ミニマリストの白さ、好きなんだ、それだけ、きっと
いらないものは価値がない。ミニマリストのユーチューバー、キレイな家の猫動画、ネイルはしてなくてキチンと爪磨きはしてある整った指先の主婦の料理動画。ピアノ、バイオリン、音楽。
そういうのがボクは好きなんだ。
将来はボクもああなりたい。ああいうヒトと結婚しない。今のこのゴミ屋敷の家のwifiでしかゴミボロAndroidスマホしか使えないボクには、もう戻らない。ボクはそう決めて進学先を書いた。
けれど、先生は苦い顔つきをした。学費が高騰しているから、少しご両親と相談したほうがいいね。だってさ!
ご相談? できるわけがない。国立大学? ボクの知っている有名人、とくにミニマリスト界隈はとにかくキラキラしているんだ。なんだか貧乏臭くて国立大とは書きたくない。それにボクの学力じゃ、ちょっとむずかしい。考えても見ろよ、センコー、なんて、ボクはボロアパートのガタガタしたカギをまわしながら舌打ちする。
家に変えれば、もの、モノ、モノ、大量のストック品で渋滞している。セールの買い置きだ、母さん。いつか使うかもしれないだろ。父さん。
嘆かわしい思考回路だ。
ミニマリストたちのあの整然とされた白い空間を見ろ。あの美しさがどうして理解できないのか。
でも仕方ないから、進学のことについて、夕食のパスタとふりかけタラコを混ぜたものを食べたあとで、先生のおっしゃる『ご相談』をしてみたさ。
すると、母さん、父さんは、今までとは異質な、ひどく哀れむような、目を。
した。
「ニャーチャくんさ。いつも見てる動画の人たちさ、アレはね、住む世界がちがう人たちの生活なの。わかる?」
「バカみてーな金持ちなんだよ! 最初っから! でなきゃあんな生活できねー」
「YouTubeでまいにち見れるもんね。身近に感じるのわかるよ。憧れるの母さんだってわかる。でもさ、ちがうの。チガうの。YouTubeとか動画ってよくないやね、テレビ画面より身近にあんなに住む世界ちゃうヒトたちをばんばん移しちゃうんだもん」
「ニャーチ、おまえみたいなんが影響されてもなんもならんぞ。宝くじ当てたって無理! その資金を運用だぁ金持ちたちでまわすだぁ、あーゆう連中のずる仲間のダチがいねぇと無理なんだよ。わかんだろ? だからさぁ、ゼット世代? チガってるのがわかんねーバカを量産してるから、あんな変な連中が目立つよーな炎上だけしてんだ」
「そぉね。お金がなくっても目立てるの、そういう方法になるものね。ニャーチャくん、ね。考えてみて。チガうの。チガうんだよ、ぜーんぶぜんぶ。あたしらは動画が再生回んないほうの住む世界なの。なんていうの? 和室界隈……」
「もういい」
話にならない。聞きたくかい。害悪だ。父さん母さんは害悪だ。耳が腐る。これだから老害ッて言われるんだ。時代がチガってることわかってないんだよ!!
「とにかく進路希望はそうしたんで。じゃ」
「ねぇ、泣かないで。ごめんね。でも仕方ないの。ねぇ、配信とかYouTubeとか、しばらく見るの止めたらどう?」
「こんのバーカ息子がぁー」
わかってない。わかってない。
でも、金がないのは、確かではある。
ボクは、はじめて、闇バイトなんて単語を検索してみた。おいしい話がゴロゴロ。それとともに、ボクのなかでなにかが叫んだ。やめろやめろやめろやめろ。現実なんて、見たかないんだよ!!!!
闇バイトの成功報酬をうらみがましく見つめていると、深夜3時をもうまわった。
クソ。遅刻か、明日。もう学校サボりてぇ。ぜんぶぜんぶ。サボりたい。なにか、皆とはチガうもの、誰か、ボクにもくれよ。くれよ。くれよ。くれよ。くれよ。くれよ!
世の中って本当、くだらない。
ミニマリストの動画を再生すると邪魔なものが一切なくて真っ白で、くだらないものなんて、画面にひとつも映らない。
それが、本当はそういうのが金持ちの証ッてそんなの、バカな真実じゃないか?
なんだよ、ミニマリストって。
捨てられる幸せ、持っててずるいくそやろう。チャンネル登録を一つだけ消して。寝よう。寝よう。寝よう。ひとつのボクをこの世から消してしまおう。
ぺっちやんこな敷き布団のうえでボクは丸くなる。
END.
読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。