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Hello,Hello and Hello (電撃文庫) 著 葉月文
【君との積み重ねた思い出を僕だけは忘れないように】
「ねえ、由くん。わたしはあなたが―」初めて聞いたその声に足を止める。学校からの帰り道。中学のグラウンドや、駅前の本屋。それから白い猫が眠る空き地の中で、なぜだか僕のことを知っている不思議な少女・椎名由希は、いつもそんな風に声をかけてきた。笑って、泣いて、怒って、手を繋いで。僕たちは何度も、消えていく思い出を、どこにも存在しない約束を重ねていく。だから、僕は何も知らなかったんだ。由希が浮かべた笑顔の価値も、零した涙の意味も。たくさんの「初めまして」に込められた、たった一つの想いすら。これは残酷なまでに切なく、心を捉えて離さない、出会いと別れの物語。
少女と少年の記憶に纏わる出会いと別れの物語。
人と人の関係はひとえにその人との日々の積み重ねで形成される物である。
しかし、少女の死によって、周りの人々は少女に関する記憶を忘れてしまう。
本当の死とは、その人の事を忘れて思い出さなくなる事。
これは、少年と少女の淡くて脆いたった一度きりの恋の物語。
積み重なる物が無いからこそ、自分の存在を何とか楔として世界に埋め込もうと足掻く由希と、沢山の初めましてを繰り返して。
一つ一つは些細な記憶のピースを。
断片的に繋いでゆくエピソード。
そうやって、初恋を何度も、何度も繰り返して、積み重なった淡い恋心は、一生分の恋として彼らの関係に根付く。
記憶の積み重ねならない初めましては、途方も無い時間と熱量に支えられていた。
自分の事を覚えていて欲しい由希の過酷な運命を受け入れた故に、毎週違ったアプローチで繰り広げられる健気な努力は、やがて実を結ぶ。
消えてしまう彼女の爪痕を何とか覚えていようとする春由。
しかし、世界の法則と時間の流れは無情にも彼女の記憶を彼から奪う。
覚えていたいのに、忘れてしまう。
その葛藤の中を揺れ彷徨いながら、彼女の笑顔の価値と零した涙の意味を自分に深く問い掛ける。
人は忘れていく生き物だから、ずっと心に留めておくのは難しいかもしれない。
それでも彼女を忘れない春由の純愛が胸に切ない痛みを齎すのだ。
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