はじめまして

声はなく、姿は愛らしく、にこりと笑顔がまぶしい。

そんな女が現れた。
稲穂の髪をした、異国の女が。

声はあるようだが、しゃべれないのか、聞こえない種類の声音なのか、そういう国の出身なのか。よくわからない。なにせしゃべれないから!

けれど、彼女は愛らしいし、可愛らしいし、にこにことする。そして誰かの服がほつれていたり、床の資材が傷んでいたり、そうしたことによく気がつき、何も言わずにそれを直そうとして、彼女に任せると彼女はほんとうに直してしまうのだった。
やがて、彼女は、村人の一員となった。村人たちが彼女の笑顔ににこりとするようになって、そんな愛情が育まれた。

しかしある日、領主からの使いが来た。

ここに金色の髪をした女がいると聞いた。領主様は金を集めている。女をよこせ。と。

……村人たちは、その晩。

「アイツを、殺すか」
「そうしよう」
「しっかたねぇべな……」

集まって寄り合って、この話を聞かなかったことにすると決めた。
領主の使いだろうが、すでに村人たちがすっかり好きになってしまった彼女のためなら、人間ひとりぐらい殺すこと、別になんでもないのである。

しかし、彼女が、稲穂の金の髪の女が、指を差し出した。

寄り合う男女たちの、真ん中に。

右上から、左下に。
左上から、右下に。

「…………」

村人たちは声を失う。失った。この賓客のように。

それから、
顔を見合わせた。

「…………」
「…………」

それから、

金色の髪の女が、領主の使いの前へと立った。そうして彼女はくちを開けた。

「はじめまして。わたくし、こういう者で……、……、…………ですのよ」

皆がおどろいた。度肝を抜かれてあぜんとなる。しゃべった。しゃべった!
いや、それよりも?

領主の使いが真っ青になって女の顔を化け物でも見るように見上げた。この世のものではない、ナニカを見る目だった。

その使いは、自分こそ声を失ったみたいにして馬にまたがり、無言のままにほうほうのていで逃げていった。
稲穂の髪の女と、村人が残された。

「…………」
「…………」

風が、さぁっと彼らを吹いた。

それから、
彼女は踵を返して、
おじぎをした。そして顔をあげて村とはちがう方向へ歩いていこうとする。それを、その腕を、何人かの村人たちが掴んで引き止めた。

異国の女は、目すらも金色の女は、おどろいた。だが、やはり、言葉は無かった。

「…………」

彼女はふたたび、村へと向かい入れられて、それから、村の一員としてずっとそこにいた、と、言う。

「そんな口伝が残ってるわけ。で、うちら、やっぱエイリアンかなんかの子孫なんじゃない!? サイキックてやつよ」
「んなバカあるかよ」

金色の髪の兄弟が、制服を着て、身だしなみを整えながら、学校に向かう。
そんな或る1日が、迎えられた。


END.

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