長靴を釣ったときに考えられること

つりびとが何もせずに突っ立って、あるいは座り込んでぼけぇーっとしていることそれそのものが、とても面白いらしい。『その生物』は実のところ、全世界に生息域があって浅瀬でも深海でも活動ができる。そのうえ、両生類の特徴まである。しかも、頭脳はイルカの数十倍、つまり人間の100倍くらいはあるので、これまで人類には検知されずに海に生きてきた。

たまに、同士討ちなどしたり、事故にあったり、死体が流出する。大抵の場合は死体などあっても自分たちで処理するか食べてしまうかするのだが、全世界に生息しているものだから、死体は流出する。そのとき、人類が『その生物』に与えた呼称は、人魚、だった。

今日も今日とて、とある湾岸でつりびとはあくびを噛み殺して、ぼうっとしながら突っ立ち、釣り糸を垂らしていた。
海面下では、うえを見上げながら、人魚たちがきゃっきゃとはしゃぐ。釣り糸が浮遊しているのを指差して嘲って面白がった。誰かが、海底で拾ったゴミを持ってくる。ある程度の重量があると人間が喜ぶので、それは長靴とかブーツとかになる。

そっ、と、今日も、釣り糸に長靴が引っかけられた。
糸がぴーんとはって。ねぼけてたようなつりびとが喜色満面に目を輝かせて、釣り具のリールを巻き上げる。人魚たちは、きゃはきゃはと笑いながら海に潜って、数メートルの距離を保ちながら「なんじゃこりゃあ!!」泡を食うつりびとの百面相を楽しんだ。

海にまつわるちょっとした災難は、案外と人魚のしわざだ。



END.

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