。
愛は始まるのと同時に終わりをじっと見つめなければならない。
偶然、始まった出逢いからの恋愛は、その刹那さ故に思いがけぬきっかけで脆く壊れてしまう。
その結果、残るのは心の傷と痛み。
そして有り余る後悔。
だが、そんなに傷ついても尚、人はいつの間にか別の恋愛を始めてしまう。
その繰り返しの中で、繋がって断ち切って、人は誰かと関わって生きていく。
舞台は、都市に暮らす男女四人が織り成す、大人の青春群像劇。
中堅玩具メーカー勤務のイェジン、サウンドスーパーバイザーのドウォン、パン屋オーナーのジェインにその店のアルバイトのホゲ。
それぞれ過去の秘密や言えない思いを抱えたまま互いに季節を過ごしていく。
大人とはいえ不器用なすれ違いも多く、子供の頃の様な恋愛とは異なる、社会を経験したからこそ産まれる気遣いや思慮が、苦味のある恋愛として心に残る。
必ずしも、相手への配慮が相手の為になるとは限らない。
人を愛する事がこんなに難しいとは思わなかったと、恋愛を通してまざまざと彼らは思い知る。
それでも、傷付けて傷付こうとも彼らは愛する事をやめない。
恋愛そのもの以上に、彼らの出会いと別れを通した成長や未来への予感が、苦味の中に仄かな希望を感じさせてくれる。
光の当たる角度が違えば、その輝き方も異なる。
鋭利なその先端は時に自身を傷付けるが、自身が手にしようとした輝きのためであれば、その傷跡さえも愛しく思える日が来るかもしれない。
失恋と喉の炎症の痛みは似ているからこそ、忘れ去りたくても、ヒリヒリした痛みは思い出すほどに痛む。
恋愛を通して自身が何を掴むかに焦点が置かれている。
まるで息をするように次の恋愛を探す者もいれば、その意味がまるで分からない者もいる。
恋愛が与えるのは輝かしいものばかりではないが、憎しみばかりでもない。
恋愛は人を成長させる上で不可欠なのだ。
自分以外の他者に焦点を当てる事で、人は世界の広大さを実感し、人に与える事の喜びを知る。
恋愛は自分の思い通りには行かない。
それ故に、自分と世界の立ち位置を見直し、どのように立ち振る舞えば上手く行くのかを試行錯誤する。
タイトルの「プリズム」とは、雪の結晶には一つとして同じ形が無いように、価値観や考え方は人それぞれ違って、その違いや多様性があるからこそ、世界は発展していくのだと示唆出来る。
人との出逢いは一期一会。
新しい出逢いも哀しい別れも人である以上、何度でも飽きる事なく繰り返す。
そのサイクルの中に恋愛の本質が隠れているのだ。
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