美の敗北

世界で最も美しい。それがマーメイドたち。ところが、足をもらって陸に上がった場合、彼女たちは絶望する場合がある。

『脚の美しさ』

足は、ただあればいいのではなく。
本人の顔立ちや、全体の印象、そして乳房や体格に見合った脚の太さや細さ。一番美しく魅せる為の塩梅が、あるのである。

マーメイドに脚を与える、これは勝手に生えるキノコではないから、ほぼ海の魔女たちだ。マーメイドに脚が欲しいと請われれば、代償を求めてさっさと脚を与えて追い払う。

魔女は美醜やバランスなど気にしない。本当に、足をぽい、と与えるだけ。

結果、人類80億のなかにまぎれて、すれちがったり、映画であったり、実際に見に行くなどして。
マーメイドは、特別に美しい、人間に、嫉妬するのである。

あたまから脚までなんて美しいの。
あたしよりうつくしい。

初めて、嫉妬や劣等感を覚える。初めて自分で自分にペケをつけてバツをつけて否定をする。

マーメイドは、たいてい、そうなると弱い。なにせ美しさで海を生き抜いてきたのだ。しかし80億人のうちのトップオブトップの美しさを知ってしまうと、彼女たちは、もうかつてのように無邪気ではいられなくなる。

卑屈になる。無垢ではなくて神の庇護も失う。心が醜くなり、やがてそれは顔つきにも現れる。

そうして、マーメイドたちは、美しさを失ってゆく。
マーメイドが、未だに人類に発見されない、理由であった。

深海の彼女らはわからないし、陸にきた彼女らは、マーメイドらしさを失って、ただの嫉妬深い厄介な悪女になってしまうから。


END.

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