マーメイド・マンション

人類、ついに砂漠にまでマンションを建て始めている。そうかと思えば、また人類初なんてキャッチコピーがチラシに踊り、舞台は日本だった。日本海の水底にマンションを建築するらしい。

世の総人口はいまや1100億人。住まいと土地は慢性的に不足がちだ。地表を覆っても人類の住める場所がまだ足りないし、人類はまだまだ増える一方。食糧問題も深刻だったが、土地問題も深刻だった。

学者が嘆き、安全性などが問題視されるなか、『マーメイド・マンション』の第一号は完成した。パイプにより酸素を送られて、マンションの窓から見える景色は海のなか、それがウリらしい。マンションに入居するには専用の海底トンネルエレベーターを使用する。これが、どうしたことか日本の富裕層にバカ受けしてマーメイド・マンションはあっという間にソールドアウトとなった。世界からも注目されて、海底マンションがあらたな住み家として世界各地に建築されることとなった。

「珊瑚礁の海を眺めるマンションなんてどうだ」
「サメ、鮫、シャーク! それらがダイナミックに動く、窓の外がアトラクション。オーストラリアなんてサメが多いし最適じゃない?」
「ああ、日本海のマーメイド・マンション第一号? もう古いよ。ていうか日本海じゃあ汚くて、景観がちょっとね。せっかくの海だ、エーゲ海とかハワイとか、ああいうリゾート地にウチは造ろうと計画してるよ」
「うちの海はキレイだよ! 招致しましょうよ、村長!」

通称『マーメイド・マンション』。

ぽこぽこと海に建造されて、なかには事故で作業員全員が溺死なんて凄惨な事件とか、入居したあとで酸素漏れが発覚したり水漏れが発生したり、入居者全員溺死なんて大事故も起きたりしたが、それでもマーメイド・マンションはぽこぽこと雨後のタケノコばりに増殖した。砂漠マンションよりかは人気があったのだ。
地球の表面には、どちらにせよ余分な土地がないから、海の中のマンションはまさに新境地なのだった。

エーゲ海やハワイでマーメイド・マンションが建造される頃、日本でのマーメイド・マンションは次々に増築されて、今や『マーメイド・団地』の勢いである。二号棟、三号棟、四号棟、五号棟――。マーメイド・マンションを最初に立案したのは、意外なことにアイドル事務所の社員だった。その社員が次なる計画を上層部と打ち合わせて新たな研究が着手される。その名も『マーメイド・スーツ』。

宇宙服のように、海服を着て、宇宙船に入るようにマーメイド・マンションに出入りして、そうして人間が住めれば、ますます完璧だ。というわけである。マーメイド・スーツも世間にバカ受けしてこれも世界に広まった。

西暦2878年、人類は海にごくごく普通に住むようになった。マーメイド・マンション、それにマーメイド・スーツは、あらたな世界共通単語となった。何千万もの人類がマーメイド・マンションに入居するようになった。たまに大事故、大惨事は引き起こして入居者全員が死んだりとかはしているが。

それでも今日も、マーメイド・マンションは売れて、あらたな入居者がひしめくようにスタンバイして、順番待ちするほどの大人気物件だ。
相変わらず、事故が起きると凄惨で大事件で住民全滅など目の当てられない惨状が起きるのだが、ハイリスクな曰く付き物件ではあるのだが、住む土地となるともはや代替がきかないのだった。



END.

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