線引きされる新世界

偶然なわけがない。

容姿、家柄、利得の見込みがある、親族など縁者である。
こうした連中だ。選ばれる者は。

就職活動がうまくいかない、自分のおもいどおりにいかない、彩夏にとって、はじめての挫折になった。
奨学金を受けて勉学に励み、首席はとれなかったが五本指に、入っているとゼミ教諭は言った。彩夏は、自分の万能性、完全性に、その歳まで疑問を抱くことはなかった。

努力すればうまくいく!

就活のすすめなど本を見てみると、そんなコトバは無かった。
彩夏はここでようやく世間知らずを悟った。自分の。知らずぶり。はじめて男を見るからって運命の恋だと盲目的に信じたような、ながい夢のような、ふしぎな消えていく感覚が全身をそばだてた。

(あ、あれ……? ここって日本だよね)

日本は恵まれた国だ。平和な。豊かな。けれど、教科書にはかかれていない空気が、就活生たちのあいだにピィンと糸をはって伸びる。彩夏もそんな糸を張ってそこを異国にする就活生のひとりになっていた。

(ここ、日本だよね……?)

ひましに疑問は高まった。

テレビで見たもの、音楽で聞いたもの、見たもの、どれともちがう。
唯一、同世代のインフルエンサー的な子たちのSNSが拠り所であるが、そんな立場であるからか、その子らは雲の上の糸を持っているようだった。

彩夏たちがつなぐ、このピィン、としている糸とはちがう。
こっちは蜘蛛の糸でいまにもちぎれる。

(ここ、日本)

まるで、異国の地のようで、就職活動をしてみるとどこの企業も難しかった。見るからに真っ黒い会社が内定を出してきて、それだけ、日本の会社ってこんなものだったか。

ここは、どこの国の地面だ?

聞かされてた話と、現地のホテルが実際には別物だったみたいな。親の言うこと。先生の言うこと。国の言うこと。ぜんぶちがう。

いつしか、Z世代と、向こうが先に線引きをはじめた。
彩夏は、終わりのはじまり、と、自分のSNSに殴りがいた。

Z世代。なんという名か。Zには次が無い。線引きするやつらは、わかっている。

わかっていて、私たちを騙した。
夢の国、黄金郷、そんなおとぎ話に運好く産まれてきているって。そんなの、線引きされたなかで、さらに線引きしてある、一部のやつらだけの話。

こちらの側は、うえたけものとなり、奪い合うだ。
これが日常なのだろう。

彩夏たち、彼女たち、私たちの日常。
新世界のはじまりだ。


END.

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