甲殻ニンゴョの口角
人魚姫とおもいきや、それは甲殻に覆われていた。
ニンゲンを結晶化させたように。
ツルツル、ガチガチ、口を開けることもない。
うすく目を細めて微笑んではいる、そのカタチで永遠に固定されている生き物らしき深海生物である。実際にはきちんと生きている。
けれど、人魚たちですら、このサンゴ礁みたいな親戚らしきモノには近づかなかった。
誰もがコレが忍び寄ると逃げていく。
それは、とつぜん、微笑んだまま、しがみつくことがあるからだ。ぎゅうっと抱きしめて離さず、海をどこまでもいっしょに落ちていくことを求める。
両側からはさみうちされ、やがてくる、深海の深さに耐えきれずに起こる破滅。どんな生き物だって、星の真核に届くほどの深海に到達するころには、深海の深さに耐えきれずに破裂したり体液を漏らしたり、死ぬのである。
人魚らしきそれだけは、微笑んでは沈んでいく。友人を優しく歓迎するようにして。
ぱん、どろり、掴んだ相手が、破裂するまで、それは手を離さない。
破裂してもしばらくは手を離さない。
気が済むと手を話し、また上昇し、次のお友達を探すのだ。とうぜん、こんな化け物からはみんなが逃げていくのだ。
その甲殻人魚は、今のところ一匹だけ確認されている。イレギュラーであるのか、それとも冥界もしくは神域から遣わされた霊位の類なのか。単なる悪魔なのか。
それが、口も動かせないから、真意は誰にも分からない。
ただとても親しげにの微笑んでいる。
そして、そのまま、甲殻と化している。甲殻の中身になにがあるのか、誰もが知らない。
そのうち、人魚たちは、それと自分らが同じにされるのを嫌がって、それの改名を求めた。今はなんとなくこう呼ばれている。
ニンゴョ。
END.
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