人魚姫は外(と)つ国(くに)

基本、皆、いや全匹が外国人である。いや外来魚である。

だがこの人魚姫はたまたま産卵と孵化が日本海であった。日本産、日本の人魚と呼べうる存在だろう。だからと、日本人魚は特別な存在でもない。ただただ日本で生まれた、そんな事実が土台にあるだけ。ただ、生まれて百年ほどは日本海を漂い、日本人の棲息を見てきたので、彼女はくちを酸っぱくして警告するようになった。

曰く、

『寿司に 気を つけろ』

やつら、なんでも寿司にして食うぞ。タコでもカニでもウニでも食うぞ。美味そうに海産物を食いまくるぞ。人間たちのあいだでは黄金の国・ジパングと大きな夢を抱かれるその時代、人魚たちの間では、日本は恐るべきブラックホール的な食欲の権化として悪名をとどろかせた。

のちに、人魚たちのうち、魔術を使って陸地に進出したグループも現れた。彼女たちは、悪名高きジパングについて、これまた違う情報をもたらした。

曰く、

『寿司 うまい』

外(と)つ国(くに)人魚も日本人魚も地球全土の人類たちも、情報戦争はどこででも勃発する、という事例のひとつである。


END.

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