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【読書日記#3】今日も乙川さんの小説を読む

乙川優三郎著「生きる」を読了。この作品、なんと直木賞受賞作なのだ。「殉死」をテーマに亡き藩主の後を追って追い腹を切ることを禁じられた主人公が「生きること」とは何かを問い続けながら日々を過ごすという話。

主人公の又右衛門は、周りから「追い腹の候補」とうわさされていたため、「期待」を裏切られた周囲から誹謗中傷を受けたり、娘からは義絶されたり、苦難の連続。辛い。

追い腹を切ることで亡き主君に最後の忠義を示すはずが、思わぬ運命のいたずらで人生があらぬ方向へ。そして、「殉死」をめぐっては更なる騒動も起きるのだが。又右衛門にとっては、最悪の展開にして、まさに「生き地獄」状態。しかし、それでも生きなければならない。

苦しい展開が続き、明るい幸先が一向に見えない。だけど、最後まで読み続けることができたのは、何度心が折れかけても強く生きようとする主人公の心情が丁寧につづられていたからである。表題作のほかに、「安穏河原」「早梅記」も収録されていたが、これらも良作なので、全3作読んでみて。

続けて、「さざなみ情話」も読了。今度は、町人たちを中心にした話が読みたくて。高瀬舟の船頭・修次と遊女のちせの純粋な恋愛劇がメインだが、船頭や遊女の仕事の様子にリアリティがあり、描写が丁寧。

特に遊女たちの生きざまが印象に残っている。使われるだけこき使われて、使い物にならなければ捨てられる。悲しい宿命を背負った遊女たちが孤独にさいなまれ、先が見えないという苦しみにもがきながら暮らす姿をちせの眼を通して描いている。この作者、市井の悲喜こもごもも書けるんだな。

江戸川周辺の地域が舞台なので、川のある情景がすぐさま浮かんでくる。文章によってさらにその情景が豊かになる。乙川さんは、時代小説を通して人間の生きる姿を描いているんだな。置かれている状況が苦しければ苦しいほど、人はよりたくましく生きるんだということを教えられた。乙川優三郎という時代小説家の存在を教えられたうちの母に感謝である。

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