怪異・よいおとしを!!

年の瀬はいそがしい。あれを買い、これを準備して、向こうは掃除し、あちらには挨拶に出向く。よいおとしを。よいおとしを。合言葉を唱えてひとびとは立ち去る。

よいおとし、よいおとし、繰り返されるうちに言葉は独り歩きをする。

独り立ちして、足を持ち、人魚姫の童話のような魔法をかける魔女など必要とせずに立ち上がる。立ち上がった。子鹿の足みたいにがくがくの脚で起き上がった。

よいおとしを。よいおとし。それに名前はまだないが、立ってすぐに挨拶はくちにした。よいおとしを。

立ち上がり、やがて、幾年の年の瀬に歩き回って挨拶しまわると、見知らぬ誰かであっても、まぉだいたいのひとが「よいおとしを」返事をした。言われると返事をする言葉、それが年末の『よいおとしを』だ。

よいおとしを。よいおとしを。

それに、名前はまだない。
けれど、妖怪って、こうして産まれてくるものだ。

怪異はまたひとつ産声をあげて増えた。
よいおとしを!


END.

読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。