一匹目の神の人魚

今日は雨といったら必ず雨にする。晴れと決めたら晴れになる。女心はよく空や天気の変わり目に比喩される。その女神もまた、天気の担当者であった。地方担当、ひらたくいうと下っ端の神であった。

女神はこのところ、気分はずっと沈んでいる。気に入った男子が女に告白されて付き合いだして、それを上から見下ろしているしかできぬ自分に悲しんで、心は延々と雨模様であった。ずぶずふと雨と泥にまみれて汚れた彼女に、地方担当の天気の女神に、手を差し伸べるほどの高等神はいなかった。

ギリシャ神話の時代じゃあるまいし、キューピッドを使役することも禁じられている。魔女に頼るなどご法度だ。

しかし、女神は、ずっと雨にしたかったし、地上を海みたいに変えたかった。一面の海の星にするのだ。

ああ、ああ、地上のあのひと。
愛おしいあのひと。

……世界はそこで分割された。
分岐点が生まれて、ある生命体が真実か否か、枝分かれすることになった。

女神が耐えきれず雨を降らせつづけて地方を海一面にして、彼女は悲しみと怒りのままに大陸に乗り出していってすべてを海に変えてしまった。星をまっさらな海に。

高等神たちは怒り、彼女から、神秘の位を剥奪した。堕天使の誕生である。

しかし、ギリシャ神話の時代でも、創世記の時代でもあるまいし。堕天使は、海にぽちゃんっと捨てられた。

高等神たちは、次なる大陸の生きものを待ち、氷河を造り直すなどして海の水位をさげた。そして地上の次なる覇者を待つ。

海の堕天使は、永遠の命をもち、しかし姿を剥奪されて堕天使とひと目でわかるようにされた。

それすなわち、人魚姫であった。
最初の、一匹目の人魚である。


あなたの世界は、どちらの分岐を進んだ世界なのでしょうかね。



END.

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