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映画感想文【ウィ、シェフ!】

2022年製作 監督:ルイ=ジュリアン・プティ
出演:オドレイ・ラミー、フランソワ・クリュゼ

<あらすじ>
一流レストランでスーシェフを務めるカティはプライドの高さと気の強さが災いし、上司と大喧嘩の末、勢いで店を辞す。苦労して見つけた新しい職は、移民の少年たちが暮らす自立支援施設の調理場。
食材は粗末、設備も不潔。不満たらたらで働き出したカティだが、調理アシスタントになった施設の少年たちと少しずつ心を通わせて、自身も大きく変化していく。


心が荒んでいたので、何かあたたまるものをと思いチョイス。
フランス映画は久しぶりである。とかく難解で暗く皮肉たっぷり、なイメージを持っていたのだが、スッキリとして分かりやすく、予想通り暖かな作品だった。

序盤、主人公のカティが務めているレストランは超一流店。上司のシェフの指示を無視したためにクビになってしまう。
有名店であるゆえに、おそらくシェフは普段からテレビなどメディアに出ずっぱり、スタッフのケアを疎かにしていたのではないかな、という印象を受けた。
カティが考案したレシピの料理を、理由も言わず仕上げだけ掻っ攫い、かつ味変の指示。そりゃ怒るわいな…。

その怒りのまま話は進み、舞台は自立支援施設へ。
観客の心は理不尽に職を失ったカティに寄り添っているので、またしても不遇な処置に同情する。大勢の食事を準備するのに手が足りない、少年たちから手伝いを募るが、それもまたお粗末…。
不満と怒りの衝動のまま、「キッチンでは私が王様!」とばかりのきつい言葉を投げつけるカティに、少年の心は傷つけられてしまう。
忘れていたが、相手は未成年の少年である。
彼らは皆親元から遠く離れ、一人慣れない異国で強制送還の恐怖に恐れる日々を送っている。
確かにそんな過酷な環境で、心も未熟な少年に対する態度ではない。

中盤で分かるが、カティ自身も施設で育った孤独な人であった。
味方になってくれる身内がいない、ということはとても辛く厳しい。コミュニケーションが上手とは言えない彼女の様子に、自らガチガチに防御を固めて深く人と関わってこなかったのだろう、ということはすぐに予想がつく。
そんな孤独で不器用なカティが、周囲に促され、不器用なりに少年と仲直りする様子は、結構身につまされるものがあった。
偉い……。
ほんでも絶対、ゴメンとは言わへんねんな……。

フランスと限らず、最近は自分を貫き通すことが何かと称賛される。
確かに自分を強くもち、主義主張を貫くさまはカッコいいし、立派なことではある。しかしやっぱり、人は一人きりでは生きていけない。
一人が楽しいことも沢山ある。でもみんなが楽しいなら、そっちも良いじゃない。
喧嘩しないで仲良くやれるなら、それが良いじゃない。
自分を貫きながらも他人を尊重し、生きていく。そういった人間関係の基本のキ、を今更ながら教えられた気分である。

後半、ストーリーは移民問題に移る。
強制送還となった少年の言葉には胸が詰まる。

「故郷の親に、ここには何でもあると言われた。
 でもここで暮らすのがこんなに大変だとは思わなかった」

普段あまり関わることのない移民問題を、こうして語られるとやっぱり自分は恵まれた環境であり、同時に無力さを感じる。これを一時の感想として風化させないようにしたい。
実は映画は実話を基としており、カティのモデルとなったシェフは移民の子供たちのための職業訓練の場を設け、働いているらしい。
映画ではその設立に関わるエピソードが映画らしく、やや過分にドラマティックに描かれているが、これはもう素直に泣かされた方がいいだろう。
良いエピソードと皆の笑顔であった。

古今、料理をテーマとした物語は沢山作られてきたが、やっぱり面白いなぁ、好きだなぁと思う。たとえ料理を自分で作れなくても、目の前で出来上がる行程を眺めたり味わったり、関われる部分が多くあるからだろう。
良い映画、満足でオススメです。

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