枯枝の不老不死など要らぬ

「妾の言の葉でもって命ずる。破棄せよ。皇帝に、不死の霊薬など無用。直ちに下水にでも流してしまえ」

皇帝勅命にて不老不死、つまり人魚の肉を探してきた老騎士はあぜんとした。ようやくそれらしき半身魚の怪人を殺し、その肉を干し肉にして帝国に戻ってみれば、后に呼び出されての開口一番である。

納得がいかず、皇帝への面通しを嘆願した。

「后様、これは、帝がわたしに全霊をもってして死体を掻き分けてでも捜せよと命じた、命の薬でございます。私がまだ二十の若者であった頃からの命令でございます。ようやく、ようやく、私は帝に薬をもって」

「痴れ者が。おのが姿を鏡で見てみろ!」

うら若き帝の新しい妻は、傍若無人に吐き捨てる。「何十年もかけおって。手遅れじゃ。今更、齢90を超えて不老不死になろうても帝も民草も苦しむだけだ!!」

「そんな。なぜです」

「鏡を見ろと言ったぞ。理由はすべからく言うたぞ。妾に夫を侮辱させる気か?」

権力、立場のちがいが、ありすぎた。老騎士は干し肉を抱えたまま絶望して城をあとにした。その干し肉を、結局は老騎士本人が食ったかは、后の預かり知らぬ話だった。

ただ、傲岸不遜の若き美貌の后は、……聡明な女であった。

数日後、帝が天寿をまっとうした。后は喪に服して黒衣をまといながら、寝室の鏡を睨みつけて毒づいた。と、言う。

「老人が今更、不老不死になったところで何が変わる。あと50年は早く見つけてみせればよかった。せめてあと30年でも早く!」

彼女は、天敵しか城内にいないほどの豪傑であるが、まことに聡明な才女であった。帝の知らぬ帝の心を知っていた。

老いてなお生きながらえるなど、不老不死になろうなど、不運そのものである。と。


END.

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