勇者と人魚の肉

食べたら不老不死になれるのよ、ある国の勇者はひっそりと誘惑を耳打ちされました。酒場で仲間と飲み交わし、ふと一人になったとたんに老婆は勇者の隣に座りました。

「伝説にある人魚……。そいつらがすんでる場所を私は知ってるのさ、どうだい。あんたほどの男がたった数年で年老いて才覚を失っ知まうなんざ、アタシゃ見てらんないわ」

勇者は酒を飲んでいましたが、酔っ払ってはおりません。歯のかけた老婆を見つめて、言いました。

勇者は、立派な肉体にふさわしい高度な精神の持ち主でした。だからそう言えたのです。勇者は年老いることなどとうに受け入れていました。

「ジイサンになったら仕事をすっぱり辞めて日がな釣りして畑で野菜を育てて仲間とだけでのんびり過ごすって夢があるんだよ、おばあさん。オレはもう夢は見たくないんだよ。現実だけで腹いっぱいなんだ。オレから、老後の楽しみを奪わないでくれないか?」


END.

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