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読書感想:メンヘラが愛妻エプロンに着替えたら (角川スニーカー文庫) 著 花宮 拓夜

【その過去の重みすらも支え合って乗り越えて行け】


【あらすじ】

ぴえん?地雷?でも 美少女だからギリ許す!スニーカー大賞《銀賞》受賞作。

「晋助の家に『通わせて』? 私なんでもしてあげるから」
大学生・愛垣晋助は地雷系美少女・琴坂静音からいきなりな提案を受ける。
彼女は女子大生の他に「パパ活女子・コトネ」というもう一つの顔を持っていた。
その事実を知った晋助に口止め代わりに『通い妻』にしてくれと願い出る。
「もうメンヘラはこりごり。そう思っていたはずなのにな」
晋助はこれまでのメンヘラ女子とのトラブルから女性に臆病になっていた。
それでも静音への心配もあり渋々認めてしまったが段々と彼女の献身的な『通い妻』の姿に心惹かれていき!?
ワケあり女子とのハートフル半同棲ラブコメディ!!

Amazon引用
登場人物紹介

過去の傷を二人で支え合う物語。


メンタルヘルス。
それは、精神的に不安定で、自分の事で周りを振り回してしまう一種の現代病。
過去の女性遍歴からメンヘラを忌み嫌う晋助。
しかし、静音から通い妻になる提案を受ける。
最初は渋々だったが、静音の献身的な愛情に徐々に心を許しかける晋助。
そして、彼女を知るごとに明らかになる暗い過去。自身もトラウマを抱えていたからこそ、その痛みは誰よりも分かる。
共依存にはならない自立した関係を目指す中で。
静音の心の内側を覗き込んだ時、底しれぬ寂しさがあった。
相手に注意関心を持ってもらいたいからこそ、問題行動を起こす。
自分を傷つけてしまうのも、寂しいから。
誰かに必要とされたいから。
自分を承認してもらいたいから。
その気持ちをあるがままに晋助は認めてあげる。

世間一般の認識では、メンヘラとは面倒臭くて、関わりを持ちたくないと思う人が多いのかもしれない。
しかし、地雷系ファションに身を包み、パパ活で日銭を稼ぎ、リストカットで身を染める人達にも、そうせざるを得ない事情があるのだ。

過去に三回、女性と付き合って、その三人全てがメンヘラだったというトラウマを抱えたせいで、恋愛に臆病になってしまった晋助。
東京の大学に通い一人暮らしをしながらも、女に飢えた友人、浩文と駄弁ったり、姉のような幼馴染、千登世と姉弟のような仲睦まじい日々を過ごしていた。
そんな中で人恋しさに飢えた静音が、通い妻契約を持ち出されて、始めは友人として交流を深めていく。
外の世界では、どうしても居場所を見出だせないからこそ、静音はほぼ毎日家に押しかけてくる。
せっせとご飯を作ったり、晋助の夢である漫画家への道を助言して応援したり。
今まで出会ってきたメンヘラ女子とは違う、どこか影を抱えたような彼女の事から晋助は目を離せなくなっていく。
同時に今までの男性とは違う、上辺ばかりの綺麗事ではなく、ちゃんとした愛を与えてくれる晋助 に、静音も次第に縋りついていく。

しかし、そんな二人の関係を面白くなさそうに眺める者がいた。
それは、千登世であった。
晋助が過去の遍歴から傷ついて悩んできた過程を知るからこそ、静音に対しては警戒心を持って。
彼女にこれ以上の依存心を抱かせないよう、晋助の過去の一端を語りかけ、引き離そうとする。

それは良かれと思ってした事。
けれども、諸刃の剣でもあって。
ようやく見つけた、本当の愛の断片を手放したくないと静音は無理に自分を変えようとして。
正常な精神状態ではない彼女に戸惑った晋助との間に溝が出来てしまう。

自暴自棄の沼に沈む静音に晋助の友人達は問いかける。
どうして、そこまで晋助に執着するのか?
その問いに、余計な雑念を取り払って、あるがままの心を見つめ直した時に見つけた答え。
根底にあったのは、こんな自分でも必要としてくれたから。
ただ、それだけでも静音にとっては重要な理由で。
その想いを知った晋助は、今まで一方通行だった静音の想いに報いる為に新しい約束を交わしていく。
メンヘラというトラウマを乗り越え、自分達らしい関係を共に育んでいく。  


メンヘラは治す物ではない。
本人が変わりたいと思って変えていく物だ。
そうやって痛みを分かち合う中で、それぞれの傷を抱えている事が分かった。
晋助は独学で漫画家を目指していて、静音はイラストレーターの夢を挫折していた。
夢を諦めなければならなかった複雑な家庭環境。
それを理解し合う事で関係を保ち続けるが、ふとしたはずみで壊れてしまうようなギリギリの綱渡りを渡っているような危うさもあった。

共依存とは、互いがなくして自分が保てない事なので健全とは言い難い。
いつも、相手に主軸が置かれていて、自分という物がない。
それでも、この世界には多様な愛の形が存在するからこそ、彼らの関係もまた、一つの愛なのだろう。

世間一般でいう常識も、今の己を形づくるトラウマも、献身的で嘘偽りのない熱量が注がれ続ければ、少しずつ認識の形が変わっていく。
はたから見ればおかしくて歪かもしれないけれど、自分達はこれでいいのだと。

生きていく中で見えない負の感情を溜め込んでしまう中で、そんな気持ちを吐き出せる場所が必要だったのだ。

そんな居場所を手にした静音は献身的に晋助の家に通いつめる。
己のメンヘラを共依存という形に変えていく為に。
一つひとつの気配りや優しさは、晋助の役に立ちたいという純粋無垢な想いから来る物で。
交流を深める程に、信頼感は増していき、互いがなくてはならない存在へと変貌する中で。
この共依存がどのように真の愛情として昇華していくのか? 

辛い過去すらも乗り越えられる拠り所となり得るだろうか? 













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