新説かちかち山(たんぺん怪談)

タヌキが婆婆さまを殴って殺害した。悪いタヌキである。タヌキは、婆婆をババア汁にして夫の爺に食わせてやろうともくろんだ。ざまあみろ、あほども。

しかしながら婆婆さまはニンギョであった。ぐつぐつと煮られるババア汁のなかでも婆婆さまは生きていた。
爺さまが帰宅した。タヌキは婆婆さまに化けて、

「夕飯は鍋にしといたよ、あんた。召し上がれ」

とっときの笑顔で鍋を木べらでかき混ぜる。

爺さまは、鍋をしばし見つめると、言った。

「おまえ。鍋んなかでなにしとる。鍋んなかで泳いで昔を思い出しているのか?」

タヌキは、違和感に気がつく。
しかし、遅い。

爺さまは稲刈りに使っていたカマをすでに頭に掲げており、ためらいなくタヌキが化けた婆婆さまの脳天にこれを振り下ろした。ぱかっと頭が割れて、血が吹きはじけた。

婆婆さまの姿がちぢみ、タヌキになった。
頭が割れたタヌキになった。

よっこらしょ。爺さまは、一声あげて鍋の前に座り、ていねいに肉を木べらで掬った。すべてをすくい上げるのに一時間ほどかかった。

そして、爺さまは肉を捏ねあわせて、しばらく待った。
やがて煮られて変色した肉団子の集合体がもぞもぞもぞ。うごめき、人間みたいに、なった。婆婆さまははだかんぼうの姿で、日焼けしたみたいに、黒い肌色になっていた。

婆婆さまが言った。

「まいったね、こりゃ。ははは」
「迂闊もんじゃ。なぁ、今夜はタヌキ汁にしようや。タヌキがおる」

「わかっとる、わかっとる」

婆婆さまは、にやりと黄ばんだ歯を見せた。

ふたりきりの村外れの民家。その実、妖怪と妖怪を娶った男の棲む魔性の棲家。ちかづくものは、なんであれ、恐ろしい目に遭うのである。

ちなみに、かちかち、カチカチ山だよ、なんて言うウサギ殿も、こんな怪しい家には、近づかない。ので、ある。


END.

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